通信機
冷夏視点です。
馬車での出迎えではないのは、島には馬がいないからです。(経済的でない為)
島にいる家畜は豚ぐらいです。(家禽はいます)
「ようこそ鈴木島へ。歩き巫女殿」
私達が港に着くと、古風なドレス姿の魔族さんが港まで迎えに来ていてびっくりした。
昨夜のうちに村長の使いの竜人さんが、知らせていたらしい。
竜人さんが和風の漁民の姿をしている中で簡素とはいえドレス姿なので目立つ。
操船していた竜人さんも驚いている。
「鈴木島の領主代行、鈴木水江です。領主の士爵、鈴木土江は姉にあたります。」
「鈴木冷夏です。」
うーん、名前からすると、鉱山で見たミイラさんの妹さんらしい。
デポさんと同じ古魔族だ。
(魔族はハイエルフと同じで寿命がない。更に、ある程度で老け止まるから見た目では判断つかない。いつ老け止まるかはランダムらしいがな。)
「同じ、鈴木姓とは珍しいですね?まずは館へどうぞ。歓迎いたします。」
歩き始めた領主代行さんに、私は慌てて付いて行った。
☆
私達が歩いていると、住民が道を開け頭を下げる。
魔族の集落と聞いていたが、半分以上は竜人が占めており、さらに魔族の人も和風の服を着ている人が、ほとんどだ。
私達の様な服を着ているのは少数派で神官服は聞いていた通り誰も居ない。
「館に着いたら、何故魔族のフリをしているのかと、本当の名前を教えてもらいますよ、人間。」
「確かに話すと長くなるから、それで良いですけど、鈴木冷夏は偽名ではないです。」
「鈴木姓は魔王陛下より賜りし鈴木島の領主の家名。流れ者の人間が名乗れる姓ではない!」
小声で話していたのが、突然大きな声を出したので、周りが驚いている。
「うーん、それを言うなら水江さんは、もう領主代行じゃないよね?」
小声のまま、私はデポさんにもらった短剣を取り出し見せる。
「これは!鈴木家当主の紋章に今上陛下の魔力証明。では、本当に貴女が姉の後継たる士爵。この島の新たなる領主。」
どうやら触れると、魔力証明とかがわかるらしい。
市場でレイカルさんに後から聞いたんだけど、あの時に私は魔族の領土持ちの士爵に任じられたそうだ。
「なんということ、デポトワール閣下から、姉の死亡確認は伝えられましたが、この島の領有は継承はされるものとばかり……」
「!?、デポさんと連絡取れるの?」
今度は私が大声を出し、再度周りが驚く。
住民さん達の遠慮がちながらも、不思議そうな視線に居心地が悪い。
どうやら水江さんも同じ気分の様だ。
「館に帰ってからの話にしましょう。歩き巫女殿。」
「その方が良さそうですね。」
何故か二人して笑った後、私達は少し早足になった。
☆☆☆
鈴木館と呼ばれる領主さんの館は、想像より大きかった。
昔のドラマなどで見た貴族が住む様な感じの館だ。
周りが和風だから幕末の外国人居留地みたいになってるけど。
ただ、そこに住むの魔族は水江さんと養女の花江ちゃんだけ。
後は使用人の竜人老夫婦が住み込みで居るだけだそうで、館に入る時に簡単に紹介された。
花江ちゃんは見た目は10〜12才ぐらいの女の子だ。
「義母上、お客様ですか?」
「ええ、そうよ。これから大切な話をするから、[離れ]には近づいてはいけません。婆やに客間と夕食の準備を伝えて。」
「はい、義母上」
花江ちゃんは離れてゆくが、右足を少し引きずっている。
長めのスカートを履いているから、あまり目立たないが間違いない。
「ちょっと待って、足はどうしたの?」
「気になさらずに、花江を養女に迎える事になった事故の後遺症です。ハルピア辺りの大神殿で大金を積まない限り治りませんから。」
でも、気になるよ。
「うーん、少し待って下さい。すぐ行きます。」
「花江、歩き巫女殿を花摘み場に案内してあげて下さい。その後、[離れ]に案内を。」
なんか勘違いされたみたいで、水江さんは先に行ってしまった。
「ちょっと足を見せてくれる?」
自惚れかもしれないが、私でも治せるかもしれない。
ハルピア辺りでは、そこそこの治療神官のはずだから。
(レイカ、流石に[聖女]でそこそこなはずあるまい。)
そこそこだよ、マドウ。
アヤメの知識量とか、厶ゲ、鈴蘭さんとか見てるからね。
私はマドウカンニングが無ければ、医療知識など欠片もない。
花江ちゃんは神官着の威力からか、足を触らせてくれた。
(うむ、膝の骨が抜けている。神力10も使えば再生出来るから治るぞ、レイカ)
マドウは簡単にいうが無くなった肉体再生などは神力がかかる。
だから普通は何度にも分けて治す。
つまり時間と、お金がかかるから諦める人がほとんどになる。
でも、今は歩き巫女だし遠い島だから良いよね?
