それぞれの夜
[竜の卵]まわりの視点です。
今回☆☆☆ごとに視点が変わります。
それぞれ誰の視点か分かりますでしょうか?
分かった方は感想にご記入下さい。
正解しても何も出ませんが、作者が喜びます(笑)。
私が初めてハルピア神殿来た時は名家から追放された腫れ物扱いでした。
そして啓示を受けていた貴族なのに上級神官ではなく普通の神官として扱われ屈辱を覚えたものです。
それが[聖女]様と出会い、紆余曲折を経て上級神官になり、今回は何故か神官戦士長として迎えられました。
ハルピア神殿の神官戦士長は前任者が至高神教団から金銭を貰い、更に発覚して斬り殺されてから空席になっていたのですが、今回私が就任する事になったのです。
剣は嗜み程度の腕前なのですが大丈夫でしょうか?
訓練では強いと言われた事ありますが、師がくれた免許皆伝は忖度だと思っています。
ハルピアに着いて早々、ソルシェさんは歩き巫女資格を活かして姿を消しました。
刺客を恐れていた様なので、港から聖王国行の船に乗った事しかわかりません。
途中下船するのか、大地母神殿の影響力の薄い聖王国まで行くのか、どちらにしろ私が知る事はないでしょう。
アウトさんは傭兵になる様です。
デグさんに[竜の卵]に勧誘されてましたが、断わったと聞きました。
「話を聞いたが、[聖女]付き冒険者は命がいくつあっても足りない。」
確かに[聖女]様に絡み、私も何度も死んでしまいそうな目に遭いました。
ただ私が保証人となり、大地母神殿から購入した魔剣代金分の借金があるうちはハルピア神殿が警備傭兵として雇う様なので顔を合わせる機会もあると思います。
大地母神様の啓示を受けて聖戦士になってくださると良いのですが。
☆☆☆
情熱を確かめた後、二人で杯を重ねている。
壺に入っているのは軽いワイン。
やはり[魔術と金融の街ニューエン]に彼の想い人は潜伏していた。
勿論、色恋での想い人ではない。
彼の兄を殺した復讐の対象としての想い人。
ミケーネと名乗り、今は冒険者を辞め魔術師ギルドの学園部門中等部の講師をしている。
しかし、魔術師ギルドの職員となると、普通には手が出せない。
冒険者同士なら殺し合いをしても、街中でなければ黙認されるのが普通だけど、魔術師ギルドの都市でギルド職員を襲うのは反逆に近い。
それが狙いで潜り込んだのなら流石としか言えない。
魔術師ギルドに楯突けば預金封鎖もあり得るし、正攻法では手が出せないと伝えると彼は黙って杯を傾ける。
「暗殺者を送る?それなりに費用はかかるけど……」
私の提案に彼は首を横に振った。
「監視だけ頼む」
暗い目をしているのは、復讐心が燃えているからだろう。
聖女様の軛が無ければ、明日にでもニューエン行の船に乗ると思う。
私が彼の錨になれないのは寂しい。
「経費と報酬だ」
小袋に入った金貨を渡された。
私が欲しいのは、そんな物じゃないけど彼と私を繋ぐのは情報とその対価だけ。
夜を共にしても、心は共に居ない。
彼の心の半分には仇のハーフエルフが居て、もう半分には聖女様が居る。
私は彼の杯に改めてワインを注いだ。
半分の月が空に出ていた。
☆☆☆
「魔獣の設計書が大地母神教団に回収されたのは知っています。」
私がそう伝えると、茶殻様は興味なさそうにテーブルのチップを動かした。
「盗み出す必要あるっすよね?」
「いいえ、シーフギルドは大地母神教団と事を構える気はありません。」
大地母神殿から機密情報を盗み出すなどしたら全面的な抗争になる。
間違って[聖女]が敵にまわりでもしたら、至高神聖神派教団の二の舞。
私の首一つでは済まない。
「魔族に報酬の倍返しで済むっすか?」
茶殻様は依頼失敗のペナルティを申し出た。
失敗を出来るだけ、血ではなく金で解決する。
古いシーフギルド幹部には否定的な意見もあるが、今では一般的な手法だ。
[金で解決出来る事は金で解決すべき]
私はシーフギルドは経済的かつ合理的であるべきと考えている。
「いいえ、残念な結果でしたが、ペナルティはありません。逆に報酬は全額振り込むと聞いております。」
二度目の否定をし、魔族からの伝言を伝えた。
「間尺に合わないっすよ?」
茶殻様から指摘されたが、上の意思は私も知り得ない。
いや、大抵の事は私の耳に入るが、知り得たにしても知らない振りをしなくては明日にも港に浮かぶ事になる。
実は茶殻様は失敗していない。
だが[竜の卵]は目的を達しているとは伝えられない。
「私には分かりかねます。」
答えた私を茶殻様は怪訝な目で眺めた。
カジノの制服を着た見習いシーフがチップをテーブルに運んできた。
☆☆☆
会員制酒場、[ブルーブラッド]
限られた者しか入れない店の個室に私達はいた。
「ポンコツさン。これが[試作魔獣の検証]でス」
天才魔獣開発者鈴木の最後の作品。
左衛門改良型の設計書が製本された羊皮紙に丁寧に手書きで転写されている。
私は簡単に目を通したが、やはり発想が違うし、技術も数世代先を行っている。
失われた技術がこれでまた一つ回復するだろう。
「どうでしたか?[聖女]様は?」
「[天衣無縫]でス。恐れながら[陛下]に似ていらっしゃるかもしれませン」
恐れ多いが確かに魔王陛下も、そうかも知れない。
何度か拝謁した陛下の言動を思い起こす。
「そなたの仕事ぶりを竜胆殿には伝えておきます。引き続き[聖女]を頼みます」
「はイ。我らが陛下の為ニ」
私達はグラスを掲げ飲み干した。
この章はこれで終わりです。
ご意見、感想(誰の視点かクイズの答えも)、評価、よろしくお願いいたします。
私の黒歴史がまた1ページ。




