死と粒子砲
冷夏&マドウ視点です。
「イェアエア!!!」
茶殻さんが謎の気合とともに狂乱した聖女さんに斬り掛かってゆく。
「フフフ、あはは」
狂乱聖女さんは笑いながら、その斬撃を弾き逆に斬りかかる。
私は視覚聴覚を魔術で強化し(使2残57)鐘楼でミエニー妖魔筒の狙いをつけながらそれを眺めている。
しかしウソでしょ。
茶殻さんの斬撃は弾ける様なヤワな威力じゃない。
前に妖魔の村で襲撃された時に傭兵の金属兜を叩き斬ったのを見た事ある。
なのに狂乱聖女さんには通じていない。
弾かれバランスを崩した茶殻さんはギリギリに跳びのき、代りにデグさんがバトルアックスをフルスイングして攻撃したが、今度は剣で受け止められる。
今のデグさんのフルスイングはオーガさえ揺るがすというのに。
「デグ、チャガラ、どうやら、あの狂戦士は身体強化覚醒薬も併用している様です。」
ブレナさんが冷静に指摘する。
聞くだけでも体に悪そうな薬だけど、どうなのマドウ?
(使い捨ての戦闘奴隷に投与する戦闘薬で、もちろん毒薬だ。投与し四半刻もすると全身の組織が耐えられなくなり、崩壊する。だが狂戦士の再生能力があれば併用可能とは考えたな)
感心してる場合じゃないぞマドウ。
何とかしないと。
(そうだな。だが冷夏、あちらの心配はして居られぬぞ!)
[高速詠唱][火球](使2残8)
[球形シールド](使1残56)
私に向けて[火球]が飛んできた。
無意識の内に中魔法で防ぐ。
見れば鐘楼の鐘に続く階段の下にフード付きの魔導司祭が居るのが見える。
あの襲撃の時に見た敵らしい。
装弾していた妖魔筒を構え反射的に発砲。
狙い違わず相手を貫くが相手もこちらに指を向けて魔術を完成させた。
[高速詠唱]の効果があったらしい。
[死の極光](使3残5)
胸が苦しくなる。
あれ、また、このポンコツ心臓め。
あたりが暗くなる。
相手は階段を転げ落ちていったが、私の意識も途絶えた。
☆☆☆
[AED](使1残55)
転生者の魔術士が開発した心臓を再起動させる魔術を自身にかけた。
名称の意味は失伝しているが、効果は伝わっている。
「冷夏、冷夏!」
意識に働きかけるが返事がない。
うーん、すでに坂を下ってしまったか……。
短い付き合いだったが、残念だ。
次の契約者が見つかるまでは、しばらく肉体を借りるとしよう。
心臓も動いているし、肉体的にも運良く損傷がないから、動くには困らないはずだ。
鐘楼から下を見れば、[竜の卵]達は決め手がなく苦戦している。
行きがけの駄賃だ。
この肉体の性能試験も兼ねて、あの狂乱聖女は仕留めてしまう事にしよう。
「埓があかない!皆、下がれ!」
[竜の卵]へ叫ぶ。
ブレナと茶渋が怪訝な顔をしたが無視した。
警告はしたのだから、後は自己責任だ。
魔術の構成を思い浮かべる。
なるべく地味な魔法にしないとな。
[耐熱シールド](使1残54)
[仮想バレル](使1残53)
先ずは中魔法で大魔法に必要な下準備をした。
肉体が透明な球形耐熱シールドに包まれる。
そして詠唱を始めた。
詠唱に伴い球形シールドの前の空中に浮かべた仮想バレルに魔力が注ぎ込まれる。
またその影響を受け、大気中の魔力が浮揚、発光しながら集まってくる。
以前の契約者はこの過程が期待感があり美しいと称してした。
そして詠唱が終わり、砲身に収束した魔力の粒子を放出した。
[荷電魔粒子砲](使10残43)
この魔術を構成した転生者の魔術士が言っていた。
「原理としては魔力を使った荷電粒子砲の様な物だろう。ただ莫大な熱や光が発生しているから、やはり無駄が多い。改良の余地ありだな。」
周りの空気は加熱され揺らいでいる。
鐘楼の木製部分は煙を上げ発火しそうだ。
放出された魔粒子は発光しながら狙い違わず命中。
狂乱聖女を一瞬でチリに変えた。
流石にチリからは再生しないだろう。
ただ、それだけでなく石畳も溶かし、溶岩の様に赤くしている。
[竜の卵]達は少し離れた所で呆然としていた。
大魔法の中ではコンパクトな攻撃魔法だが、インパクトは強すぎる様だ。
周りが燃え始めていた。
木製部分が発火してしまっている。
いかんな。
[飛翔](使1.2.3……)
鐘楼から飛び出し近くの神殿の屋根まで飛行したが、翼なき身では燃費が悪すぎる。(残35)
突然、腰のポーチがブーブーと振動を始めた。
中を見るとスマホが着信を知らせて震えている。
!?
着信?この世界で?
画面を見ると〘死神〙と表示されている。
む、むぅ、どうしたものか……。
AEDと訴訟リスクが話題になっていた事ありましたね。
使用には上半身を裸にしないといけないので。
心臓由来で倒れてなかった時に特に面倒くさくなる様でした。
裁判所は後出しジャンケンありですからね。
東日本大震災前に津波を予測していた人なんて事実上居なかったが(居ても当時はトンデモ学者扱い)後出しで賠償金バンバン認めてますから。
私の黒歴史がまた1ページ。




