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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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馬鹿野郎

ファンテ視点です。


王都を出発した俺等[狂人茸隊]が、依頼主との待ち合わせ場所の村に着くと冒険者が1組待っていた。


依頼主は大地母神の下級神官に偽装し何食わぬ顔をしていたが、近づく前に俺は傭兵共通のハンドサインを送った。

シーフギルドの物とは別だが、傭兵どうし会話が出来ない状況など腐る程ある。


「(闇司祭、なんで[本物・・の聖女]が待ってるんだよ)」


「([聖女]に心当りがあると伝えていたはずですが?)」


「(馬鹿野郎)」


[聖女]は騎乗大蜥蜴に鞍はつけていたが、荷馬として扱っている様だった。

背に背負った妖魔筒の他に銃身の長い妖魔筒を載せていたからだ。

そしてその隣りにはオーガの様な聖戦士と正魔術師、そして竜人の女シーフが佇んでいる。


「予定どうり着いたっすね。」

依頼主が、わざとらしいスラム訛で声をかけてきた。

内心「このアマ!」とは思ったが、傭兵は仕事ビジネスだ。

こちらも、わざとらしい態度で自己紹介する。


「初に御目にかかります[聖女]様。我らは傭兵[狂人茸隊]、わたくしめはファンテと申します。以後お見知り置きを」


「うーん、会うの初めてじゃないよね?」

[聖女]が呟く。


「味方としては初めましてですよ、レイカ」

そう言うと魔術師が前に出てきた。


「[竜の卵]のリーダー、ブレナと申します。依頼内容はチャガラが話しているかと。」

そう言って握手を求めてくる。


「これは失礼しました。隊長のファンテです。過去はさておき、契約中は間違いなく味方ですよ」

俺は魔術師の手を握った。


「時間が惜しい。話は歩きながらにしましょう隊長殿」

そう言われ俺達は挨拶も、そこそこに水だけ補給し村を出発した。

どうせこの人数の傭兵は村には泊まれない。


部下の数名が、ざわついている。

「[聖女]様だ。」

「本物の[聖女]様だ。」

俺は[本物の聖女]が追い払われる様に王都を出た理由の方が気になった。

理由によっちゃ、こいつはヤバい仕事かもしれねぇ。


☆☆☆


「これは狭間筒だけど改良されてるんだよ。」

[聖女]が新し物好きの部下達に解説をしている。


「弾が少し重くて、真っ直ぐだけどライフリング入っていて、弾が回転することで直進性が増してるんだよ。」

技術的な意味は誰も分かっていないだろう。

ただ若い女、しかも[聖女]が気さくに話してくれるだけで大半の野郎共は満足しているのだ。


その間に、こちらは魔術師と話していた。

どうやら宰相の政治力が伯爵より1枚上手だったらしい。

ガキを傀儡王に仕立て、国王代行の伯爵と宰相で国を牛耳るのに大地母神教団は邪魔だったのだろう。

[聖女]は割を喰って王都を追われた。

そんな所だ。


「じゃあ追手が、かかる可能性は低いんだな」

刺客ぐらいならまだしも、後から軍が来るのは勘弁して欲しい。


「サード王が即位し政権が固まってしまうまでの措置でしょう。殺してしまっては大地母神教団が完全に敵にまわってしまいます。」

やや甘い読みだが、その可能性が高いだろう。


「そうっすか?タウアー王子共々始末出来れば後腐れなくないっすか?」

闇司祭が口を挟んでくる。


「時間をかけると、政争が落ち着いてしまうっす。王子を手早く討って戻る必要があるっすよ」

下級神官に化け、スラム訛で話しているが、時折り見せる邪悪な笑みは闇司祭そのものだ。


「これは量産品ではないよ。オルガ族は新し物好き見たいだね。逆にアルガ族は工業規格の概念が徹底されてる。普及品妖魔筒はニコイチ出来るんだよ。凄いよね。」


[聖女]はまだ話している。

妖魔筒など、ダークエルフの道楽武器にしか思えないのだが、良くそこまで話せるものだ。


「そういや、あのダークエルフからの鹵獲品、そんなにヤバい代物か?」

俺は思わず闇司祭に訊いてしまった。


「あっしはアレで死にかけたっすよ」

闇司祭が予想外に律儀に答えた。


「遠間から撃たれたら、積み上げた武芸など意味ないっす。」


「飛び道具や魔術はそんな物だろ?」


「そうっすか?攻城兵器以外で300メートル先を撃ち抜ける武器って初めて見たっすよ。」

そうなのか?

俺は狙撃を見ていないので半身半疑だ。


「王子達を待ち伏せする時、分かるっすよ。」

そう闇司祭は呟いた。

異世界物で凄い発明物は良く見ますが、地味な発明物に出てくる物なら「工業規格」があります。

誤差を定める事によりニコイチが出来るのは量産に欠かせません。

鍛冶屋ギルドが定めた規格の剣ならどの鞘でも納まるとか強度が同じだとかは軍では地味に重要ですから。

凄い強い魔剣1本にも、大量生産品の無銘剣にもロマンがありますからね。


私の黒歴史がまた1ページ。

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