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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第16章 西へ

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場末の街

茶殻視点です。

「ビギンス殿、塩樽6つを言い値で購入しよう。他にも必要な物資を購入したい。」

初老の騎士は商隊長に、そう申し出た。


「ありがとうございます。狼の毛皮の購入代金と相殺いたします。足りない分は金貨でのお支払いでよろしいですか?」

若い商隊長は商売上の笑みを浮かべ答える。


「銀貨で支払いたい。金貨との両替手数料は……」


小さな街の大地母神殿の敷地内に商隊とその取り巻き達は宿を取っていた。

礼拝堂の広間では食事が振る舞われ、今は皆それぞれに休んでいる。


関所を焼いた後、商隊は街道を進んでいたが、騎士ミロウ、その人が僅かな手勢と共に現れて街へと招かれた。

どうやら逃げ帰った下男が報告したらしい。

関所の件は死んだ配下の下級騎士が勝手に行なっていたと、伯爵の娘リリと商隊長ビギンスに弁明していた。


ビギンスは関所にあった税として召し上げられた物資を接収して、現金は傭兵や冒険者に気前よく一時金として渡していた為、弁明をアッサリ受け入れている。

関所を焼いたのも証拠隠滅の為だろう。


リリも魔獣退治に兵を出す[神名誓約書]を出させて弁明を受け入れた。

大地母神の名のもとに書かれた誓約書を破るのはリスクが高いし、兵を出すのは伯爵への服従と忠誠の証なので良い落とし所だろう。

世間知らずに見えてやはり貴族なのだと関心した。


「信じられないっすね。建前上、和睦したっすけど、刃を交えた相手と飯を食って商談出来るもんっすか?」


「貴族や商人とハ、そういう生き物でス」

ルチェが当たり前の様に話すのはルチェも、そういう生き物の一員だからだろう。


冷夏様はスマホとか言う魔道具で、比重と玉薬が、とか呟きながら何かの計算を繰り返している。

デグは、そんな冷夏様の傍らで山葡萄酒を傾けながら豆をつまんでいた。

リリは同じく山葡萄酒を飲んでいるが、何故か冷夏様の計算を真剣に見ている。


大半の護衛は建物の外にテントを張って休む事になるが、大地母神の[聖女]と伯爵令嬢の上級神官を抱える[竜の卵]は建物内に泊まる事を許されていた。

流石に数少ない貴賓室や旅の信徒用の大部屋は商隊員と商隊長に充てがわれている。


最初、騎士ミロウは商隊を城に招きたいと申し出たが、流石に警戒したのか商隊長がリリを盾に大地母神殿に宿泊する事になった。

街からの出発は明後日になるという。


☆☆☆


「しっかし、しけた街っすね。」


「思ってモ、口に出してはいけませン」


翌日、護衛達の約半分は休養日になった。

休養日の日当は勿論出ないが、保存食以外の食事と酒を求めて街に出る。

残り半分は日当を貰い、商隊護衛を続けるが騎士ミロウが裏切らない限り街中に敵は出ない。

大きく偏らない限り希望が通るから、休みを取るかは体調と懐次第だ。


冷夏様とデグは朝早くから街にでかけた。

出来てる訳では無さそうだから、何か入り用な物でもあるんだろう。

合金がとか言っていたので鍛冶屋にでも寄るのかも知れない。


リリは朝食後、二度寝をしていた。

朝から山葡萄酒を飲んでいたから、今日は神殿から出ずに、のんびりするらしい。

[怠惰]の二つ名は伊達ではない様だ。


私とルチェは神殿で朝食を取った後、街に出たが直ぐに飽きてしまった。

街全体が、あまり豊かではなく店も少ない。

猪肉や鹿肉を出す店もあったが、塩が貴重品の為か、薄味か逆に塩辛いかで正直美味くない。

酒作りにまわる穀物も少ない為か、酒は雑味が多く薄い。

それに、リザードマンのルチェに敵対的な視線を送られる事が多い。


「ここら辺りは妖魔達の集落と絶えず争ってるからねぇ。リザードマンも妖魔に見えるのさ」


昼食に入った街に1件しかない冒険者の店の主人が、そう教えてくれた。

周りを見れば商隊護衛の面々が昼酒を楽しんでいる。

泡銭あぶくぜにとして、関所の一時金が大きいのだろうが、賭場は無く娼館も昼は休みだから飲むしかないのだろう。

冒険者の店は地場産以外にも値は高いが輸入した食材や酒を扱う事も多い。


地場の冒険者達は派手に金を使う護衛達を不景気そうな顔で眺めている。

早めに店を出た方が良いかも知れない。

眠っている雫なら血と争いの臭いを好むのだろうが、私はそうではない。

だが少し遅かった様だ。


「主人、いつからこの店じゃトカゲの妖魔が飯を食える様になったんだ?」

店に入ってきた地場冒険者が、こちらを見て言う。


「リザードマンは妖魔じゃありませんよ。」

主人が反論するが聞いていない。

どうやら既に飲んでいる様だ。


「俺らは日々この街を妖魔から守る為に戦ってるんだ!それなのに入り込んだ妖魔が飯食ってるのはおかしいだろ?」


「チャガラさン。出ましょウ。」

ルチェが大人の対応を見せ席を立った。

私も面倒くさいので席を立つ。


「おう!出ていけ!臆病者の余所者や妖魔に食わせる飯はねえ!」

地場冒険者が豪快に笑う。


「おい!待て田舎者!俺等が臆病者だって?」

近くで飲んでいた護衛冒険者が聞きとがめ声をかける。


「おおそうよ。商隊護衛なんてのは[オノボリ]冒険者の仕事だろ?」


「はぁ?しけた街から出られもしねえ田舎者冒険者が!どうせゴブリン退治しかできねえんだろうがよ!」


売り言葉に買い言葉。

店の中の冒険者が全員席を立つ。

「ちょ、喧嘩は外で……」

店の主人が話すが誰も聞いていない。


[鎮圧の霧](使1残5+2)


ルチェが手早く呪文を唱えた。

店一杯に霧が広がり、霧を吸った全員が意識を失い倒れる。

私は直前で息を止め意識を集中して耐えた。


「火の元は大丈夫そうでス。長くは持ちませン。急いで離れましょウ。」

ルチェはフードを被ると店から出た。


「魔術は恐ろしいっすね」


私はそう呟き後に続いた。

騎士ミロウの城は砦に毛が生えた程度です。


私の黒歴史がまた1ページ。

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