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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第16章 西へ

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市と関所

デグ視点です。

乾燥させたナツメヤシと新鮮なザクロの実。

砂漠で取れる香辛料の香りと焼かれる羊やヤギの肉の香り。


「今度はアレを食べよ。」


ニキアの市を冷夏様と2人で歩いている。

誰かと市を歩くのはハルピアで、兄が死んだ時以来だ。


「あふいけど、おいひいよ。」


羊肉の薄パン包を頬張る。

冷夏様は自分程ではないが、よく食べる。


リリさんは全身が痛むといって宿で休み、ルチェさんはその看病をしている。

冷夏様に訊くと病ではなく、[筋肉痛]らしいが、ルチェさんの塗り薬は良く利くらしいので大丈夫だそうだ。


そしてチャガラさんは1人飲みに出かけた。

フードと妖魔神のシンボルを着けていたので、シーフギルドか闇酒場だろう。

アルベロ伯領の魔獣について判れば良いが……。


「あれってアダマンタイトだよね?」


露店で青白い鉱物の小さな塊を見て冷夏様が指差す。

見れば様々な鉱物を並べた露店がある。

下に取ってつけたような台座が付いているから、土産物のつもりかも知れない。

自分の様な田舎者でも買わない様な出来だ。


そして店番の老いた露店商は微動だにせず座っている。

多分居眠りをしているのだろう。

つまり盗まれもしないぐらい価値のない品物ばかりという事だ。


「おじいさん、これいくら?」


冷夏様の声に慌てて起きた老人が銀貨2枚と、べらぼうな価格を付けてくる。


「銅貨10枚。それ以上なら諦めるよ」


老人は慌ててアダマンタイトの置物を渡してよこす。

銅貨10枚を払った冷夏様は受け取った置物の台座を外してしまった。

冷夏様は使いでのない屑鉱石をみて微笑んでいる。


「合金にしないと駄目だってルルさんが話してたけど……難しいかな?」


確かにアダマンタイトは加工が難しいとも言っていた。

ただ役にたたずとも、冷夏様が微笑むならそれでいい。


「あれは薬?それとも食材かな?」


吊るされた蠍を見ながら、冷夏様は楽しそうに笑った。

分からないので、自分は黙って首を振る。


「おばさん、これって食べ物?薬?」


聖女紐に気が付かなければ、冷夏様は世慣れない神官ぐらいにしか見えないはずだ。

女店主は蠍を手に取り説明を始めた。


☆☆☆


数日をニキアの街で過ごした後、[白商隊]は南西の街道をアルベロ伯爵領に向けて出発した。


リリさんは調達した馬に乗り、それに合わせ冷夏様も騎乗大蜥蜴の[龍星号]に乗った。

狭間筒は馬車に載せてもらっている。


傭兵は全て人間になり、フリーランスの10名が雇われた。

冒険者は自分達[竜の卵]を含め3組 15名。

塩を積んだ馬車が3台、雑馬車1台。


ただ便乗組の徒歩の行商人が10人近くいるし、雇われてない冒険者が3組10名が、やはり便乗で付いてくる。

便乗組が多いのは街道の治安が悪い事を示していると、以前兄が言っていた。


隊長も交代し、傭兵隊長の様な面構えの前任者から明らかに商人に見える若者に変わった。

自分と齢は変わらないだろうから有能な人物なのだろう。


「お初にお目にかかります。聖女様、リリ様、商隊長のニキアのビギンスと申します。」


出発前に挨拶に来たが、冷夏様は簡単に挨拶を返し、リリさんは目を向けただけで返事を返さなかった。

チャガラさんが言うには、リリさんの対応は貴族らしいが心証は良くないだろうとの事だ。


そうして数日、山間やまあいの街道を進んでいると街道を封鎖している関所があった。


「止まれ、止まれ!」


「ここより先は騎士ミロウ様の領土、商人は積み荷の1割、冒険者は1人銀貨3枚を支払え」

兵士か山賊か分からない様な出で立ちの兵が声をかけてくる。

関所には10名前後が詰めている様だ。


「お待ちください。」

ビギンス商隊長が馬車から降りて近づき言葉を返した。


「我々はパライバ商会の正規の商隊です。アルベロ伯爵により通行権が認められています。」

そして通行証らしき物を示す。


「便乗組の商人や冒険者からは、ご自由に。ただ我々は通過いたしますよ。」


「ならん、ならん!」

兵士は槍を立てて叫ぶ。

関所の奥から他の兵士も出てきた。


「伯爵領は通行自由かも知れんが、ミロウ様の領土は関係ない。税は払ってもらうぞ!」


ビギンスは馬車の近くに戻り、傭兵達を取りまとめる男に声をかけた。

どうやら、力ずくで押し通るつもりらしい。

だが、そのやり取りを聞いていたリリさんが関所に馬を進める。


「なんだ貴様は!馬を降りろ!無礼だろう!」

関所の兵士が叫ぶ。


「無礼は貴方達です。私はリリ・アルベロ。貴方達がないがしろにしたアルベロ伯爵の娘です。」

普段の気弱な態度から一変したリリさんが言葉を返した。


「騎士ミロウは父に臣従していたはずですし、父は勝手に関を設ける事は禁じていたはず。」

そうしてアダマンタイト製の宝剣を抜く。


「騎士ミロウが、我が父より離反したならば是非もありません。そうでないなら伝家の宝剣にかけて、弁明を求めます!」


関所の兵士達がざわめく。

後から来た隊長らしき人物に兵が駆け寄り耳打ちする。


「あの宝剣は……ではあの女は……」

隊長らしき人物が呟いたが逡巡しゅんじゅん一時いっときだった。


「伯爵の娘を僭称する愚か者を捕らえよ!誰も通すな!」

隊長が叫ぶ。


が、後から乾いた音がして、胸を撃ち抜かれた隊長が倒れた。

リリさんが馬首を返して下がるのと入れ替えに自分達冒険者や商隊の傭兵達が突撃する。


働いていた下男達は逃げた様だったが、武器を取った関所の兵は四半刻も立たず皆殺しにされ、関には火がかけられた。

勝手に関所を設け徴税する。

数年前の大河ドラマで地味に描かれいたのには関心したおぼえがあります。


私の黒歴史がまた1ページ。

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