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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第17章 聖女の不在

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聖女の不在

アウト視点です。

改めて用語解説

[魔族殺し]

一定以上の魔力に晒されると爆発する魔道具。

魔王戦争時に対魔族用に自爆兵器として開発された為[魔族殺し]と命名された。

ただ実際には魔族や魔獣よりも人間を多く殺している。

今日のハルピアは蜂の巣を突いた様に騒がしかった。

先日、至高神正統派と言うカルト教団が妖魔神官を装った謎の人物に襲撃を受けて壊滅したらしいが、その残党が蹶起けっきして無差別テロを起こしたからだ。


至高神聖王国派、至高神聖神派、そして妖魔教団の神殿で[魔族殺し]による爆発騒ぎがあり死傷者が多数出た。

また、さらに市などの人混みで[無作為転移の珠]が複数使用されて行方不明者も多数発生している。


ハルピアの治安傭兵は臨時雇いの冒険者まで招集され治安回復に当たっているが、それでも人手が足りない。

そんな訳で大地母神のハルピア神殿警備の傭兵として働いている非番だった俺にも招集がかかった。


「アウトさん。[魅惑の伯爵夫人]に出向いて下さい。[聖女レイカ]様が転移に巻き込まれたと言う噂があります。確認をお願いします。」


神殿の道場では無敵で鳴らす、神官戦士長、[怠惰のリリ]に、そう命じられては断れない。

俺は夕飯を期待しながら[魅惑の伯爵夫人]に向かった。



有名料理店で冒険者の店でもある[魅惑の伯爵夫人]では飯どころか挨拶も、そこそこに奥の部屋に通される。

中には世話になった冒険者パーティの[竜の卵]と店主の魔族デポが居た。


いや。


正確には[竜の卵]の[聖女]だけが居ない。

その雰囲気は、まるで告別式の様な感じだ。


「あの時、無理してでも皆殺しにしておくべきだったっす。あっしのミスっす」


チャガラがドワーフの火酒を煽って呟く。


「悲観は駄目でス。無作為転移の死亡率は三割でス。」


だがそう言うリザードマンの魔術士もグラスの火酒を舐めている。

リーダーのデグだけが素面しらふで黙って座っていた。


「噂は本当だったようだな?」


声をかけた俺に店主のデポが答える。


「弟子のレイカルと共に〜市で巻き込まれました~狙われた訳ではなく〜偶然です〜」

この店の看板店員の魔族も転移してしまったらしい。

そう言えば、部屋の外では椅子ゴーレムと竜人の店員が忙しそうに働いていた。


「だが冷夏が巻き込まれた事実は変わらないっす。冷夏あっての[竜の卵]っす。解散はしなくとも暫くは休業っすよ。」

茶殻は一度竜の島に戻ると言う。


「レイカ様が生きていれば転移魔法で、戻られるはずだ。」

今まで沈黙していたデグが呟く。

口調がいつもと違う。


「それは違いますよ〜転移魔法は一度使うと〜距離によって〜3日から10日は再使用出来ません〜術者と時空の結びつきが〜不安定になるからです〜」


「普通なラ、無作為転移の平均再会時間は一年後でス。[冒険者の店ギルド]の統計でハ死亡が三割、行方不明のままを含めるト、五割が帰りませン」


店主が不安をやわらげるつもりなのか、いつもの口調で話す。

だが、リザードマンがそれを覆す様に冷酷に告げる。


「自分もハルピアを離れる」

そう言って席を立つデグを俺は留めた。


「それは待ってくれ、神官戦士長から聖戦士全員に招集命令が出ている。それに[竜の卵]宛に、大地母神殿から依頼書を預かってきた。」


「それは直ぐに〜精査します〜ペティに何か作らせますね〜」

店主が急ぎ部屋を出て行く。


その直後、部屋の片隅が光った。



「ただいま、戻りました」


俺も含めたリザードマン以外の3人に武器を突きつけられた魔族が平然と告げる。

そこに居たのはこの店の看板店員のレイカルだった。

噂には聞いていたが、雰囲気がやばい。

何となく下腹のある部分に力が入りそうだ。


部屋の外から竜人と椅子ゴーレムが食事を持って入ってきたが、流石に驚いた様子を見せた。

テーブルに乱雑に食事を置くと竜人は店主を呼びに行く。

逆に落ち着いた様子でレイカルは食事を配膳し直した。


大地母神殿では良く野菜の[ごった煮]が出るが、この店では同じ様な野菜の煮物でも[エチュベ]と名の付く段違いの料理になって出てくるから不思議なものだ。


「戻ったのですね~レイカル〜」


店主が部屋に戻り、レイカルに質問をしてゆく。

[聖女]は転移直前に武器、装備は掴んでいた様で、無手で放り出される心配はなさそうだ。

後、致命的な場所に転移するかは運次第でしかない。


「お師匠様には大地母神様の加護があるので、大丈夫だと確信しています。」


落ち着いた少し低い声で、話すレイカルは、本物以上に[聖女]感が溢れている。

そして清楚でいて、淫靡な佇まい。

魔族でなければ、帝国皇帝の妃の1人か、聖神派の大司教の愛人にされていただろう。


「事態が落ち着くまで〜大地母神殿が〜[竜の卵]を雇用したいそうですよ〜日当は1人頭銀貨4枚〜女性陣は泊まり込みで〜経費と食事等は別〜」


「レイカルも〜[聖女]の弟子として〜[聖女]の失踪を〜誤魔化して下さい〜」


[竜の卵]は暫く話し合ったが、依頼を受ける事に決めた。

逃亡するテロ教団の残党を討ち、ハルピアに広がる動揺を治める。

[聖女]ならばそうしただろうと、レイカルが静かに熱弁を振るったからだ。


「お師匠様程ではありませんが、微力を尽くします。」

そう断言するレイカルを前に最初は渋ったデグも折れた。


世界にバラ撒かれた人間が生きて戻るかどうかは完全に運らしいが、[聖女]の影響力は遠くにあっても確かにある様だ。

[魅惑の伯爵夫人]は冒険者の店ですよ〜料理にも〜こだわってますけど〜」


「デポ様?どうしたのですか?」


「一部表現に〜誤りがあったので〜」


「(世間一般の認識では誤りはないですが黙っておきましょう。それにエチュベの技は大地母神殿でも使えそうですからペティさんから盗んでおきますね)」


私の黒歴史がまた1ページ。


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