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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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暗転再び

冷夏視点です。

ほんのりホラーっぽく


私がアスファルトで舗装された坂道を下ると、一軒のラーメン屋が赤い提灯を下げて営業していた。


あたりは、すっかり暗くなり、お腹も空いている。

ただ、どこで無くしたのか装備も武器も財布もない。

いや、病院を抜け出したんだっけ?

着ている衣服はゆったりとした見慣れない服だ。


しかし、これは困ったぞ。


それでも灯りに引き寄せるられる様にラーメン屋さんに近づいてゆく。

店の横には犬小屋があり、シベリアンハスキーっぽい子犬が眠っていた。

小屋に張り紙がしてある。


「音楽を聴かせたり、餌をやらないでください。」


餌は、まぁ分かる。

しかし音楽って何?

犬に無理やり音楽を聞かせる変人さんでも出るのだろうか?


ラーメン香龍カロンと看板が出ていて、外に食券機が置いてある。

水の流れる音が響いてくるので辺りを見渡すと河が流れている。


[四方津大橋]

立派な橋が架かっているが、今は誰も通っていない。

このまま渡って先に進もうか。

そう思ったが、お腹がグゥ~と鳴る。


食券機を見ると、[ラーメン][小銅貨6枚]

とある。

ただその下に「初見さんに限り1杯目は無料」と書いた貼り紙が貼られている。

私は古い硝子張りの引き戸を開け、ラーメン屋さんに足を踏み入れた。


「いらっしゃい」

中はカウンターだけの小さな店。

いかにもラーメン屋さんといった姿のおじいさんが、声をかけてきた。


「1杯目は無料って本当?」


恐る恐る声をかけると、おじいさんは笑って言う。

「ああ、本当だとも。座りなさいお嬢さん。今、ラーメンを用意するから。」


そうしてラーメンの麺を茹で始めた。


「でも、本当に良いの?」


「ああ、お嬢さん。時代が変わったからね。替わりにラーメンが出来るまで話の相手に、なっておくれよ」

私が頷くと、おじいさんは話を始めた。


「橋が架かる以前、渡し守をしていてね。渡し賃は小銀貨1枚だったが、橋が架かってからは渡し舟には誰も乗らなくなった。有料橋の料金は小銅貨6枚だったからね」


「ただ今じゃそんな風習も廃れたから、橋は無料になったよ。それでもたまに小銅貨6枚を持って下ってくる者もいるから、ラーメン1杯を同じ値段にしたんだよ。小遣い稼ぎにね。」


「だから、ラーメン1杯は無料でも良いんだ。上が立て替えてくれる。」


「そういえば最近の若いのは『電子決済使えませんか?』とか訊いてくるが流行ってるのかい?」


私は何か大切な事を忘れてい気がしたが、本当に重要なら思い出すだろうと思い、おじいさんの質問に答えた。


「今では、若い人の少額決済はほぼ電子決済かな。」


「親しい看護師さんが言ってた『貨幣は発行組織の信用だから、紙や金属片などの必要もすでにない。信用に足る情報が記録できさえすればな』って。」


「へぇ~、始めてみるかねぇ」

おじいさんが湯切りしながら、感心して言った。


「はい、お待ちどう」

少し経つと目の前にラーメンが出てきた。

美味しそうな香りがする。


と、ポケットでブーブーと振動音が鳴った。

あれ?

私、スマホなんて持ってたっけ?

さっきは見つからなかったのに。

病院からかな?


反射的に電話スマホに出る。

お姉ちゃんからは、相手を確認してから出なさいと言われていたけど、つい反射で出てしまう。

悪い癖だ。


「もしもし。」


「〘ヨモツヘグイをすると戻れなくなりますよ〙」


あれ?どこかで聞いた声。

でも、なんだろう?

急ぎ、来た道を引き返さなきゃいけない気がする。


「あの〜、せっかくのラーメンごめんなさい。私……」


「いいって、いいって、急ぎ戻りな。食事をしていない者は引き留められない決まりでね。」

おじいさんは残念そうに言う。


「食事をしていたら、神でも引き留めるんだがね」

なんだろう。

ここに居てはいけない気がする。

私はラーメン屋さんを出て走り出した。


「またのお越しを」

入口の硝子越しに店主がニヤリと笑ったのが見えた。

冷夏と某女神の黄泉比良坂トーク


「あの〜何故ラーメン屋さん?」


〘その人の最後に食べたかった物の店に見えるのですよ。昔の一時期は白米だとか、おにぎりが大人気でしたね〙


「うーん、江戸か大戦末期や直後の時代かなぁ。じゃあ、Mのハンバーガーだったら、あそこにあのMの店が建って、おじいさんがクルーで出てくるの?」


〘そうですよ。でも夢なら、少し変な設定も違和感なく受け入れられるでしょ?そんな感じですよ〙


「うーん、でもシュールだなぁ。そういえば代金は?」


〘利用料は黄泉の国が国費で払ってますよ〙


「え、税金とかあるの?」


〘物品販売ですよ。他の神なのですが、金持ちは自分の国に入れない政策を取っているので、その神を信じる金持ちが大量に流れてくるのです。そこで免罪書類を販売してます。正規品ですよ。〙


「うーん、冥府の沙汰も金次第……。」



私の黒歴史がまた1ページ。


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