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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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落ち武者

タウアー&ファンテ視点です。


どうしてこんなことに……。

北に向かう間道を進みながら思い返す。


ほんの数日前まではアンセム伯爵を後ろ盾に至高神の高司祭を巻き込んで次の王位を窺っていた。

コート王子を暗殺し、コート派の聖女の首を獲った。

コート派の司教を自害に追い込み、それをサード派に擦り付ける算段も整えた。


だが、[学問の神]の選王会議で情勢は逆転した。

追い詰められた宰相が開いた会議で自派の[聖女]が乱心。

高司祭は殺され、[狂乱聖女]は討伐された。


そこから転落は早かった。

アンセム伯爵は自派閥の貴族が[狂乱聖女]に討たれた事を理由に至高神教団と断交、大地母神教団に乗り換えた。

そして病を称して謹慎している。


宰相の命により、至高神聖神派の神殿は包囲され、大半が投降。

滞在していた我と共に王都を脱出出来た仲間は30名程。

追手の姿こそ見えないが、それでも1人、2人と仲間は脱落してゆき今は半分。


国境を越えてすぐ、中立的な少数民族が住む山脈に入る前に間道は一度街道に合流する。

山脈さえ越えられたならクリーナ聖王国の国境なのだが、その前に必ずサード派は兵を伏しているだろう。


「王子、斥候が戻りました。やはり伏兵がおります。数は約40。ですが正規兵ではありません」

幼い頃より忠義を寄せてくれている騎士が報告をしてくる。


「正規兵でない?何処ぞの貴族の私兵か?」

我の首を手土産にしたい貴族が手を回したのかも知れない。


「いえ、それが薄汚れた傭兵にございます。更に言えば死んだ魔導司祭が使っていた傭兵。[狂人茸隊]です。」


「金次第で誰にでも尾を振る犬共めが!」

リキタ伯爵一行を魔導司祭に暗殺させる計画は失敗している。

当初は大地母神の[聖女]を討ったとの報告だったが、[聖女]は影武者を用意していた。


「王子。悪い知らせではありませぬ。犬なればこそ金で解決出来るのでは?それに大地母神の[聖女]らしき者も居たとの事。うまく抱き込めば味方になるやもしれません」

騎士が進言してくる。


空約束でも構わない。

犬ならば金と何なら爵位でも約束すれば容易に転ぶであろう。

宰相も手駒が足りず詰めを誤った様だ。


「使者を立てよ。必要なら我が直々に話してやっても良い」

騎士が頷くと付いて来ていた至高神司祭を使者に立てるべく去った。


☆☆☆


「舐められたもんだ……」

俺は内心呟いた。


王子様は傭兵の事が分かっていない。

傭兵は金次第では何処にでも付くが、それはフリーな時だけだ。

一度契約を結んだら、傭兵側・・・からは裏切らない。

傭兵は契約を守るのが基本だ。

まぁ、手を抜く事ぐらいはあるが。


そんな事も分からず、大金と子爵の爵位をちらつかせる使者を前に、俺はイラつきを覚えながらも、黙っていた。

交渉は依頼主の闇司祭と俺だけ、万が一依頼主が寝返るなら同じく寝返るが……。


「司祭殿、口上は分かったっす。」


隣で俺達の雇い主、闇司祭が何喰わぬ顔で答える。

見た目は大地母神下級神官のスラム訛の返答に使者は嘲りを目に浮かべた。

こいつは駄目だ。

使者のくせに表情一つ隠せない。


「で、いくら払えばタウアー王子を売ってくれるっすか?」


使者は黙った。

忠誠心が欠片でもあれば、即座に否定しただろう。

いや例え、忠誠心などなくとも否定するふりぐらいはしても良いだろうに。


「伯爵様から白紙小切手を3枚もらったっす。1枚は隣の傭兵に金貨100枚と書いて渡したし、[竜の卵]に1枚渡す予定だから、残り1枚あるっす。」


そう言って本当に伯爵振り出しの白紙小切手を出して見せた。


「使者殿は司祭っすよね。隣国に行って魔術師ギルドで引き出せば大金持ちっす。」


「金貨200枚、それで王子達の野営地を教える。」

悩む事もなく、あっさり司祭は転んだ。


「200なら、案内までして欲しいっす。小切手を渡すのは王子の首を取ってからっす。隊長、ペン借りるっすよ。」

そう言いつつも、司祭の目の前で200と小切手に記入した。

そして司祭の前でワザと馬鹿にした様に振りインクを乾かす。


「隊長、襲撃準備っす。王子の首を獲るっすよ」

闇司祭は、いつもの邪悪な笑みを浮かべた。


☆☆☆


「遅い」


犬どもに送った使者は、なかなか戻らなかった。

逃げたか、斬られたかと疑い始めた夕刻になり、ようやく使者は戻った。


「やはり犬、なかなかに強欲でして……」

司祭は汗を拭きながら話す。


「約束の金貨1000枚を2000にしろ。爵位は伯爵にしろ。領土はあそこが良いなど言いたい放題、困ったものです。」

よほど急いだのか、拭ききれなかった汗が地面に垂れる。


「そんなもの、約束だけなら、いくらでもしてやれば良かったではないか。」

我が話すと、隣で忠義の騎士が剣を抜く。


「我らを犬に、いくらで売ったのだ司祭。この薄汚い裏切り者が!」

司祭が驚きの表情をしたが、すぐに目を剥き無表情に変わった。

騎士に斬られたからだ。


「王子、囲まれています。こちらへ」

騎士とその部下に護られながら天幕を出る。

剛の者である騎士ならば我を守ってはくれるだろう。

今は囲みを破り落ち延びる事だ。

例え惨めではあっても。


乾いた長い音がした。

隣で騎士が倒れる。

金属の胸当てに穴が空いていた。

「おにげ…………」

何か話そうとして血を吐き出した。


「司祭以外は撫で斬りにしろ!」

叫び声が聞こえる。

肝心な司祭はもう死んでいるから、遠慮はいらないのだが。


先ほどとは違う乾いた音がタイミング良く聞こえる。

その度に腕利きの兵や下級騎士が倒れる。

飛び道具か。


音が止み薄汚れた戦場の犬どもが斬り込んできた。

2対1などお構いなしだ。

我も抜剣した。

目の前に戦斧を持った禿頭の戦士が迫る。


「我は王子タウアー、貴様の名は?」


「デグ」


それが我を討ち取る男の名だった。

15章も後少しです。


私の黒歴史がまた1ページ。

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