剣豪
冷夏視点です。
「こちらの坑道でス」
杖に魔術で明かりを灯したルチェさんが、坑道を先に進んで行く。
予定では大坑道にベースキャンプを置くはずが、死体が散乱していたので変更した。
なんでだろう。
最近は死体を見ても怖くなくなり、祈祷しなくてはと思う様になった。
私と茶殻、リリさんの3人での祈祷の後、少し戻った資材置場に荷物を置き、荷運びの2人は地上に帰らせた。
もちろん、延長薬は少し余分に持たせたけど、設定された主人が死亡すると延長薬は効かなくなるから意味がなくなる。
新しい奴隷薬で書き換えれば別だけど……。
「もし、主人のアンタが帰らなければ戻った2人は禁断症状で地獄を見る。」
アウトさんが悪態をつき、リリさんが萎縮する。
うーん、雰囲気は最悪だ。
「あっしが人選を誤ったっす。アウトも帰らせるか、奴隷として躾けるかした方が良いっす。」
茶殻がリリさんに進言するが、リリさんは肯定しない。
リリさんは戦闘を回避したい[竜の卵]と違い、どうやら魔獣を討伐したい様だ。
そして、その為には自由になる手駒が必要になる。
「この先は坑道ではないでス。」
ずいぶん深く潜った後で、ルチェさんが改めて言う。
確かに通路と壁の造りが変わっていた。
☆☆☆
大きな水槽の様な物が、いくつか並んでいて非常灯の様な赤い光に照らされている。
非常灯が分かるのは私とマドウだけだろうけど。
中は水で満たされており、そこにさらに水が注がれていて、溢れた水は排水施設に回収されていた。
「魔獣培養槽でス。培養されている魔獣は居ないみたいでス。」
ルチェさんが魔術士らしく分析する。
ブレナさんもそうだったけど、ルチェさんも博識だ。
「居たら事っすよ」
茶殻が肩を竦める。
「でモ、月からの魔力を補充するのニ使われてる様でス。」
月から発する魔力は僅かだけど水に溶けるとマドウに習った。
そして大半の魔獣は月からの魔力を活動源にしているとも。
つまり、[左衛門改]は魔力が減ると水槽に浸かりに来るという事だ。
「ヤバいっすね。『モニタ?ル?』」
スカウトらしく、あちこちを探りながら茶殻が呟く。
「魔族語で『モニタールーム』でス。」
壁に書かれた文字をルチェさんが読み上げた。
「多分資料がありまス」
私達はルチェさんに続く。
「俺には、さっぱりわからんが罠とか大丈夫なのか?」
魔族の遺跡を進み、漁る私達にアウトさんが尋ねてくる。
「罠は発報済みでス。それで魔獣が稼働したのでス。」
ルチェさんが疑問に答えた。
「そっちハ『クリーンルーム』こっちでス」
ルチェさんは、どんどん進む。
遺跡探索って隊列とか気にしなくても大丈夫なのだろうか?
前世のゲームとかだと前衛、中衛、後衛とか気にしていたけど。
「ルチェ、詳しいっすね。でも先走り過ぎっす。」
やっぱり大丈夫じゃないみたい。
リリさんと共に後方を警戒している茶殻が声をかける。
私は中衛で回復と射撃担当だ。
ちなみに狭間筒はベースキャンプに置いてきている。
「……魔族の遺跡探索と魔道具は好物なのでス」
ルチェさんが戸惑った口調で話すが、表情までは分からない。
「リザードマンは魔道具を喰うのか?」
突然、アウトさんが尋ねた。
冗談だよね?
「リザードマン語の表現でス。人間共通語では言いませんカ?」
うーん、日本語とリザードマン語は重なる表現あるから私には分かるけど、この世界の人には通じないみたいだ。
「『モニタールーム』でス。物理と魔術で閉じられてまス。開けますネ」
[魔術解錠](使2残3+2)
ルチェさんが手早く呪文を詠唱する。
うーん、ルチェさん少し焦っているかな。
確かに私も、魔獣が帰る前に離れたいけど……。
「!?」
「危ねえ!」
デグさんがルチェさんを後に引きずり倒し、アウトさんが、抜剣し剣を弾いた。
中から旧魔王軍の士官服を着て剣を抜いた骸骨が出てくる。
(アンデットではないな。自らをゴーレム化したスケルトンウォリアーだ)
マドウが分析してくれたが、言われなくても分かる。
見た感じ持っている片手剣は魔剣だし、動きも滑らか。
そして逆の手には音叉の様な物を持っている。
うーん、雰囲気からして強敵だ。
「キーーーン」
スケルトンウォリアーが音叉を鳴らした。
魔力が拡散してくるのが分かる。
(マズイぞ、冷夏!音響攻撃だ)
音を防ぐ為に、咄嗟に装填済みミエニー妖魔筒でスケルトンウォリアーを撃つ。
轟音を発し飛びだした弾が、偶然だが音叉を撃ち抜いた。
結果論だけど、ナイスショットだ。
(偶然ではないのだがな)
何か言ったマドウ?
だがアウトさんも、茶殻も、ルチェさんも、気を失い倒れている。
(対魔法力のない者は無力化されたか)
どういう事マドウ?
(デグとリリは対魔装備を持っている。魔力が60の冷夏には魔力20レベルの音叉の魔力は通じん)
倒れたアウトさんを引き継ぎ、スケルトンウォリアーとデグさんが戦っている。戦斧と片手剣では取り回しが違うし、相手のスケルトンウォリアーは多分達人級だろう。
デグさんの方が素早さと技術に勝るスケルトンウォリアーに押しこまれている。
私が皆を起こすべく祈りを唱えようとすると、後から来たリリさんに押しのけられた。
「竜牙流[縦一文字]」
アダマンタイトの魔剣を上段に構えたリリさんがスケルトンウォリアーに斬り込む。
え、剣術使えるの?
それにしても、無茶だよリリさん。
案の定、リリさんの一撃は相手の剣で跳ね上げられた。
返す剣で胴を狙ってきている。
「奥義!![二連]」
リリさんが再加速して踏み込み、もう一度上段から剣を振るう。
今度は跳ね上げが間に合わず、剣を受け止める様にスケルトンウォリアーは剣を動かした。
だけど、リリさんの一撃の速度と威力が勝ったみたいだ
スケルトンウォリアーは頭から真っ二つに割られ、地面には持っていた魔剣が転がる。
「リリさん、剣術使えたの?」
私が驚きを伝えると、リリさんは頭を振る。
「剣は貴族の嗜みとして習いました。でも生き物相手に振るうのは無理です。傷つけたり殺したりなど怖すぎます。」
そういえば、嘆きの泉でアンデットとは悲鳴あげながらも、難なく戦っていた事を思い出した。
後で確認したら、免許皆伝の腕前なんだって。
リリさんて剣豪だったんだよ。
びっくり。
まぁ、相手が生き物でなければだけど……。
アウトと思わせてリリ。
でも、時代劇小説には実は剣豪だった主人公が異世界転生主人公と同じぐらいいます。
普段は冴えない侍が剣豪だったは、テンプレートの1つですから。
私の黒歴史がまた1ページ。




