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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第16章 西へ

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聞き耳

雫≒茶殻視点です。


冷夏達は大地母神殿の無料診療日に向かったが、私は約束があり街を歩いていた。


大地母神殿の月に一度の無料診療はこの街の支配者たる大商人達の人気取り政策だが、普段医療に縁が無い貧民達には重要なイベントだ。


さらに今回は[聖女]冷夏が、久しぶりに参加するとの事前情報が流れたので裏通りも、こころなしか人が少ない。


裏カジノでの待ち合わせまで時間があるし、少し飲むか……。

そう考えた私は妖魔神のシンボルを首にかけ、フードを深く被ると傭兵宿に入った。



冒険者の宿にも入れない連中がたむろする傭兵宿の隅のテーブルでドワーフの作る蒸留酒を舐めていると、色々な情報が入ってくる。


もちろん、シーフギルドで情報を買う方が精度は高いし、欲しい情報が手に入る。

だが、ギルドのフィルターを通った情報では濾過されてしまう生の声があるのも確かだ。


砂の街ニキアの、南西にあるアルベロ伯領で冒険者を集めているなどという情報もそうだろう。

どうやら野生化した魔獣が伯爵の持つ銅鉱山近くに出没したらしく、退治する冒険者を募っているそうだ。


最初アルベロ伯爵は銅鉱山からの報告が途絶えたのを妖魔が出たと解釈し、傭兵団を雇い討伐に向かわせたそうだ。

その鉱山近くにはコボルト達の集落があり、度々鉱山を襲う事件が起こっていたからだ。


だが30名からなる傭兵達が数名しか帰らず、生き残りの傭兵達は鉱山に出没したのは妖魔ではなく魔獣だと報告。

伯爵は改めて冒険者達に声をかけ始めたという話だ。


冒険者の店には「鉱山調査」とだけ書いた依頼状あり、詳細には守秘義務が発生する契約になっていた。

シーフギルドは尋ねれば詳細を答えるだろうが、そうでなければギルドが関知する事柄ではない。

情報交換をする傭兵達の囁やきに耳を傾けねば拾えぬ話だ。


そんな事を考えていると、3人程のチンピラ達が近づいてくる。

魔都ハルピアでは妖魔神のシンボルやリザードマン刀だけではバカ共を遠ざける事は出来ないらしい。


「よう、姉ちゃん。1人かい?」

チンピラの1人が決まりきった台詞を吐く。


「失せろ」


私は一応は警告した。

もちろん、期待は別にある。

竜叫流にも抜刀術がある。

たまには使わねば鈍るというものだ。

自然と笑みが浮かぶ。


「遅くなりました。茶殻様」

だが期待に反し声がかかる。

5人程の護衛を連れたシンデレラが店に入って来た。


「早耳のシンデレラ」


「シーフギルドの幹部が何故この店に?」

チンピラ達が囁やきながら私のテーブルから離れる。


「もう少し遅れれば良いものを」

私が苦情を述べるとシンデレラは苦笑した。


「雫様。人斬りを楽しむのは程々になさいませ。」

そう告げて私の前の席についた。


「別に楽しんでいる訳ではない。降りかかる火の粉を払っているだけだが?」

シンデレラの分の果実酒を頼みながら答えると、溜息をつかれる。


「ここ10日で至高神の神官戦士が3人、女シーフが1人、女衒のスカウトに至っては5人、斬られてます。当方も迷惑してますし、治安傭兵も流石に座視出来ずに警戒しています。」


確かに、ここ数日でそれぐらいは斬った。

だが、こちらから仕掛けてはいない。

妖魔神官狩りの神官戦士、冷夏を狙っていた暗殺者、街角で声をかけてきたチンピラ達……。

是非もなしだろう。


当方ギルドからの呼び出し理由は警告という訳か?」


「それが一つです。もう一つは[竜の卵]ヘの情報提供です。ただ場所を変えましょう。出禁は解除されてますから。」

私は促され席を立つ。


シンデレラの護衛が傭兵宿ヘの支払いを済ませる。

命拾いをしたチンピラ達が蒼い顔で見送ってくれた。


☆☆☆


「ルチェというリザードマンについてですが……」


ダイスが転がるテーブルの隅でシンデレラが語り始める。

最初VIPルームに案内されそうになったが、ゲームテーブルが良いと告げるとあっさり席を用意してくれた。

せっかくのカジノなのだから、ゲームを楽しみたい。

銀貨10枚分のチップを適当に賭けながら話を聴く。


[竜の卵]に新加入するリザードマンのルチェは[竜の島]の有力部族の一つである青の部族の貴族階級との事だ。

しかもリザードマンの感覚から見れば、その姿は絶世の美女らしい。


「僅かに青みを帯びた輝く鱗に、長くしなやかな尾、またその麗しの瞳は……」

という様に(リザードマンの)吟遊詩人にも歌われるのだから掛け値無しなのだろう。


そんなルチェが冷夏を訪ねて来たのは、友人で大地母神官のフロワから冷夏こそが聖女だと聞いたからとの事。

一刀の手紙付きで来たのは青の部族が手を回した結果であり、背後関係はなさそうに見える。


「魔術の腕は?」


「並ですね。冒険者としては充分でしょう。」

シンデレラが即答する。

いつも思うが、シーフギルドの情報屋の耳は早い。


「友人のフロワというのは?」


「珍しいリザードマンの大地母神官です。同じ青の部族で政争に負けた貴族の娘でしたが、彼女が啓示を受けた頃から、火蜥蜴の街では大地母神信仰が高まっており、その中心人物です。」


「リザードマンが竜ではなく、大地母神をねぇ~」

私が思わず呟くとシンデレラは声を、ひそめて話す。


「[聖女]冷夏から、猫を通じて信仰を学んだと本人が語ってます。至高神のマイナー宗派の司祭が冷夏様に暗殺者アサシンを向けるのも、その影響力を恐れるゆえでしょう。」


「そのマイナー宗派について教えて欲しい」

私はテーブルに運ばれてきたチップをシンデレラに押しやる。


「支払いは現金にてお願いいたします。それに、やはり私が同行していない時はカジノの利用は制限させてください。」


蒼い顔をしたディーラーを横目にシンデレラが告げる。

ディーラーの手の動きを見ると次の出目がわかるのだから仕方が無い。


「情報もらったら、しばらく遊んで構わないかな?」


「お断りします。前の支配人は今は銅鉱山にいるのですから。」


シンデレラは情報を語りだす前にそう前置きした。

シンデレラが思ったより苦労してそうなのは何故でしょう。

今回から、なろうさんの入力デザインが変わりまだ違和感あります。


私の黒歴史がまた1ページ。

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