「大地母神よ、この者の膝骨を再生し、傷を癒し給え」(使10残46)
「あれ?普通に歩ける。ありがとう、神官様。えーと、トイレはこっち。」
私は用を足した後、離れへと向かった。
☆
[離れ]に着くと私はデポさんから借りた変装用の魔道具の事、レイカルさんの事などを包み隠さず話した。
この島に来た経緯も偶然だと伝えたが、水江さんは半信半疑の様子でデポさんに確かめたいと言う。
確かに突然来た知らない人が「この島の領主です」なんて信じる方がどうかしている。
しかも魔族の姿に化けた人間だし、逆の立場なら詐欺を疑う。
もし本当でも転移事故で死亡してましたと報告すれば……ん?
水江さんが机の上に置いた小箱から小さな水晶玉みたいな物を取り出した。
そして一昔前のラジオみたいなものにセットする。
「ツチエノシボウ、カクニンセリ、シマノトウチハ、ヘイカノサタヲマテ、デポ」
そして、その古いラジオみたいな物から雑音と共に、いかにも合成しましたと音いう声が流れた。
なんだろう、これ?
「通信自動翻訳機です。受信内容を自動で録音して音声化してくれます。」
水江さんが説明してくれたけど、良くわからない。
「送信機はこちら、この辺境の島にある唯一の魔導通信装置です。魔力の関係で長文は打てません。」
そのラジオモドキから、線で繋がった何か固定された金属のバネみたいな物が出て来た。
これで決まった信号の長短を発信し通信が出来るという。
うーん、なんだろうこれ?
(レイカ、異世界ではモールスとかいうと聞いたぞ)
え!モールス信号機なのこれ?初めてみた。
トン、ツーで通信出来ると知識ではあったけど……。
それになんか、そう、なんか違うけど。
「スズキナノル、フシンナジンブツテンイセリ、シンギヲトウ、ミズエ」
うん、疑われてるよ。
「デポトワール閣下に通信を送ります。私が打ちますから、一文だけどうぞ」
でも、いきなり勾留とかされないし、親切なんだよね。
「ブジデス、ショウユタノシミデス、レイカ」
うーん、通じるだろうか?
と、外から、お爺さんの声がする。
「代行様、緊急にございます。村民が『今日来たお客人を出せ』と、押しかけております。」
ええ?
「前にポンコツさんが研究所を画像見ながら、遠隔操作してましたよね?それに人間の魔術師ギルドは預金データをやり取りしてますよね?」
「そうですよ〜人間の魔術師ギルドは〜大魔法による魔道具で〜データネットワークを作成してますよ〜」
「ポンコツさんの方はどうですか?」
「何故〜軍事機密を知ってるのかは〜さておき〜重要拠点には〜最新の通信魔道具配備してますよ〜」
「重要でない辺境にはモールス魔道具ですか?」
「それでも〜軍事に限りますが〜魔族の通信網は〜発達してますよ〜人間には郵便さえありません〜手紙は冒険者を雇うレベルですから〜」
「お師匠様の前世では、民間でも普通に動画で通話出来るそうですよ?」
「だからこそ〜至高神教団の一部は〜転生者を捕らえては〜知識を搾り取ってるんですよ〜」
私の黒歴史がまた1ページ。




