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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第16章 西へ

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夜と朝

デグ視点です。

戦斧を振るい続けて、時間も腕の感覚も良くわからなくなった頃、ようやく夜が白み始めた。

いったい何体のアンデットを砂に還しただろう。


戦斧が聖性を帯びているので、触れるだけで崩れさるとはいえ、疲れを知らぬアンデットに苦戦していた。

冷夏様の「数は力」の言葉は正しい。


商隊護衛の傭兵達も疲労している。

経験の浅い冒険者がアンデットの波に呑まれた。

断末魔の声をあげるが助ける余裕はない。


怪我をした者は後方に下がり治療を受け、戦線に復帰する。

だが、アンデットが地面から湧いてくる方が早い為、段々と戦列が下がる。


「イェアエア!!!」

少し離れた所から竜叫流の声が聞こえる。

よく喉が潰れないものだと変に感心した。


「もう少しだ!もう少しで夜明けだ!」

鼓舞の声が聞こえる。

そして、その間も啜り泣く声が聞こえていた。

死を嘆き、アンデットを立ち上げる。

呪われしバンシーの泣き声だ。


遠くに暗い緑色の長い髪をした若い女が見えた。

同じく緑の、砂地には不似合いなドレスを着ている。

肌色からして魔族に見えるが、多分違う。

今までは暗くて見えていなかったのだが、あれがバンシーに違いない。


辺りが明るくなると、一晩中聴こえていたバンシーの泣き声が止んだ。

いつの間にか女の姿も消えている。


それから半刻もしないうちにアンデットを消し去る事が出来た。

数さえいなければ、スケルトンやゾンビは弱いアンデットだ。

たまに混じっていたワイトさえ気をつければ、商隊護衛の敵ではない。


☆☆☆


長い夜が明け[白商隊]は進み始めた。

そして二刻も進んだ所で休憩に入る。

夜通し斧を振るった為、自分も疲労困憊だが冷夏様の近くに行かねばならない。

冷夏様を守らねば。


「人間が冷たい水などニ、こだわるからダ」

「[聖女]などと言っても、アンデット共を追い払えなかったじゃないか」


人間は勝手だ。

不合理の理由を何かに擦り付けずには入られない。

故郷の村でもそうだった。

冷夏様は格好の的となるだろう。


「冷夏が悪いって言うっすか?」

チャガラさんがリザードマン傭兵や冒険者達の前に立つ。


「そうではないカ!」

「名ばかり聖女だ!」


「屑どもは黙るっす。減らず口はそこまでっすよ。」


「チッ」「屑だと?」


リザードマンは舌打ちし、冒険者は剣に手をかける。

チャガラさんも鯉口を切った。

前にアヤメ殿が言っていた抜刀前の準備だ。


「よせ、よせ、責任なら運行タイミングを誤った俺にある。無理に泉に進まず手前で夜営を一回入れるべきだった。」

見回りにきた商隊長が仲裁に入る。


だが商隊長の判断は、そんなに誤っていない。

手前で野営を入れていたら、暑さでやられる人間もいただろう。

最悪、水ヘの欲望に負けた者が夜中に泉に行き、バンシーに目を付けられていたかも知れない。

いや、何かに誘われるのか、大半の場合がそうなるらしい。


「絶妙な()()位置に[嘆きの泉]はあるから気をつけて。」

出発前に情報屋のアリスが教えてくれた事だ。


「体力が余ってるなら穴掘りを手伝え、犠牲者を祈祷後に埋葬する。帰りに知った顔が出てくるのは嫌だろう?」


「へい」「了解ダ」

「祈祷でいいっすか?」


勝手についてきていた行商人達と経験の足りなかった冒険者達、運が悪かった傭兵数名に脱走を試みた妓女。

全員で20名を埋葬した。

チャガラさんの妖魔神ヘの祈祷に顔をしかめる者もいるが、死者を弔う祈祷は永遠の神以外なら問題はない。


冷夏様はリリさん、ルチェさんと馬車の荷台で居眠りをしていた。

近くで槍を持ったリザードマンが1人あたりをにらんでいる。


「お前モ、聖女様らに文句をつけにきたのカ?」


「違う」

どうやら冷夏様らの護衛をしてくれている様だ。


「自分は[竜の卵]の1人。仲間だ」


「そうカ、仲間カ」

その後、そのリザードマンと交代で冷夏様らの護衛に立った。


長い夜と弔いの朝は終わった。

「嘆きの泉」の水が枯れないのはバンシーの涙が枯れないからだと言われている。

確かに泉の水は枯れないが、夜は決して近づいてはならない。

冒険者の手記より抜粋


私の黒歴史がまた1ページ。

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