上級魔族
キャプテン視点です。
「殺られたゴブ、全滅ゴブ」
東の村に派遣した第一部隊、第二部隊壊滅の報がもたらされたのは北の村への総攻撃直前だった。
報告役として付けていたゴブリンシャーマンが僅か5体の生き残りを連れて戻ったのだ。
「何があった?」
多少は逃げたにしろ、流石にゴブリンロードが指揮する100体からのゴブリンが6体しか戻らないのは異常だ。
大陸から援軍でも送られて来たか?と勘ぐるが、今の季節は航路は閉じている。
「赤黒い目玉の魔獣が現れたゴブ。光を浴びると焼かれるゴブ」
魔獣だと?
確かに鈴木家は魔獣開発で士爵位を得た家柄ではあるが、莫大な資金のかかる魔獣の開発を続けていたのか?
それとも、今まで隠匿していたのか?
「第三、第四、第五、各隊に伝令を出せ!北の村への総攻撃は中止。東の村方面に移動しろと。」
取り急ぎ指示を出した後、考える。
まず魔獣開発の継続はあり得ない。
東の村の領主、いや領主代行だったか?に資金はない。
では隠匿か?
これも不自然だ。
今、このタイミングで魔獣の存在を明かす意味がわからない。
では封印されていたか?
これなら、つい最近何らかの理由で偶然封印が解けた可能性はある。
しかし、光を発する目玉の魔獣か……。
里で、もう少し学んで置けばよかった。
全く想像がつかない。
だが、分かる事もある。
北の村を壊滅させて、東の村に降伏を迫る戦略は成り立たなくなったという事だ。
強力な魔獣が居る限り、北の村が滅びようが東の村は交戦を断念しないだろう。
では、どうするか?
魔獣による犠牲を厭わず、東の村を攻略して港と外洋船を押さえ、航路が開き次第脱出する。
魔獣が強力で歯が立たないとしても、ゴブリンが間引きされるなら、最悪、しばらくは島の安定は保たれるから時期を待つ事が出来る。
「東に進路を移す。途中、第三部隊と合流し、後続を待たずに、攻撃を開始する!」
直轄の第六部隊に命令を下した。
予想どおりなら夕方には東の村に着くだろう。
☆☆☆
「かかれ!魔族は捕らえろ!」
東の村に着いた俺は合流した第三部隊のゴブリンロードに攻撃を命じた。
第四、第五、が着くのは一刻から一刻半かかるが、魔獣攻略の基本は数で消耗させるのが基本戦術。
人間族は人間を、妖魔族はゴブリンを使い捨て魔族の率いる魔獣に対抗してきた。
そして魔族を捕らえるのは、相手が上級魔族だった場合、交渉を期待出来るからだ。
こんな島では使え無いが、上級魔族は金になるし譲歩も引き出せる。
下級魔族は人間と変わらないが、上級魔族は我ら妖魔で言えば族長の血族、人間で言えば貴族の様なもの。
殺してしまうのは惜しい。
だが、悲しくもゴブリンに魔族の上級、下級の区別はつかない。
だから取り敢えず魔族は捕らえさせる。
無論、上級魔族の戦闘力は伊達ではないから、海賊時代には結果として殺してしまうという場合が多かったが。
「グギャ、ギャー」
前方で悲鳴が上がり、畑から炎があがった。
「ギャー、ギャー、ギャー」
そして、炎に包まれたマンドラゴラが断末魔の悲鳴を更にあげる。
!?
何が起こっている。
「ま、魔族ゴブ、魔族が現れたゴブ」
逃げてきたゴブリンは完全に混乱しており要領を得ない。
分かったのは第三部隊の指揮が崩壊した事ぐらいだ。
やはり数がいても、ゴブリンで戦いは出来ないか……。
内心、舌打ちしながら指示を出す。
「第六部隊前進、第三部隊を支えるぞ。」
周りのゴブリン達が雄叫びを上げて前進を始めた。
そして、俺も魔術で姿を消し(使1残5)前に進む。
情報が足りない。
不可解な事が多すぎる。
☆
走り出したゴブリンに紛れ森を抜け、マンドラゴラ畑に入った。
マンドラゴラ畑は半分弱が燃えていて、断末魔の悲鳴を浴びて死んだゴブリン達が彼方此方に転がっている。
やられた。
魔族はマンドラゴラを罠替わりに使い畑に侵入したゴブリンを壊滅させる作戦に出たのだ。
第三部隊を任せていたゴブリンロードも血泡を吹き死んでいた。
そして、畑の隅にある農作業小屋の屋根の上では赤黒い目玉の化け物に、神官着を着た魔族が魔力補充をしている。
事前情報では、領主代行には魔力に優れる養女が居ると聞いていたから、あの神官着が養女だろう。
まだ幼いとも聞いていたが、魔族の年齢は我らダークエルフと同じく見た目では測れないから、魔族としては若いのだろう。
「ミーン」(使1残59)
屋根から降りた目玉の化け物がネコミミの様な物を立て、農作業小屋めがけて前進していたゴブリン達に光を放った。
ゴブリン達は焼かれ、薙ぎ倒される。
魔獣の力は想定以上だ。
とてもでは無いが東の村を制圧など出来ない。
第四、第五、部隊と合流し作戦を立て直す必要がある。
「退却せよ!」
エルフ語で叫び、退却を始めた。
一言叫ぶぐらいでは魔術は途切れ無いが、魔獣の怪光線を恐れ少し横に移動する。
と。
乾いた音がして、俺は地面に口づけた。
血が喉に迫り上がってきてむせる。
背中から胸にかけて熱い。
なんとか立ち上がろうと藻掻くが、どこか遠くで、乾いた音が響いた。
私の黒歴史がまた1ページ。




