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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第16章 西へ

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331/385

閉幕

ソルシェ視点です。

伯爵令嬢リリ・アルベロが[魔獣左衛門]を討伐したとの報は早馬にて領都に、もたらされた。

数日後アルベロ伯爵が令嬢リリを伴って凱旋し、街は戦勝で盛り上がりを見せている。

一足早く鉱山から離れた私は大地母神殿で歩き巫女の資格を申請し、許可を待っていた。


故郷にはユホ様をはじめ全員死んだと報告が行くだろう。

私一人生きて帰ったら、ユホ様の死の責任を問われかねない。

捨て駒にするつもりとはいえ、騎士ミロウ様の御子息が亡くなり、その守役の祖父も殉じたなか私だけ無事に帰るのは良くない。

故郷の狭い世界には様々な、しがらみが残っている。


突然ざわめいていた店内が静かになった。

食事をしていた店の狭い舞台に吟遊詩人が楽器を持って上がる。

店主か誰かが金を払ったのだろう。

最近流行りの英雄リリを讃える歌が始まる。

吟遊詩人は()()()()()で魔獣を討伐したリリの様子を見てきた様に歌う。

そして共に戦った英雄の仲間()()()()()()()()の事も。

[竜の卵]については歌詞にはない。


そういえば、いち早く送り込まれた奴隷達により、アルベロ第3鉱山は採掘を再開したそうだ。

全滅したユホ様の部隊の事など誰も覚えてはいない。

魔獣討伐で讃えられるのは、生き残ったうえ、さらに統治者に都合が良い者だけになる。



「探したっすよ」


歌が終わり再びざわつき始めた店内。

フードを目深に被り、リザードマン刀を下げた大地母神の下級神官がエールを持ってテーブルの前に座った。

申請していた[歩き巫女の紐]を渡され、明日出発する商隊に同行する様に言われる。

無論、探したというのはウソだろう。


「伯爵あたりでしょうか?『真実を知る者はいない方が良い』と言っているのは。」


「長男っすね。このままでは民の声に押されリリが次期伯爵になりかねないっすから。」


私の問いかけにスラム訛りで答えた下級神官はエールを飲み干す。

傍から見る分には大地母神官達が祝事にかこつけて飲んでる様に見えるだろう。


スラム訛りの話では、アルベロ伯爵の長男はコボルト集落の攻略戦に失敗した。

辛勝と称してはいるが、コボルトの拠点を数か所焼いたものの兵の2割を失っている。

集団運用された[妖魔筒]の威力は恐るべきものだった様で、ゴブリンより弱いコボルト達に散々に蹴散らされたらしい。


「伯爵家と大地母神教団とは話がついてるっす。『リリと()()()()は引き続きハルピア神殿で預かる。魔獣資料の[試作魔獣の検証]と魔剣1本、開放奴隷1人を教団がもらう。他は名誉も含め全て伯爵に譲る。』そんな感じっす。」


「[竜の卵]は、それでよろしいのですか?それに[英雄リリ]を再びハルピア神殿の預かりに?」


魔獣討伐に名を連ねるのは冒険者としては何よりの報酬になる。

指名依頼、引退後の待遇など名声が金銭につながる事からだ。

そして英雄を再びハルピアに体良く追放するのは解せない。


「[竜の卵]は金には困ってないっす。それにリリが領内に留まるのは伯爵も、その長男も困るっすよ」


伯爵は愛人の子を溺愛しており、伯爵位をその幼い息子に継がせたいと噂されている。

また、伯爵の長男は有力辺境騎士や商人達と謀り、そんな伯爵の追放を計画しているという噂もある。

自派に取り込めば有力な英雄だが、伯爵位に近づかれては困るという計算が共にあるのだろう。


「で、()()()()()もハルピア神殿預かりっすよ。真実を広めたり、アルベロ伯爵の勢力圏に戻るのは、お勧めしないっす。」


「ハルピアに着く前にアウルエルグ・グラムに殺されそうですが?」


私が懸念を伝えると、スラム訛りは笑いながら話す。

聞き耳をしていなければ、馬鹿話に興じている様に見える様に。


「アウトは、こちらで話をつけたっす。睨まれる位はするだろうっすけどね。それにアウルエルグは記録上死んでるっすよ」


「そういえば後2人、戦闘奴隷が生き残っていませんでしたか?」


「真実を知らない2人は、ただ解放されたっす。まぁ無一文で解放っすから鉱山で働くしかなさそうっすけどね。」


そして、リリや[聖女]の預かり知らぬところで、事故か喧嘩ですぐに亡くなるのだろう。

大地母神殿という後ろ楯がなければ、真実を知っている私も同じ運命をたどったはずだ。


「大丈夫っすよ。どの教団も裏向きの人材は欲してるっす。才能あるっすから、すぐに話がくるっす。」


私はスラム訛りと共に席を立った。

[竜の卵]の裏向き担当が言うのだから、才能があるのかもしれないが、消されぬ様に振る舞わねばならないだろう。

「老騎士は近日病で去り、その従者達は病死か訓練中の事故(怪我が悪化する)などして死亡するでしょう。傷口に塗るとか、飲ませるとか、警戒してない相手に使える薬は私でも山程知っていますから……。」

「独り言っすか?冷夏みたいっすね。支払いは済ませたっす。行くっすよ。」


私の黒歴史がまた1ページ。



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