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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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茶殻&デグ視点です。


「申し訳ございません。カジノの出禁がまだ解けておりませんので。」

ハルピアの場末の傭兵宿で飲んでいると、数人の護衛を連れたシンデレラが前に座った。


茶渋姉の指輪を返す為にカジノに行ったら入り口で追い返された。

付いてきた二人組の尾行を斬り、一休みしていた所だ。


「金魚の糞は斬って捨てたっすよ。」


「チャガラ様、重ね重ね失礼を。」

シンデレラが頭を下げる。

ハルピアでは合法とはいえ、妖魔司祭を下手に尾行すれば斬られても文句は言えない。


「これは茶渋姉からの返却品っす。姉はシーフからも、冒険者からも足を洗ったっす。ロバート伯爵付き魔術師の夫人に納まったす。」

布に包んだ銀の印台指輪をシンデレラに渡した。

が、中身を改めたシンデレラが返してよこす。


「マスターから、茶殻様にお渡しする様にと、申しつかりました。」


「あっしは冷夏を制御出来ないっすよ」

あの天真爛漫な異世界からきた[聖女]を諌められるとすれば、菖蒲アヤメか茶渋姉ぐらい。

そう考えると、今の冷夏、世界を滅ぼせる[契約者]はタガが外れた状態だ。

背筋が寒くなる。


「いえ、チャガラ様以外に[聖女]を任せられる方はおりません。」

そう言って活動資金の振り込み証明を見せられた。

数字に現実感がない大金だ。


「努力はするっす。後、ここの払いは頼むっす」

そういうと席を立った。


スラムで空腹を抱えていたシーフ崩れが使いきれない程の大金を得て、幹部待遇になる。

[本物の聖女]の力は恐ろしい。

刀の鍔が微かに震え音をたてた。


☆☆☆


「[魔術と金融の街ニューエン]だと思う。」

久しぶりに会ったアリスはそう告げた。


「あの街ならハルピアと同じでハーフエルフが居ても違和感がない。潜伏するには持ってこいのはず。」

船での足取りを追い、集めた情報を分析した結果だという。


「もし、調査を続けるなら追加予算が欲しいかな。」

どうした物だろう。

ミケなら追手の気配で姿を消す可能性がある。

だが、大都市ニューエンに居るだろう?だけでは心許ない。


「もう少し、絞り込みを頼む。だが勘付かれては意味が無い。」


「わかってる。」


「いくら必要だ。」


「人を派遣するから金貨10枚は欲しい所だけど……」

自分は即金で金貨20枚を渡した。


「儲かってるんだね。」

アリスは金貨を豊かな胸元に仕舞いながら呟く。


「冷夏様のおかげだ。」

これは事実だ。

リキタ伯爵様からの700枚半分をパーティー資金に入れても1人金貨70枚。

更に宰相、大司教からも悪くない報酬が出た。

だが、これは全て[聖女]たる冷夏様の居る[竜の卵]宛の報酬だ。

自分の実力じゃない。


「下級騎士になったのに、冒険者続けるのは復讐の為?それとも[聖女]冷夏様の為?」

アリスは自分の目を覗き込む様にしながら質問してきた。


「両方だ。だが、どちらかを選べと言うなら冷夏様の為に働く」

自分は即答したが、アリスは不貞腐れた顔をする。

それを無視して話を続けた。


「自分に女神様が奇跡を授けられたのは冷夏様を助けて旅する為だろう。その責任は果たす。」


「それに下級騎士になっても良い事ばかりではない。王都からの帰りは産まれた村に寄れなかった。血が繋がってないとはいえ先代村長の孫で下級騎士。今の村長には邪魔者でしかない。」


「小さな村での権力争い。どこも似た様なものだね。」

アリスが呟く。

彼女の過去は知らないが、やはりどこかの農村の生まれなのだろう。

もちろん冒険者として過去は詮索しない。

それに冒険者の過去など、大抵は聞いて楽しい物じゃない。


「この後予定、開いてる?」

欲情を漂わせた目でアリスが訊いてくる。


「ああ、ここ数日は休養日だ」

そう伝えると、今度はアリスの顔が笑顔に変わる。

自分はアリスの分も含め、2杯エールを頼んだ。

シーフギルドは借金や借りがなければ(借りも大抵は金で解決出来ます)抜けるのは容易です。

ある限度の機密保持は義務付されますが。

(大半のシーフはギルドに借金や借りがあります)


これで15章は終了です。

よろしければ感想、評価をお願いいたします。


私の黒歴史がまた1ページ。

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