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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第16章 西へ

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算盤

冷夏視点です。

「なかなか振り解けないっすね。」

茶殻が呆れた様に嘆く。


私達は魔獣[左衛門改]に追われ、鉱山からの脱出をしようと坑道を彷徨っていた。

広い坑道には先回りされている事が多いので、一度戻ったりして何とかけないかと藻掻もがいている。


「マドウ?[左衛門改]の討伐は可能だと思う?」

私は歩きながらマドウに確率の計算を求める。

逃げ切れないなら倒すしかないけれど……。


(計算上は充分に可能だが、リスクが高い。戦わずに脱出する茶殻案の方が優れている。)

うーん、確率だけ考えたら、やはりそうだよね。


「でも、みんな逃げたら鉱山は閉鎖になるよね?」

私はマドウに当たり前の確認をした。


どれだけ人が死んでも採掘するとか言われたら、どうしようもない。

経済的利益の為に()()()()を逸脱するのも人間だからだ。

特に鉱山奴隷の命は軽い。

前世と価値観が違うのは分かっているけど、やっぱり、わりきれない。


(一時的には閉鎖になるだろうが、資料を持ち帰れば魔族系の資本が入り再開するやもしれん。)

確かに魔族なら魔獣に襲われない方法を知っているかも知れない。



「なんで[左衛門改]には、こちらの位置がわかるの?」


(分かってはいないだろう。分かっていたら、もう殺されている。こちらの位置を推測しているのだろう。魔獣[左衛門改]は馬鹿ではないようだな。)


「逆にこちらからは分からない?」


(通常ではない質量と魔力を備えているから、魔力波を放てば分かる。無論あちらにも魔力波の発信位置から、こちらの位置が分かるがな。アクティブソナーを打てばパッシブソナーに引っかかるだろう?)


「むぅ、それじゃ意味ないぞマドウ」


潜水艦が水中で索敵する感じで、積極的に調べれば相手の位置は分かるけど、むこうにもこちらの位置が分かってしまうみたいだ。

互いの位置が判ればどうなるか?

現状向こうの火力が勝るので勝負にはならない。

やっぱり戦闘は火力だよ。


更にマドウに確認したところ改良前の[左衛門]でも、刃物は基本、通らないそうだ。

至近距離からのミエニー弾ならまぶた部分の装甲を抜ける計算らしいけど、改良版には通じなかった。

だから私の計画でもチャンスは多分()()()()だ。


「なぁ、やはり聖女レイカは薬漬なのか?さっきから上の空で呟いている。最近裏社会では人造聖女薬が流行ってるみたいじゃないか。」


「ち、違います。冷夏様は、て、天然です。」


アウトさんの疑問にリリさんが反論してくれたが、なんか言い方が気になる。

どうしてもマドウと話す時に呟いてしまうんだけど……。


(2つの意味で適切だな)

