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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第17章 聖女の不在

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阿鼻叫喚

視点マドウです。

出陣式の翌日。

偵察していた村人の報告どおりにゴブリン達が畑の側に近づいてきた。

竜人の村人には忍び崩れが混じっているようだが、公然の秘密なのだろう。


レイカは聖印に魔力を通して農作業小屋の屋根に上がる。

小屋は普段、収穫したマンドラゴラを水洗いしたり、干す準備をする為に使用するそうだ。


(うーん、飛べるのは便利だぞ)


どうやらレイカはオリハルコンの使い方に慣れたらしい。

島に着いた時は「人間は空を飛べないんだぞ、マドウ」 などと話していたが、今では飛べるのだから落とし穴の心配はせずに済むだろう。


とはいえレイカは魔術を学んだわけではなく、天然そのものなので油断は禁物。

屋根のない所で魔力の加減を誤ればとんでもない飛び方をするからフォローする方法も考慮しておこう。


(むぅ、なんかディスられてる気がするぞ、マドウ。)


「気の所為だ。村人達と共にゴブリンを追い散らす。先鋒さえ叩けば臆病なゴブリンは逃げるが油断するな、レイカよ。」


(む、むぅ)


なんとも頼りない相棒だ……。


☆☆☆


竜人と下級魔族からなる自警団達は農業用フレイルや手槍など粗末な武器を手に小屋の少し前に陣取り、更にその前に赤左衛門が待機している。


ゴブリン達は森に潜み攻撃タイミングを計っている様だ。

統率の取れた動きからして、ゴブリンロードが何体かいるだろう。

指揮者がいるとなるとゴブリンの集団も簡単な作戦ぐらいは立ててくるかも知れない。


「レイカ、号令をかけるぞ。」


レイカに指揮を執る為の助言をしようとすると、何体かのゴブリンが畑に駆けて入り、おもむろにマンドラゴラを引き抜いた。


「ギャー!」


マンドラゴラを引き抜いたゴブリンと、その近くのゴブリンが血泡を吹いて倒れる。


(え?どうなってるの?マドウ。)


「あれがマンドラゴラの魔力放出だ。血泡を吹いているゴブリンは、ほぼ即死だろう。」

レイカの問いに反射的に答える。


(即死って、ゴブリンってバカなの?)


愚かなゴブリンとはいえ、確かに予想外だ。

だがその後の光景は更に信じられなかった。

後からきたゴブリンが死んだゴブリンからマンドラゴラを奪うと噛ったのだ。


「レイカ、ゴブリン共は相当に飢えている。これは一筋縄ではいかんぞ」


追い詰められた人間同様に飢えたゴブリンは臆病さがなくなる。

先発隊を皆殺せば追い散らせると考えていた作戦に早速齟齬が生じた。


(うーん、戦場で予想外の摩擦は起きるって前にロバートさんが言ってた。序盤なら意外な指し手が来ても慌て無ければ返し様はあるよ。)


レイカが作業小屋で立ち上がり叫ぶ。


「赤左衛門、照射三連後突撃!みんなは近寄るゴブリンだけ攻撃!前に出ては駄目だよ」


「ミーン」

「ミーン」

「ミーン」(使3残57)


