馬鹿な男
ミケ視点です。
ゴブリンには、溺れている人間は簡単に手に入る食料に見えます。
東1地区を巡回して2日。
冒険者の野営準備跡を見つける。
ゴブリンなどに踏み荒らされた感じはない。
状況からして[至高神の剣]のものだろう。
(食料と金目の物が持ち去られている。)
内紛かもしれない。
だが、それなら誰かしら村に戻ってくるはず。
殺した相手は[事故死した]で済む話なのだから。
「何かわかるか?ミケ。」
仲間に訊かれる。
説明しようと口を開きかけた時
「死体がありました。」
赤毛の報告が入った。
酷い臭いと飛び回る蝿。
転生者は祈祷をしているが顔色悪い。
赤毛は池を見て思案している。
池に浮かぶ膨れた死体を回収したいのだろうか?
「死体が3つ。しかも女のは、どうやら内臓が喰われている。」
「何かが這った跡もある。」
「残り2人は行方不明、いや連れ去られたか……。」
仲間が言う。
「あの、地面に文字が……」
祈祷を終えた転生者が地面を指さしている。
死んだ魔術師の手元。
〔スキュラ〕
そこにはそう書かれていた。
「魔獣スキュラ。」
「水陸双方で活動出来る上半身が人間の女性、下半身が複数の蛇と触手の化け物。」
「蛇と触手で戦う他、魔獣らしく[中魔法]も使う。」
私の説明にパーティーメンバーは聴き入っていた。
転生者は「ウイキみたい」
と言った。転生者特有の表現か方言だろう。
「生息数は多くない。」
「肉食で手に入れば人間も食べるが主食は手に入りやすいゴブリン。」
「人間の上半身で獲物を誘い近づいたところを捕食する。」
「15〜20年に1度繁殖期になると、雌雄同体になり、自家受精で増える。」
「近づかなければ、無害な魔獣。」
「それが馬鹿な男は近づいちまうんだよ。」
仲間が笑いながら言う。
「溺れてる女の子は助けに行っちまう。服着てようが裸だろうが関係ねぇ。そうだろデグ?」
何故か禿頭は頭のてっぺんまで赤くなっている。
転生者はいつもどうり交信中。
愚かさは男もゴブリンも大差はない。
「さて、日が暮れる前に、この跡を追ってゆこう。油断はなしだ。」
仲間の言葉に全員頷いた。
私の黒歴史がまた1ページ。




