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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第16章 西へ

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よくある話

視点アウトです。

「そ、その、ソルシェさんが話していた事は……」


「あぁ、俺が奴隷になる前の話だ。」

わざわざ近づいて話しかけてきたリリに答える。


俺は鉱夫達が使う食堂の隅で雨音を聴きながら食事をしていた。

食事の量も質も奴隷には過ぎたものだ。

薄いがエールまで付いている。


魔獣を討伐した[リリ隊]は鉱山を出た宿舎で、アルベロ伯爵が軍を率いて到着するまで待機中。

伯爵は雨で少し遅れている様だ。


伯爵が軍を連れてくるのは、実務としては希少金属の塊である魔獣の遺体や魔族の遺跡を確保する為だろう。

そして象徴としては魔獣を討伐した英雄()()を連れて凱旋し、アルベロ伯爵の武威を示す為だ。


もちろん[聖女]や[竜の卵]の名も上るだろうが、あくまで魔獣を討伐したのはアルベロ伯爵家のリリとなる。

魔獣退治とはそういうものだ。

ソルシェとか言う神官は、いつの間にか姿を消していた。


「そ、その、昔話を聞かせてくれませんか?」

リリは遠慮がちに頼んでくる。


奴隷薬からは開放されたが、奴隷から開放された訳ではない俺には語らない選択肢はなかった。

約束が守られるなら、伯爵が到着次第恩赦で自由になれるはずだが……。


☆☆☆


俺はアウルエルグという名でニキア伯爵に仕える下級騎士だった。

領土は持たないが家名もあり、当時南北に分かれてニキアを統一しようと理想に燃えていた。


いや理想を刷り込まれていたと言うのが正しいだろう。

親友の幼馴染や訓練を共にした下級騎士達と共に南ニキアの部隊として戦っていた。


ある日、俺と幼馴染の部隊にニキア伯の腹心から命令が下された。


「最近攻勢を強めているリザードマンの補給基地が判明した。夜襲にて補給基地を壊滅せよ。」


伯爵側は主要都市のニキアを失い焦っていたのだろう。

当時、主要都市ニキアは人間主体の南ニキアとリザードマン主体の北ニキアの間を行ったり来たりしていた。


簡単な任務だった。

親友と共に寝静まった村に火を放ち逃げ出してきたリザードマン達を殺した。

あまりに抵抗がなく疑問に思ったが、奇襲が成功した為に組織的抵抗が出来ないのだろうと、呑気に構えていた。

だが真実は違った。


そのリザードマンの村は数日前に投降した村だったのだ。

武装解除され帰順も認められていた。

そして村にいたのは大半が戦闘員ではなかった。

伯爵の腹心はリザードマンへの嫌悪感と差別意識から虐殺を命じたのだ。

奴は人間至上主義者として知られていた。


俺は、その事実を知り軍を抜けた。

騎士としての正義などという青臭い物を当時は信じていたからだ。

そして、それが脱走行為と見なされ奴隷に落とされ鉱山に売られた。


だが、俺の親友よりはマシな運命だっただろう。

俺の親友はその後も伯爵に仕えたが、北ニキアと南ニキアが講和した時に虐殺の責を負わされ自害して果てたと後に聞いた。


そして伯爵の腹心は虐殺への関与が疑われたが、文官だった為、軍事的な決定権は持っていなかったと、役職から引退させられただけですんだとも聞いている。


☆☆☆


「ま、没落した下級騎士には、よくある話さ」

俺が話終えると、リリは複雑な表情をしていた。


「自由になったら、復讐をするつもりですか?」

そう問うてくる。


「まさか、伯爵は虐殺について事後報告で知らなかったし、腹心は領地持ちの貴族だ。殺すのは難しい、上手く殺せても貴族殺しは大罪。今度は奴隷落ちじゃ済まないからな。」

復讐心がないけど訳じゃないが、割に合わない。


「親友の墓参り位は考えてるが、それぐらいだ。」

約束どおりに自由になり、ニキアに帰ったら、親友の墓を探すつもりだとリリに伝えた。


「そ、その後は……」

リリが躊躇ためらいいがちに何かを言おうとしたがそれは叶わなかった。


「アウト、デグが探してるっす。リリもちょうど良かったっす。冷夏が茶を淹れるそうっすよ。」


いつの間にか近くに居た茶殻に声をかけられた。

リリが黙って席を立って去る。


「邪魔したっすかね。馬に気をつけないといけないっすね。」


茶殻が意味不明な言葉を発した。

私の黒歴史がまた1ページ

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