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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第16章 西へ

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コミュ障

冷夏視点です。

[魅惑の伯爵夫人]でカツレツを堪能した私は迎えに来た馬車に乗り、大地母神殿に向かっている。

デグさんは私の護衛として外を歩いており、ルチェさんも同じく歩いて付いて来ていたが、茶殻だけは街をぶらつくと行って付いて来なかった。


ルチェさんが付いて来たのは理由がある。

ルチェさんを大地母神殿に薬師として登録する為だ。

リザードマンは竜を信仰しているので、神聖魔法を使えるのは極少数。

その分、エルフと同じく薬学が発達しているそうだ。

そして、ルチェさんの学んだ私塾では魔術以外にも薬学が必須科目だったとの事でルチェさんは薬師ギルドの薬師資格を持っている。


だから申請すれば大地母神殿からも紫の薬師紐が貰えるはずだ。

大地母神殿の聖印と薬師紐はハルピアから離れた時に役立つ。

神が実在する世界での教団の権威は大きいんだよ。


「聖女様だ」


「聖女様が、いらっしゃったぞ」


私が馬車から降りると、辺りがざわめく。

今日の午後は月に一度の無理診療日。

参加は久しぶりになるけど、既に長蛇の列が形成されている。


「お久しぶりです。レイカ様」

治療用テントに向かう私を上級神官に返り咲いたリリさんが、ルチェさんを見て引きつった笑顔で出迎えてくれた。


☆☆☆


「168番のお薬でス。」


手際よく調合したルチェさんから受け取った薬を、神官見習いさんが番号札を見ながら患者さんに渡す。

あっという間に夕方になり、長かった患者さんの列も残り僅かだ。


私の周りには大勢の神官見習いさんが、補佐役として付いてくれている。

そして遠巻きにはデグさんを始めとした護衛の聖戦士や神官戦士達。

なんか申し訳ない気持ちでいたたまれない。

うーん、やっぱり聖女なんて柄じゃない気がするんだけど……。


(レイカの周りに見習いが多いのは、神力が多いから見習いで足りるのと、聖女を見ると啓示が受けやすくなるからだ。)


理由の前半はわかるけど、後半は分からないぞマドウ。


(前も話しただろう。人間は抽象概念より偶像を見た方が神を理解し易い)


(死神が度々話かけてくるレイカは例外中の例外だぞ)


うーん、何だかなぁ。


☆☆☆


外では大地母神様を称える歌が、まだ続いている。

それに神官見習いさん達50人以上に握手をして声をかけた。

まさに偶像アイドルみたいだ。


「レイカ様、ジンジャー水をお持ちしました。」


休憩用の個室に上級神官のリリさんが、飲み物を持って来てくれた。

リリさんもマッサージで疲れているはずなのに申し訳ない。

感謝を伝え、良く冷えたジンジャー水を飲んでいるとリリさんが何か逡巡している様子が見てとれた。


「リリさん、どうしたの?」

話かけるとリリさんが、意を決した様に話し始めた。


リリさんはアルベロ伯爵の娘の1人で、しばらく前に大地母神殿に修行に出されたという。

兄が平民の女に誑かされ……とか、婚約破棄がどうの……とかで、詳しく話せば長くなるというので聞かなかったが、どうやら追放同然で神殿にきた様だ。

(いや、結構聞いていたぞ。)


前世のゲームや物語でも、恋愛や政争に敗れた令嬢は修道院送りになっていたから、その類の話なのだろう。


「……ですが、その仲違いした兄から最近手紙が届いたのです。」


手紙の内容は伯爵領の銅鉱山に魔獣が現れた。

噂では石化病を癒やした[聖女]様と知り合いになったと聞く。

どうにかして、[聖女]が所属する冒険者達を魔獣討伐に寄越して貰えないだろうか?

というものだったらしい。


「大地母神殿に追放した妹に手紙を寄越す位に困っているらしいのですが、父は騎士達の手前、冒険者には否定的です。」


「そのクセ騎士達は調査に派遣した傭兵が壊滅したのを見て、討伐に名乗り出ない。」


「ようやく冒険者の店ギルドに出した依頼は秘密性が高い割に報酬が安いので、オノボリと言われるレベルの冒険者が何組か応募してきただけだそうです。」


うーん、相変わらずリリさんは知り合い相手なら早口で淀みなく喋る。

みんなの前で、これぐらい喋れれば無口で怠惰とか陰口言われなくて済むにもったいない。


「……レイカ様、どうか魔獣討伐の依頼を引き受けてはくださいませんでしょうか?」

ようやく結論になった。


私も生前の姉に言わせればコミュ障に近かったみたいだけど、その私から見てもリリさんの方が重い。

そして、残念だけど……。


「今の条件じゃ、依頼は受けられないよ。聞いた限りの条件じゃ命はかけられない。」

私はキッパリと告げた。


貴族等の力ある依頼人相手は、必ず信頼出来る冒険者の店を通して、さらに独自に情報を集めなくてはならない。


また知り合いからの依頼だからといって情に流されて引き受けてはならず、討伐依頼は条件を詰められないなら受けてはならない。


前にミケさんに教えてもらった事だけど、リリさんの話は正に断る条件だけが揃っている駄目依頼だ。


「そ、そうですよね。」

しょんぼりするリリさんに私は逆に話をした。


力ある依頼人は冒険者風情なら従うのが当たり前だと勘違いしているから、リスクとリターンが合わない依頼人だけが得をする依頼をしがちなこと。


知り合いだからこそ、条件を明確にしないと後々揉めること。


討伐依頼は条件が確実でないと、冒険者のリスクが高すぎること。


「討伐依頼ってそんなに難しいのですか?」


「そうだよ。契約条件詰めないとゴブリン退治にオーガが出て来て戦った挙げ句、さらに違約金支払義務が発生したりするからね。」

冒険者は契約が全て。

そしてその契約条件を満たす為に命を賭けるんだ。


「参考になりました。兄に手紙を書きます。」

リリさんは納得してくれた。


不器用だけど、ほっとけないんだよリリさんって。



レイカには後日、神殿から使った神聖魔法に見合った報酬が振り込まれますし、デグやルチェには日当が出ます。

大商人達の経済的負担は大きいですが、民衆の支持を買うには安いと考えています。


私の黒歴史がまた1ページ。

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