結合
マドウ視点です。
スマホは振動を続けている。
しかし〘死神〙か……。
冷夏が電話番号登録していたとは思わないが、神ならば、さもありなん。
覚悟を決めて電話に出る。
対応を誤ればアンインストールされて終わりだろう。
「(むぅ!こんな事だろうとは思ってたよ。)」
予想に反して電話の相手は冷夏だった。
冷静ではあるが、ひどく怒っている。
「こんな事?」
「([契約深度]深まるとやっぱり乗っ取られるんだね、マドウ)」
「誤解だ、冷夏。」
契約に相手が耐えられない場合は別だが、正式に契約した相手を乗っ取ったりはしない。
まぁ契約者の死後、次の契約者が決まるまで損傷していなければ、肉体を借りる事はあるが。
「(それって死者への冒涜じゃないの?それに私は生きてるよ!)」
「必要悪だ。しかし、よく帰ってこれたな。」
「(おかげでラーメン食べ損なったけどね)」
???
良く分からない。
だが、大きな力の塊が自身の内部から湧き上がるのは感じられる。
やがて離れていた魂が結合された。
「返して貰うよ。マドウ」
冷夏が電話を切る。
(さもありなん。冷夏が戻ったなら冷夏の肉体だ)
「うーん、スマホ、マドウごと湖にでも捨てた方が良いかな?」
(勘弁してくれ冷夏)
静かな怒りは、まだ治まっていない。
そして今、冷夏は目を瞑っている。
死んでいた間の記憶を同期しているのだろう。
「もう!マドウの大魔法って、ぶっ放し系しかないの!鐘楼は燃えてるし、石畳は溶けてるし。」
([荷電魔粒子砲]はコンパクトな方だぞ。それにセット化して[設定]したから、今度からは消費魔力13で中魔法の様に詠唱なしで使える。便利だろう?)
「便利だろう?[ビームライフル]の何処が便利なの?」
(磁気や自転による影響ない様に[自動計算]入れたのが余分だったか?)
「そうじゃない!」
攻城戦で城門や城壁を破壊するには持ってこいなはずだが、どうやら理解出来ないらしい。
それに[ビームライフル]とは聞いたことのない概念だ。
「ここいらへんに飛んだのが見えたっすよ」
「お〜い、冷夏大丈夫か?」
茶殻と茶渋の声がする。
「おーい、こっちだよ。」
冷夏が手を振っている。
今居るのは神殿の屋根の上だ。
「気をつけて下さい。暴走している可能性が否定出来ません」
「レイカ!」
ブレナの声がし、デグが近づいてくる。
「暴走してないよ〜大丈夫だよ〜」
「酔っぱらいの大丈夫は大抵大丈夫じゃないっす」
冷夏を含めた[竜の卵]が笑っている。
[浮遊](使1残34)
屋根から地上にふんわりと降りた。
「マドウ、翼を生やす魔法ってないの?[飛翔]の燃費が改善するんでしょ?」
(仮想翼を生やす魔法はあるが、今の服のままでは、服の背中が裂けるぞ。それでも良いか?)
「むぅ、良いわけないでしょ!マドウって常識ないよね」
うーん、冷夏には言われたくなかった。
「大丈夫か、冷夏。その……やっぱり」
茶渋が冷夏を疑っている。
「大丈夫だよ。少しハイになってたけど、今は冷静だよ。」
茶渋の問いに、冷夏は意味不明な返しをしつつ笑って誤魔化す事にした様だ。
皆、笑っている。
[竜の卵]は[狂乱聖女]の討伐依頼を果たした。
(背中の大きく空いた服なら仮想翼を生やせるぞ)
「冒険者が、そんな女優さん見たいな服着ていたら風邪引くよ。この世界の服は高いし。」
(飛翔魔術はまだ改良の余地が大きいな)
私の黒歴史がまた1ページ。




