西へ
茶殻≒雫視点です。
我々[竜の卵]と大地母神上級神官のリリ・アルベロは、パライバ商会の[白商隊]に同行させてもらう事になった。
白商隊はハルピアの西にあるニキアの街を経由してアルベロ伯爵領に向かう。
いつもの様に護衛依頼の形だ。
白商隊というのには2つの意味がある。
1つは積み荷の半分以上が塩である事だ。
内陸に位置するニキアもアルベロも塩は輸入に頼っている。
ただ交通の要所で交易が盛んなニキアに比べアルベロは山に囲まれた盆地であり、塩は貴重な物資と言える。
白のもう1つの意味はパライバ商会の扱う商品についての揶揄だ。
パライバ商会は鉱物関係に強い商会で、鉱物を採掘するのは人力。
つまり、奴隷や犯罪者を労働力に使って鉱山を運営している。
アルベロ伯爵領は内陸の為、奴隷を運ぶ商隊は手枷足枷を付けた奴隷を数珠繫ぎにして歩かせて運ぶ。
これを誰が言い始めたか不明だが、黒商隊と呼ぶ。
パライバ商会の黒でない商隊だから白商隊。
そんな意味だ。
「アルベロ伯爵家って名家で内陸、国人衆の力が強い。武田家みたいだね〜」
そんな意味不明な感想を洩らした冷夏は[龍星号]と名付けた騎乗大蜥蜴に荷物を載せている。
「[狭間筒]を持ってゆくのか?」
デグが確認している。
「戦闘は火力だよ。それに色々魔力付与したから、取り回しは改善してる。まぁ……困ったら力を貸してもらうけど。」
冷夏の答えにデグは少し困った顔で頷いた。
「あ、歩くのですか?」
「商隊護衛は普通歩きでス。」
リリとルチェも荷物確認をしているが、リリは見るからに旅慣れていない。
そんな、やり取りを護衛の半分を占める傭兵達が眺めている。
今回は冒険者が6組、フリーランスのリザードマン傭兵と人間の傭兵が計30人、荷馬車は16台と雑馬車が3台、慰安馬車1台と中々の規模だ。
更に商隊周りには移動に便乗した徒歩の行商人や単身の旅司祭などがついてくる。
「今回はツイてるナ。美人と同行ダ」
リザードマン傭兵がこちらを見て話す。
「聖女様か?リザードマンに人間の女の見た目が分かるのか?」
「違ウ。魔術士の方ダ」
「なんだ、俺は聖女様の騎乗大蜥蜴に惚れたのかと思ったぜ。」
「ほざケ!裸猿。ゴブリンの尻でも舐めてロ!」
傭兵達が笑う。
「ほら、喋ってないで配置に付け!出発する!使えない奴は鉱山に叩き込むぞ!」
商隊長が声を上げる。
普段は黒の商隊も率いるのだろう。
今回の商隊長は見た目はも言動も傭兵隊長と言った方がしっくりくる男だ。
「「へい!」」「「了解ダ!」」
馬車がノロノロと動き出す。
我々もそれに続いて出発した。
☆☆☆
「むぅ、暑いぞ。マドウ」
冷夏が虚空に呟く。
「もう無理、もう無理です。」
リリが同じく呟きながら歩いている。
今にも倒れそうだ。
「もう少しデ、泉に着くはずでス。」
対してルチェは苦も無く歩いている。
周りを見渡せば人間は皆、暑そうな顔をして黙って歩いている。
デグだけは元々無口なので、暑さが原因かは分からない。
逆にリザードマン傭兵達は逆に軽口を叩きながら、涼しい顔をして歩いている。
砂の街ニキアまで残り、数日。
所々に茂みがあるが、砂地を渡る熱い風を遮ってはくれず、かいた汗はすぐに乾燥してしまう。
だが、リザードマン達はこれぐらいの暑さは気に留めていない様だ。
「ルチェは暑さに強いっすね」
「リザードマンでは普通でス。チャガラも平気そうですネ」
「竜人の端くれっすから」
まぁ、そうだろう。
リザードマンは寒さには弱いが暑さには強い。
サンドリザードマンは乾燥にも強く、竜の島のリザードマンは湿度が高くとも平気だという。
「泉が見えましタ。」
ルチェが声をかけると、数人の人間が駆け出した。
[嘆きの泉]と呼ばれる小さな、だが枯れる事のない泉に白商隊は近づいてゆく。
「樽に水を入れて、馬に水を飲ませろ!人間は後だ。日没まで二刻しかない急げ!」
商隊長が激を飛ばす。
「こ、ここで野営ではないのですか?」
へたり込んだリリがルチェに尋ねている。
「馬鹿を言うな!ここで野営など出来るか!」
近くの傭兵が怒鳴る。
馬が優先されていて、お預けを喰らい人間の傭兵は気が立っている。
水を飲みたいなら商隊員を手伝えば良いものを。
「冒険者には先に水を割り当てる!傭兵共は手伝え!そこのリザードマン、人間だと面倒になるから妓女達に水を持ってゆけ!」
人相の悪い商隊長が叫んだ。
「糞、変われよリザードマン!」
傭兵が武器を置き、泉に走って行った。
この世界でも、塩って海から作るか、岩塩を採掘するかだよねマドウ。
(そうだな。だが冷夏の居た世界程、岩塩は取れない。第一次魔王戦争で真っ先にイブスル、今のハルピアを狙ったのは海を欲したからと言われるぞ)
伝統の魔族料理は塩味が薄いってデポさんが言ってたなぁ
私の黒歴史がまた1ページ。




