開幕
魔術師視点です。
冒険者[黎明]に所属しています。
大地母神官が戦闘薬を経口投与すると、戦闘奴隷達はヨダレを垂らしながら奇声を上げ始めた。
隣では冒険者、[黎明]の仲間達が顔を顰めている。
むろん私もその一員だが。
あれでは足留めも出来ないのではないかと危惧している。
「討伐失敗で、あんな戦闘奴隷にされるぐらいなら死にたいね」
スカウトがいつもの軽口を叩くが、いつもは嗜めるリーダーも無言のままだ。
今回の討伐依頼を受けたのは失敗だったと後悔しているのかも知れない。
「爺、戦闘奴隷を吶喊させろ!」
依頼主の騎士の息子が守役に命じた。
戦闘奴隷達は命令に従い坑道を駆け下りてゆく。
「第1部隊は俺以外全滅した!魔獣は後から直ぐ来るぞ!」
前方から声がして、男が駆け上がってきた。
が、後から飛んできた青白い金属球、いや直径2メートルぐらいの目玉に跳ね飛ばされる。
男は壁に激突し動かない。
奇声を上げつつ戦闘奴隷達が抜剣し近づいて行く。
すると目玉の化物は浮遊したまま止まった。
ここからだと50メートルぐらいの距離だ。
「予想どおり、魔獣[左衛門]です。念の為、障壁の後に入って下さい!」
私は叫んだ後に詠唱を始める。
魔術師ギルドで学んだ[左衛門]は黒錆の様な色をしていたが、青白いのは亜種なのだろうか?
ただ基本はそう変わらない様だ。
瞳の奥が紅く輝く。
[障壁](使1残5)
私は念の為、パーティの前に透明な障壁を展開した。
[ミーン](使1残88)
独特の音と共に[左衛門]の瞳からレーザーが発射される。
危惧した通り戦闘奴隷達は真っ直ぐに吶喊してしまった。
赤いレーザーで全員焼き切られ、なぎ倒される。
時間稼ぎにもならない。
と、
[ミーン](使1残87)
まさか!
レーザーを連射した?
そして魔術の障壁が砕け散る。
馬鹿な、ギルドで調べた[左衛門]のカタログスペックではレーザー照射一回毎に排熱が必要でレーザーの連射は出来ないはず。
更にレーザー出力も魔術の障壁を破る程ではないはずだ。
[ミーン](使1残86)
まさかの3連射。
[左衛門]の左右から大きな、溜息の様な排熱音(使1残85)がした。
改良された魔獣なのか?
「側坑道に退避を!」
私は咄嗟に叫んだが、[黎明]のリーダーと盾役の戦士、2人が焼き切られた。
☆☆☆
「爺、大坑道まで下がるぞ。」
依頼主が初戦の失敗を悟り指示を出す。
事前の取り決めで、初戦後の再集結場所は決めてあった。
[左衛門改]は狭い側坑道に入っては来なかったが、再度レーザーを照射した。
リーダーが死んで半狂乱になっていた仲間の至高神司祭は胴に大穴を開けられ死に、更に側道に入って逃げている間にスカウトと大地母神官とは逸れた。
今いる第4部隊の生き残りは依頼主と守り役、そして私だけだ。
「若、一度坑道を出て仕切り直されては?魔術師殿の言う改良型魔獣となれば、近づく暇もないかと」
「いや、チャンスはある。爺、あの化け物がレーザーを撃つ時、必ず停止していたのに気付いたか?」
確かに浮遊しながら移動してくる[左衛門改]は、レーザーを照射する時だけは移動を止めた。
浮遊は変わらなかったが、動きながらレーザーを発射する事はなかった。
「それに3連射後は必ず排熱する。そして排熱後は、その次の発射までタイムラグが出来る。白兵戦に持ち込めれば、勝機はある。続行だ。」
兵の約半数を失えば合戦なら大敗。
指揮官は無能の誹りを受けるだろう。
だが、対魔獣戦なら魔獣を倒したか否かが問われる。
犠牲を厭わず魔獣を倒してしまう方が名声が上がる。
魔族に作られた魔獣を倒すのは、それだけ困難な事だとの証明だろう。
「ご無事でしたかユホ様!」
我々を見つけた偵察兵が叫ぶ。
何人かの兵が迎えにきた。
「第2、第3部隊とはぐれた孫娘らも着いている様です。若。」
守り役が報告する。
「第2幕を始めるぞ。」
依頼人は皆に作戦を話始めた。
魔術士のルチェより、正魔術師の方が知識は得やすいです。
私の黒歴史がまた1ページ。




