どうだろうな
ユホ視点です。
ユホは辺境騎士の次男ですよ~
ようやく見えてきた第3アルベロ銅山は雨の中静まりかえっていた。
アルベロの街から山中の道を通り3日。
普段なら仮精錬された粗銅とアダマンタイトの鉱石を乗せた馬車が通る道だが、誰もすれ違わなかった。
「若、ようやく運が向いてきましたな」
隣で馬を歩ませる守り役の爺が囁く様に呟く。
「どうだろうな」
俺はそう囁き返した。
俺は辺境騎士ミロウの次男として生まれ兄のスペアとして育てられてきた。
ミロウ領は狭く貧しい為、兄が壮健なら俺は下級騎士として兄を支えるか農村に代官として送られるかの人生が待っていただろう。
だが、親父が欲を出し街道に勝手関所を設けて流れが変わった。
大商会や教団連中、他家縁の商人は見逃すはずが、任せた下級騎士や兵士が私腹を肥やす為に命令を無視。
アルベロ伯爵家に発覚してしまった。
それからのアルベロ伯爵家の長男の手際は良かった。
「魔獣討伐の兵を出せ、さもなくば討伐軍を送る」
と言う使者が飛んできた。
パライバ商会の若い商隊長と組んで、老いが見え始めた伯爵を追放する計画があると言う噂も、あながち間違いではないかも知れない。
親父は誠意と忠誠を見せる為にスペアの俺に兵を付けて伯爵領に送った。
魔獣に負けても良し、勝てばミロウの名が上り更に伯爵の次女を貰える。
親父らしい計算だ。
だが、俺にとっても悪い計算じゃない。
伯爵の血筋と武名があれば一国一城の主も夢じゃないからだ。
「若、そろそろ鉱山に着きますぞ」
今度は囁きではなく爺が声をかけてきた。
「鉱山に着いたら、一度兵を休める。部隊を分け、部隊長と作戦を詰めるぞ」
俺が爺にそう答えると、爺は指示を出し始めた。
☆☆☆
夕食前、鉱山の外に設けられた施設の集会所に兵を集めた。
空いた施設には充分な広さがあった。
鉱山には伯爵の代官と鉱山長の他20名ぐらいが残っていただけ。
大半の施設は空だった。
特に奴隷鉱夫寮には誰も居ない。
閉鎖中の鉱山に奴隷鉱夫を置いても経費がかかるだけで金を産まないからだ。
我々が魔獣を倒したら、また他の鉱山から呼び戻すのだろう。
「若、皆が揃いましたぞ」
爺が声をかけてくる。
部隊は自分も含め45名。
領地から連れてきた兵が30名。
雇い冒険者5人と戦闘奴隷が5人。
それに俺と爺、偵察兵2人と神官1人。
5人を1班とし2班10人で1部隊にしている。
俺は配下達を改めて見た。
外では、まだ雨が降っている。
正体不明の魔獣と戦うのに少なくとも頭数は揃えた。
ただ兵士とは言っても半農の三男以下ばかりで、安価な片手剣に革鎧、役割は軽戦士という冒険者の店が陰で[おのぼり]と呼ぶレベルと大差はない。
せめて熟練冒険者の数がもう少し欲しかったが贅沢は言えない。
「部隊割は説明どおり、夕食は少し良い物を用意させた。酒はつかないがな。」
士気を高める為、簡単な訓示をし部隊を計画に沿って振り分けた。
魔獣退治はちょっとした合戦と変わらない。
☆☆☆
「先行した第1部隊の第2班は全滅。第1班が魔獣を引き付けながらメイン坑道を上がってきています。」
偵察兵が戻りながら伝えてきた。
戦闘奴隷となっている元傭兵達の証言から狭い坑道で待ち伏せ、白兵戦に持ち込む作戦を立てた。
戦闘奴隷達には依存性のある薬物が与えられている為、逃亡は出来ない。
逃げても禁断症状で動けなくなり、すぐに捕まえられる。
魔獣を倒せば神聖魔法で依存症を治す約束だ。
もちろん、生き延びた場合にはだが。
「戦闘奴隷の恐怖を取り除き、ポイントBで足留めをさせろ。第2、第3部隊に横槍入れさせる。」
「ユホ様、抗恐怖薬の投与は廃人化の可能性が高まります。よろしいのですか?」
爺の孫娘の大地母神官が眉をひそめて確認をしてくる。
「人間を辞めさせなければ、魔獣の足留めなど叶わぬだろう。」
神官は奴隷達が依存している薬品に他の薬品を混ぜ合わせ始めた。
偵察兵達は、それぞれ伝令に走って行く。
「若、冒険者達と共に前線に参ります。ご準備を……。」
レーザーが主力の魔獣で間違いない様だ。
囲んでしまえば首を取れる。
どうやら首は無いようではあるが……。
「レーザーって概念は通じるんですか?」
「転生者経由で〜原理は分からずとも〜言葉としては〜存在しているみたいですね~」
「戦闘奴隷への戦闘薬は……」
「廃人一直線です〜。『薬物はダメ、ゼッタイ』お姉さんとの〜約束ですよ~。」
私の黒歴史がまた1ページ。




