狂乱聖女
チャシブ視点です。
「魔術師殿、何か策は?」
リキタ伯がブレナに話かける。
貴族に護衛に神官や従者、30人以上の人間を斬り伏せて[狂乱聖女]は建物から彷徨い出た。
そして、なお健在で、[知識と学問の神]の神殿内を彷徨い歩いている。
アンセム伯を初めとする生き残った貴族共は疾く逃げ去り、残っている貴族は宰相とリキタ伯のみ。
もちろん宰相と伯爵の部下達は逃げる様に勧めているが、宰相は義務感が、リキタ伯は責任感が強いらしい。
「通常なら、とっくに燃え尽きるか、神力を使い果たして再生出来なくなり死亡するのですが……」
ブレナが困惑気味に返答する。
見た感じ[狂乱聖女]は燃え尽きず、更に取り出した茸を噛り神力を回復している為、死ぬ様子もない。
何が楽しいのか笑いながら、フラついている。
寄らば斬るを続けているので、今のところ近づかない限り大丈夫だが、神殿から王都に彷徨い出たら大変な事になる。
神殿関係者も、あらかた逃げ出しているが、挑んだ神官戦士達は全て斬られた。
彷徨える狂戦士。
恐ろしい化物だ。
「魔術で焼き尽くすのはどうですか?」
聖女の姿をしたグレーテが提案してきたがブレナは首を振る。
「狂戦士に魔術は効きにくいのです。神力が関係しているようなのですが。」
「うーん、大火力で焼くのは現実的ではないね。やっぱり削りきるしか方法なさそうだよ」
虚空を見つめていた冷夏が改めて言う。
俺は冷夏まで狂戦士化したらと思うとゾッとした。
「あ、冷夏はその、大丈夫なんだよな?」
俺が問うと冷夏は笑った。
「酷いな。私は薬物なんて、やってないよ」
「じゃあ、どうして神力が48もあるんだ?」
肝を据えて正面から尋ねた。
宰相と、その取り巻きがドン引きし少し下がった。
グレーテはじっと冷夏を見つめて何かを探っている。
平均的神官の8倍の神力。
もし暴走すれば、俺等が相対している神力17の化物の2倍以上の化物だ。
「スマホ。凄い魔導具のおかげだよ。」
さらっと冷夏は答えた。
「使うにはコツがいるから、たまにボーっとしているみたいに見える見たいだけど、全然平気。魔導具が凄いだけだから私は[聖女]でも何でもないんだよ。」
俺はグレーテを盗み見る。
グレーテは誇張はあるが嘘ではないとのハンドサインをした。
「この場は[竜の卵]で対応をお願いしたい。もちろん国費から報酬は支払う。」
宰相が切り出し、ブレナは了承した。
変に騎士、兵士に任せると死体が増えるだけ。
犠牲を厭わない人海戦術は最終手段にしたいのだろう。
「宰相様と伯爵様はお逃げ下さい。最終手段への備えとアンセム伯爵の動きが心配です。」
ブレナが落ち着いて話す。
こうして見るとやはり正魔術師。
貴族などとも普通に話せるし、相手の貴族も平民への対応ではない。
「化物はともかく、アンセム伯と聖神教団の動きは気になる。グレーテ、お前は残り何かあれば報告を。」
伯爵は、そう言い残し、宰相も王城ヘ取って返した。
「グレーテ、災難だったな」
俺が声をかけると、元々残る気だったらしい。
「偽物は成敗、成敗。何処にいますか?[かくれんぼ]のつもりですか?」
化物の声が聞こえる。
「あの化物は、どうやら私を探しています。私が逃げれば王都に彷徨い出るでしょう。」
マジかよ。
「あの広場に誘い込みます。レイカはあの鐘楼に。」
デグと茶殻が前衛、俺がブレナを守り中央、グレーテが餌として後方、そして冷夏は狙撃と配置が決まった。
「18回殺せば、終わりっすよ」
本人に自覚はないだろうが、茶殻は相変わらず言わなくても良い事を言う。
「偽物はどこですか?」
「こっちだ化物!」
グレーテが叫び作戦が始まった。
狂乱聖女の血と脂で濡れた剣が、てらりと光った。
狂乱聖女のイメージは乱射事件を起こした犯人ですね。
銃の変わりに魔剣を持ち歩いてます。
私の黒歴史がまた1ページ。




