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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第16章 西へ

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コボルト

冷夏視点です。

「いざ、出陣!」

今朝、アルベロ城から二組の軍勢が出発した。


片方はリリの、お兄さんが率いるコボルト集落討伐隊。

もう片方は辺境騎士の次男、ユホ・ミロウさんの率いる魔獣討伐隊。


そして、私達[竜の卵]は一昨日の歓迎パーティ以来、大地母神殿にお世話になっている。

でも、事実上アルベロ伯爵の監視下にあるから、なんともいえない。


どこに行くにも護衛と称した下級騎士さんと兵士が10人近く着いて来るし、街中に出るにも必ず行き先を訊かれる。

そして街から出る事は警備上の理由とかで禁止された。

これでは魔獣の調査など、ままならない。


仕方がないので私は文献調査の名目でお城の図書室に、お邪魔している。

ちなみにデグさんは、お城の訓練場で汗を流し、ルチェさんと茶殻はお城の祈りの間に籠って瞑想。

リリさんは、この街の領主アルベロ伯爵の娘なのに城には来ず大地母神殿で戦勝祈願をしている。


実はリリさんは、お兄さんの奥さんと仲が悪く、お城では居心地が悪いそうだ。

お兄さんの奥さんは小麦粉を扱う商人の娘で平民だったから色々あったらしい。

色々と言うのはお兄さんの結婚の時、賛成派と反対派で政争があったみたいで、血も流れたとリリさんは言っていた。


リリさんはいつの間にか、お兄さんの結婚に反対した派閥の首領となっており、ハルピアの大地母神殿に来たのはその政争に敗れて追放同然だったみたい。

リリさんて、不器用なんだよ。


(冷夏に言われたくは、なかろうに) 

何か言ったマドウ?


☆☆☆


図書室で[妖魔の姿について]という分厚い本のページをめくりながらマドウと交信する。

近くでは、さり気なく監視が立っている。

うーん、なんか面倒くさい。


「ねえマドウ、コボルトって二足歩行の犬みたいな生き物だよね?『黒犬三等兵』に出てくるぽいやつ。」


私は祖父母の持っていたマンガを思い出していた。

体調が許す時、訪ねた前世の祖父母の家では古い本が本棚一杯に詰まっていて、姉と一緒に読んだものだ。


(その『黒犬三等兵』は知らぬが、今では二足歩行犬みたいな妖魔で合っているな。)


「今では?昔は違ったの?」


(昔はリザードマンとゴブリンを足して2で割った様な姿をしていた。)

想像がつかないし、不思議な話だ。

「それがなんで、姿が変わったの?」

私は本を閉じ尋ねた。


(ライカンスロープ症候群だ。かつてコボルトの間でライカンスロープ症候群が大流行した。)


「あの狼とかになるやつ?」


(そうだ、人間だと症状は不可逆的変身だな)


ライカンスロープ症候群。

以前人狼と戦った隔離病棟でのアヤメとの一夜はハッキリ覚えている。

ピンチだったはずなのに、不思議と懐かしい。


(だが、以前のコボルトに取っては死病だった。そして以前の姿のコボルトは病で全滅した。)


「むぅ」

疫病で全滅とは恐ろしい話だけど、犬の姿とは繋がらない。

マドウの説明は相変わらずヘタクソだ。


(……。冷夏、最後まで聞けば分かるぞ)


(よいか冷夏、以前通常だったコボルトは全滅した。が、変異したライカンスロープ症が遺伝形質に残ったコボルトだけは何故か全滅せずに生き延びたのだ。)


(二足歩行犬の様な姿に変わったコボルトだけがな。)


ウイルスによる遺伝子の組み換えが進化の源だと聞いた事はあるけど、種族の姿が変わる程の変化は初めて聞いた。

何かの拍子に人間にもそういう事が起るのだろうか?


(コボルトはゴブリンよりも弱い。だが上記の理由からか、ライカンスロープ症候群のキャリアである可能性が高い。)


(更にゴブリン以上に組織だって戦う。士気の低い遠征軍では集落を多少焼くぐらいで終わりだろうな。)


僅かな怪我がライカンスロープ症候群の原因になるなら腰が引けるだろうし、狼にしろ野犬にしろ狩りは群れで行うから集団戦は得意かも知れない。

しかし、それで良いんだろうか?

どうなのマドウ?


(辺境騎士は伯爵への形式上の忠義を示せ、コボルト達の勢力は、それでも多少は削がれる。政治的には十分だろう)


「魔獣は?」


(正体が、わからん以上予測不能だな。それより、監視が怪しんでいるぞ。)


むぅ、どうやら念話のつもりが、所々声に出して呟いていたらしい。


「うーん」

私は再び本を開いた。


情報収集は茶殻に期待だな。

うん。

作中の『黒犬三等兵』のモデルはノ◯クロです。

ノラ◯ロは大尉ぐらいまで昇進してたかな?

コボルトが二足歩行犬なのは日本ぐらいだそうですが、エルフの長耳が日本アニメの影響でグローバルスタンダードに近いらしいですから、コボルトもわかりませんよ(笑)。


私の黒歴史がまた1ページ。

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