赤左衛門が魔力変換レーザーを連射する。

それだけで、10体以上のゴブリンが焼かれ、焼き切られ倒された。

ゴブリン達に動揺が拡がる。

そこに赤左衛門が突進して、更に混乱を増した。

戦場の中央を支配するのは死を撒き散らす赤い魔獣だ。


「予定変更ゴブ!全軍前進、村に攻め入り、乱取り許可するゴブ!」


左翼方向から声がかかった。

すかさずレイカが妖魔筒ライフルを放つ。

ゴブリンロードは体格的にはゴブリンリーダーと変わらない為、見た目だけでは指揮者がわからなかったのだ。


乾いた音とほぼ同時にゴブリンロードが倒れ、ゴブリンの足並みが明らかに乱れた。

レイカは畳み掛ける様に、体格の良いゴブリンを狙撃して行く。


だが、こちらの自警団にも混乱が生じていた。

混乱したゴブリンが村や、作物畑に突進して行き、それに釣られた自警団員も足並みを乱したからだ。


「取り決めどおり、ニコイチで行動するべ!」


「こんの!畑さ荒らすゴブリンめ!容赦はせんぞ!コラ!」


「ギャー」、「喰うゴブ」、「殺すゴブ」


「逃げるゴブ!」「熱いゴブ」


「ミーン」


怒声と悲鳴、混乱に狂気。

太古より大なり小なり戦場で繰り広げられてきた阿鼻叫喚がマンドラゴラ畑で繰り広げられる。


(マドウ、ゴブリンの足並みが更に乱れたよ。赤左衛門が指揮者を倒したみたい。)


「拡声魔術で勝鬨を上げろ。多分それでゴブリン達は逃げ出す」


五月雨式に続いていた戦闘に区切りをつけさせる様にレイカに叫ばせた。

離れていた赤左衛門も何時しか近くに戻り、散発的にレーザー照射を続けるだけになっている。


そして午後には戦闘は終結した。


☆☆☆


戦闘が終わり、領主代行の指示の元で合戦の後片付けをしている。

今、居るのはマンドラゴラ畑の外れに作った死体置き場だ。


合戦の結果、畑にはそこそこの被害が出た。

ゴブリンに踏み荒らされたマンドラゴラ畑は収穫が落ちるだろうと言う。


次に人的被害だが、こちらの人的被害は重傷者数名で、レイカの治癒により、実質無かったのに対し、集めたゴブリンの死体は推定80以上になった。

推定と言うのは赤左衛門に倒されたゴブリンは原型を留めない死体が多かったからだ。


(むぅ、アンデット化防ぐ為とはいえ、集めると酷い臭いだぞ、マドウ)


「まとめて祈祷した方が効率的だろう?それに明日には北の村に転戦だぞ。」


赤左衛門は使った魔力を補うため味噌樽に浸かっている。

偵察によれば北の村には150からのゴブリンが迫っていて半包囲を築きつつあるらしい。

こちらと違い見張り台や柵など設けているそうだが、北の村自警団40名では心許ない。

領主代行は、レイカと赤左衛門に20名の東村自警団を付けて後詰めを出し決戦する作戦を立てている。

小舟による輸送計画の出発は明日だ。


レイカの隣には魔族の花江が付いてまわり、祈祷の手伝いをしている。

どうやら、魔族の小娘は大地母神神官になりたいらしい。

貴族のする大地母神の見習いの髪型をして、レイカと交換した聖印を茶色紐に通している。


レイカのどこに聖性を認めるのか理解出来ないがレイカを見て信心を抱く者は多いらしい。


[死神]は、ほくそ笑んでいるだろう。

竜の島のリザードマンと猫達に大地母神信仰が増えているとルチェとか言うリザードマンがデポに告げていた。


と、


「かかれ!魔族は捕らえろ!」

森の中からエルフ語の声が掛かる。

ゴブリン達の鬨の声が森から響く。

100体のゴブリンが先鋒の囮だったか?

完全に奇襲を許した。


(やられた。逃げるよ!)


レイカは花江を抱きかかえると、オリハルコンに魔力を注いだ。

ゴブリン

いわゆる普通のゴブリン。

ゴブリンリーダー

経験と体格に優れる普通のゴブリン。わずかに指揮能力がある。見た目ではゴブリンロードと区別がつかない。

ゴブリンシャーマン

妖魔の書にアクセスされたゴブリン。妖魔魔法を使う。

ゴブリンロード

稀に生まれるゴブリンの上位種、指揮能力があり通常は自分の部族を率いる。

部族を率いてゴブリン同士争うのは人間と変わらない。

ゴブリンキング、ゴブリンクイーン

極稀に生まれるゴブリンロードの上位種。

ダークエルフと同じくゴブリン達を取りまとめる能力を持つ。

歴史上の記録に、キングとクイーンが一度づつ現れた記述が残る。


私の黒歴史がまた1ページ。

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