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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第17章 聖女の不在

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出陣式

視点……です。

村長に呼ばれて代行様の鈴木館の中庭に行くと、[聖女]様が筒の様な物を持ち、目玉の化け物を従えて待っていた。

傍らでは代行様が旧魔王軍の軍服を身に付け直立不動でいる。

遠い昔には代行様も軍人だったらしいとは聞いていた。

そして赤茶けた見知らぬ目玉の化け物は静かにこちらを見つめている。

時折動く猫の耳の様な物は何かを探っているかの様だ。


「この村で戦える者は約30名。以前は怪我を恐れゴブリンに押され気味でしたが、治癒の出来る[聖女]様がいれば100のゴブリンとも互角に戦えるでしょう。」

我々竜人の村長が代行様と[聖女]様に説明をする。

大将たる代行様は厳しい顔でただ立っているだけ、[聖女]様と違いうなずきもしない。

目玉の化け物は[聖女]様が頷くのと同じタイミングで片耳を動かしている。


先日現れた[聖女]様を除けば、この島には神官も司祭も居ない。

竜人は竜の道を歩める様に竜を信仰するのが普通だし、魔族で信心深い者はいるが、啓示を授かった者はいなかった。

下級魔族を含めても、純粋に頭数が少ないからだろう。

代行様は医術と薬学を修められているが、礼拝部屋を物置に使う程、信心はさっぱりらしい。


「この子、[赤左衛門]が居れば無理に勇敢に戦わなくてもゴブリンに勝てると思うよ。普通の武器では刃が立たないから」


[聖女]様が士気を気にせずに語る。

代行様も[聖女]様も戦事には向いてない様だ。

普通は士気を上げる様にもう少しマシな

事を語るだろう。


「だから、慎重にいこう。ゴブリン退治に勇敢さはいらないよ。作戦を説明するね。」

[聖女]様が作戦を説明し始めた。


☆☆☆


魔族らしく空中に図を描いて説明された作戦はシンプルな物だった。

合戦場は一番村外れのマンドラゴラの畑。

[聖女]様は農作業小屋の屋根に陣取り、その少し前で20名の村人がゴブリンを引き付け迎え討つ。

そして[赤左衛門]と[聖女]様が呼ぶ目玉の化け物が中央突破してゴブリン達を倒してまわる。

10人は村で待機し、合戦場からハグレたゴブリンが直接村に向かった場合に対応するというものだ。


最初、魔族側の農民がマンドラゴラ畑での合戦に難色を示した。

だが畑の先、森の中で戦うのは無理だろう。

森の中ではゴブリンの方に地の利があるからだ。

とはいえ村近くまで引き込んで戦うのは危険過ぎる。

ゴブリンに雪崩込まれてしまったら、女子供に犠牲が出てしまう。

それに我々竜人の本音としても、自分達の畑では合戦は避けたい。


「[聖女]様、ゴブリンは100匹からおるで、20人では囲まれて終わりでねえか?」

作戦への疑問点があるかと問われ、我々の一人が不安に思っていた事を口に出した。


「確かに完全に包囲されたら、マズイよ。ただ赤左衛門のレーザーと突破力で、ゴブリン側を掻き回すから、包囲殲滅にはならないかな。」

[聖女]様は目玉の化け物に随分自信がある様だ。

傍らの魔獣を手のひらで軽く叩く。


「だども……」

と、更に反論しようとすると、突然元々浮いていた目玉の化け物が、更に浮かびあがった。

そして、こちらを見ていた瞳を紅くする。


「ミーン」(使1残59)

少し上を向いた目玉の化け物から、強烈な光が上空に放たれた。


「ひぇー」

[聖女]様と話していた男は腰を抜かし、中庭にいた他の者は自分も含めて驚愕している。

平然としているのは大将の代行様だけ。[聖女]様は「熱っ」と飛び退いていた。


「魔獣左衛門の実力は見ての通り。接近するゴブリンを蹴散らしたら、北の村に転戦する。[聖女]様、指揮はお任せします。」

代行様はそう告げると、館の方に一人歩き始める。


「むぅ」と聖女様は小さく唸った。

「マドウ、私、戦いの指揮とか初めてだよ」


(大丈夫だ、寄せ集めの兵に作戦も何もない。前に魔術師ブレナが言っていただろう『訓練してない兵にはタイミングを見て行くか引くかを伝えるのが指揮です』とな。今回はそれすらないだろう。)


「ホントに?それだけなの?」


(良く戦記物語で華麗な采配など書かれているが、余程、訓練している兵でも無ければ複雑な用兵など出来ない。挟み撃ちぐらいの戦術でも、通信機もなくタイミングを合わせるには訓練が欠かせない)


(今回は赤左衛門を騎兵換わりに使う冷夏の戦術が出た時点で指揮官としての役割は済んでいる。どこで学んだ?)


「『戦車は砲では無く騎兵』って、前世のお師匠様が言ってた。」


私の黒歴史がまた1ページ。

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