うるさいぞ、マドウ。


☆☆☆


物資を置いた資材置き場に戻ると、戦闘奴隷を連れた大地母神官のソルシェさんが待ち構えていた。

人数は全員で4人。

残りは[左衛門改]に殺されてしまったそうだ。


「リリ様、3つ用意していた[魔族殺し]を2つ失いましたが魔獣は倒せていません。多少のダメージは与えたと思います。」


どうやら戦闘奴隷に[魔族殺し]と簡易魔力灯を持たせて、自爆攻撃を仕掛けさせたらしい。

一定以上の魔力で爆発する[魔族殺し]とリミッターを外した簡易魔力灯を組み合わせれば自爆攻撃が出来る。


囮の戦闘奴隷が殺されている間に、本命の戦闘奴隷が肉薄して自爆する。

だが、マドウ曰く、ほぼ()()で爆発させない限り[左衛門改]は倒せないそうだ。

剣で斬りかかるよりは倒せる可能性あるかもしれないが、酷い話だよ。


「最後の1つで仕留める為に、協力して下さい。リリ様。」

ソルチェさんが、頭を下げる。


「ふざけるなよ!このアマ!」


アウトさんが激昂し抜剣した。

戦闘奴隷だけど、これと言って禁止事項や命令をしてはいないから、事前に伝えてある仲間以外には斬りかかれる。


「や、やめて下さい。アウト」

リリさんが怯えた声だけど、ハッキリ伝えた。


すると、アウトさんが倒れて苦しみ始める。

命令に反する事をすると、奴隷薬は作用するから、アウトさんは斬りかかるのを止めるつもりがない様だ。


「ふ、ふざけるな、奴隷おれらを……使い捨てやがって……。」

剣を手に、ゆっくりだけど立ち上がる。

全身、汗でびっしょりだ。

そして斬りかかろうとして倒れ、気を失った。


(奴隷薬に短い時間でも逆らうのは、凄い精神力だ)

マドウも驚いている。


「見ての通りです。ソルシェさん。私だけなら協力します。[竜の卵]はアウトを連れて脱出して下さい。」


リリさんが覚悟を決めた顔で告げた。

私は咄嗟にリリさんに叫んだ。


「駄目だよ!リリさん。[魔族殺し]じゃ[左衛門改]は倒せないよ。ほぼ真下で起爆しないと倒せないんだから。」


「それなら簡単です。竪穴を掘り自爆要員を伏せて置き真上に魔獣を誘いこんでから自爆させます。」

ソルシェさんが当たり前の様に話す。


「あの魔獣はレーザー照射時は移動出来ず、また真上と真下に死角があります。竪穴の真上に誘導できれば……」


「それは想定が甘くないっすか?」

茶殻が話を遮った。


茶殻の言うとおり、そんな事は不可能な上、更に確実に人死が出る。

マドウとの話からして、魔獣[左衛門改]は馬鹿ではない。

待ち伏せの精度も上がってきているし、罠には気付くだろう。


「[左衛門改]を待ち伏せて、正面から狙撃する。私は[狭間筒]を取りにきたんだよ。」


私は遠距離からの狙撃計画を簡単に説明した。

射程も大坑道ならギリギリ大丈夫なはずだ。


「冷夏の計画も無理っす。至近距離でも[妖魔筒]のたまはじいたっすよね?」


「鉛弾じゃ無くてアダマンタイト弾なら計算上装甲を貫通するんだよ。一発しかないけど、複数あっても、外したら再装填は間に合わないから、どのみちチャンスは一回なんだけどね。」 

それに本来は銃身より硬い金属弾は銃身を傷めてしまうから使わない。

魔法で自己修復されるにしても、時間がかかるしね。


茶殻は肩をすくめ、リリさんは首を横に振る。

ルチェさんは、私とマドウの出した計算を確認している。

ルチェさんが荷物から、算盤ソロバンを取り出したのには驚いた。

マドウに確認したら[竜人族の祖]が、リザードマンに伝えたとされている道具との事。

日本リザードマン刀もそうだし、[竜人族の祖]って前世のアプリ小説の主人公並に多才だった様だ。


「協力を得られず残念です」

ソルシェさんは、その間に奴隷達を連れて出て行った。


「計算上は可能でス」

ルチェさんが計算を終えると、デグさんが頷き告げる。


「冷夏の計算を実行する。無理だと思うなら参加は強制しない」


気を失ったままのアウトさん以外は計画に参加すると言ってくれた。

「[魔族殺し]で[左衛門]と戦う。ダイナマイトとライターを3つ渡されて、『軽戦車を撃破しろ』と言う計画ですよね?」


「冷夏さんの〜計画も〜対戦車ライフルで戦う計画です〜」


「魔獣と戦うのは戦車と戦うぐらいに大変なんですね」


「〜初代勇者は〜人形戦車みたいなものでしたよ〜魔族も大変だったんですよ〜」


「流石は古魔族ですね」と言いかけ、言葉を呑み込みました。

オーナーに古魔族は禁句だからです。


私の黒歴史がまた1ページ。

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