故郷の臭い
リリ視点です。
辺境騎士ミロウの次男ユホが兵30を連れて商隊に加わりました。
街道を進みアルベロの街に近づくにつれて、あちこちの辺境騎士達が派遣してきた兵士達が加わります。
そして、その兵士達を連れているのは大抵が騎士の三男などの継承権から遠い人物。
連れている兵士も10人に満たない少数。
伯爵家の威光は未だ領内に行き渡ってはいません。
兄の手紙では父は辺境騎士の子息か下級騎士以上の人物が魔獣を討伐すれば、私をその人物に嫁がせると公言しているそうです。
ただ集まった騎士の子息には鉱山に巣食った魔獣を本気で排除する気はありません。
30名以上の傭兵を退けたという謎の魔獣に5〜6の兵を連れて何が出来るのでしょう。
「リリさん。集まるの戦士さんばかりだけど、どうするの?」
移動中に聖女様が騎乗大蜥蜴を寄せてきて尋ねてきました。
「集めた兵士でコボルトの集落を攻めるとは思います。」
「魔獣は?」
「ユホ・ミロウ隊が坑道に攻撃するそうです。かわりに関所の件は不問になります。」
ミロウ領を過ぎてから、商隊長のビギンスと兄は早馬にて使者のやり取りをしています。
兄はパライバ商会を利用したい様に見えます。
商人がただで力を貸してくれるはずがないのに。
聖女様の魔獣調査については兄と違い父は乗り気ではない様です。
大地母神殿やその背後のパライバ商会に借りを作るを懸念しているのでしょう。
すでに手遅れだというのに。
それに父には若い愛人に産ませた末弟に伯爵位を譲りたいとの噂もあります。
追放前は大地母神殿に送られるのが嫌で堪りませんでしたが、今では実家に戻るのが嫌で堪りません。
もし、ユホ隊が魔獣を退治したらと思うと溜息が出ます。
魔獣退治に身分の高くない冒険者を雇う必要があるかもしれません。
☆☆☆
「リリお嬢様、おかえりなさいませ。」
子供の頃から世話をしてくれた女中達が出迎えてくれました。
ただ城は集められた兵士に食事を提供する為に、てんてこ舞いです。
[白商隊]は城下町のパライバ商会の商館で解散。
再結成は荷が揃い次第になります。
普段なら精錬された銅やアダマンタイトなどの鉱物、各種の毛皮など積み込み数日で帰るのですが、主鉱山が閉鎖中の為に荷が足りてない様なのです。
聖女様一行は一応城で歓待パーティを開きますが、宿泊先は大地母神殿としています。
城ではユホ隊を除いても100名以上集まった兵を纏めてコボルト集落への討伐計画が練られ、総大将は兄が努める事になりました。
糧食は各辺境騎士が主に負担するのですが、領内では実質は伯爵家で糧食を用意して費用だけを各辺境騎士に求めます。
長引くと糧食の手配が大変なので、明後日には出陣となるでしょう。
「お姉様、お久しぶりです。」
妹のルルが挨拶にきました。
ルルは伯爵家の南方にある辺境男爵家の嫡男との婚約が決まっていて、近日嫁ぐはずです。
本当は私が嫁ぐ予定でしたが、顔合わせ時に先方の嫡男がルルを気に入ってしまい変更になりました。
ルルは私とは違い社交的で、民にも人気があります。
今回男爵家は妖魔族との交戦を理由に兵を送ってきていないそうです。
聞けば南方の騎士達も同じく兵を出していないそうですので、妖魔との交戦は本当に厳しいのかもしれません。
「あの[聖女]様が持っているのは妖魔筒ですか?」
ルルが尋ねてきます。
「はい。聖女様のは特別製ですが、以前から聖女様は妖魔筒を愛用されてます。」
お菓子と花にしか興味のなかったルルが武器に興味を持つなんて……。
私が大地母神殿に居る間に少しは成長したのかもしれません。
「南方の妖魔達が使う様になり、男爵様達が苦戦しているそうなのです。先日も武勇で鳴らした騎士家の御当主が討ち死にされたとか……」
私は戦いには疎いですが、聖女様が刺客に襲われた時や[嘆きの泉]での防衛戦での威力を見ています。
知らずに妖魔筒の前に出れば、良い的になってしまうでしょう。
「歓待パーティ時に、お尋ねしてはどうですか?とても気さくな方ですよ。」
ハルピアとは違い、私の故郷は相変わらず淀んでいて、戦の臭いがします。
ハルピアの活気と大地母神殿の静謐さが既に懐かしくなりました。
私は大地母神殿に帰れるのでしょうか?
私の黒歴史がまた1ページ。




