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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第16章 西へ

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323/385

第2幕

兵士の視点です。

大坑道は、このアルベロ第3鉱山における村の広場みてえな場所だ。

複数の坑道が口を開けていて天井は高い。

普通なら鉱山奴隷が集められる場所だが、そこにオイラ達は集められている。


他の坑道は坑道用光苔が移植されているか、臭い獣脂のランタンが設置されているかだが、ここには複数の魔導ランタンが設置されていて明るい。

そして、ここから下の坑道には必ずここを通る。

だから領主様の次男ユホ様は、ここに陣を敷いたのだろう。


「よいか?魔獣が瞳から光を放つ時は必ず停止する。そして光は真っ直ぐに放たれる。」


「正面に立つな。側面から斬りつければ勝機はある。狭い坑道と違い、ここなら、それが可能だ。」


ユホ様が声を張り上げる。

バカを言っちゃいけない。

どんなに足が速くても、魔法は躱せない。

魔術師が隣にいるユホ様と違って、魔獣の正面に立ったら、ほぼオシマイだ。


だが、そんな不運な奴らが殺られている間に横から斬りつけるのは良い作戦だと思う。

もし魔獣を倒せたら、下級騎士に取り立ててくれるかもしれねえ。

後はオイラに運が向いているかどうかだ。


「戦いが始まったら逃げねぇか?もう鉱山に入った人数の半分しかいねえ」


「それに魔獣が倒せても、手柄はユホ様のもんだ。俺等にゃ銭が貰えるかもわかんねぇしな」


すでに臆病風に吹かれている連中もいる。

だが村に帰っても、5男のオイラの物になる畑はねえし、天気が悪く不作になりゃ口減らしで冒険者にでもなるしかねぇ。

一旗上げるには、ここで手柄をたてるしかねえ。


☆☆☆


「ミーン」(使用1残63)


大坑道に上がってくる主坑道で待ち伏せしていたオイラ達の裏をかいて、魔獣は脇坑道から魔術を撃ってきた。

たしかにゴブリンでさえ罠に気がつけば道を変える。

頭の良い魔族が作った魔獣なら、当たり前の事だ。

魔獣は魔術を3回撃ったが、オイラ達の半分は、それで殺られた。


「排熱している間に白兵しろ!」

何人かの恐れ知らずが、魔獣に向かうが逆に魔獣が突進してきた。


[急発進](使用1残59)


目玉の化け物と思っていたが、目を瞑り飛んで来る姿は金属の球だ。

2メートルもある金属球に跳ね飛ばされた恐れ知らず達は死ぬか、動かなくなるかしていた。

そして魔獣は目を開ける。


「ミーン」(使1残58)


空中に漂う魔獣が、また魔術を撃った。

とてもではないが、近づけねえ。

ほんの少し前までは大坑道に25人から居たのに、もう10人しか残ってない。

魔獣の魔力が切れてくれりゃ良いんだが……。


[雷撃(]使2残3)


ユホ様の隣にいた魔術師が手から稲妻を放った。



また目を瞑った魔獣の表面を稲妻が滑ってゆく。

全く効いている感じがしない。


「ミーン」(使1残57)


魔獣は魔術師に稲妻のお礼とばかりに反撃した。

オイラはそれを読んでいたので、走って近づき横合いから、でっけえ眼に向けて剣で斬りつける。



剣は、ひらりと躱され眼ではなく、金属部分に当たる。

高い音がして剣は弾かれた。

そして手が痺れてしまう。

まるで岩に叩き付けた感じだ。

こりゃ剣じゃ駄目だ。

魔獣はオイラなど歯牙にもかけず、そのでけえ目の脇から熱い空気を吹き出す。


[緊急排熱](使2残55)


オイラは熱い空気を一部浴びてしまい火傷を負った。

魔獣から慌てて離れる。


「逃げるぞ!バラバラに逃げれば大丈夫かも知れん。魔獣は一体だからな」


生き残った仲間の1人が叫んだ。

さっきの魔術で、魔術師と隣にいたユホ様は殺られちまった。

大将が死んだら戦は負けだ。

生き残り達は皆逃げ出し始めた。


「逃げずに戦うのだ!逃げてはならん!」


下級騎士の爺さんが叫ぶが、誰も止まらない。

オイラもすぐ脇の側坑道に飛び込む。

後を振り返らず、懸命に走った。


☆☆☆


大坑道から逃げ出し、しばらく経つと火傷をした所が酷く痛む。

また喉も乾いた。

持っていた水袋の水を飲み、火傷にもかけたが、どちらも治まらない。


こりゃ良くない状態だ。

なんとかして先ずは地上に戻らにゃならん。

だが、魔獣から逃げるのに、めちゃくちゃに走ったので、今何処にいるか分からない。


「お~い、誰か居ないか?」


声をかけたが、どこからも返事はない。

それからしばらく坑道を彷徨ったが、寒気がするし怠い。

あれからどれぐらいの時間が経ったのかも分からない。


坑道を背に座り込んだのが良くなかったのか、もう立ち上がる気力もない。

眠い、寒い、怠い。

と、

遠くに赤い光が見えた。

暗闇に何か居る。


最後にミーンという変な音が聞こえた。

現実社会ではもし広範囲に熱傷を負った場合、速やかに医療機関にかかりましょう。


私の黒歴史にまた1ページ。

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