負け、そして自由
冷夏視点です。
「検死した[知識と学問の神]の神官より、この様に鉛弾が2つ提出されておりますぞ!」
!?
ちょとおかしい。
骨に命中したのか、ひしゃげた弾と火薬量を間違えたのか少し歪んだ弾を指し示した相手の高司祭様と知識の神官様に私は思わず口を挟んだ。
「あの〜知識の神の神官様。その弾がコート王子から摘出されたのは間違いないですか?」
もちろん突然、侍女が口を挟んだので怪訝な空気が漂う。
「もちろん、間違いない。」
「本当に?」
「我が神に誓って偽りなく。」
知識の神の神官は少しムッとした表情で答えてくれた。
「高司祭様。高司祭様の主張は『約300メートル離れた屋根から、コート王子は狙撃された』で、よろしいですか?」
「そうだが、何だね?君は」
私が咄嗟に返答出来ず困っていると、今迄ただ佇んでいた相手の[聖女]さんが、突然笑い出した。
観客席が少しだけど、ざわめく。
「私と同じく、そちらの[聖女]もアヘン漬けで黙っていると思ってましたのに。そうではないのですね。」
いつの間にか焦点があっていなかった[聖女]様の目に光が戻っている。
観客席が今度は大きく、ざわめいた。
え、アヘン中毒なの?
「大地母神の[聖女]様、続けて下さいまし、侍女の姿の理由は何となく解りますから。」
ざわめきが大きくなる中、私は説明を促された。
うーん、失敗したぞ。
(冷夏なら、やらかすのは想定の範囲内だ。)
……。
「その摘出された弾は、狙撃に使われたと主張される狭間筒の弾ではないよ」
私は話した。
「何を根拠に!」
高司祭様が声を荒げるが、私は続けた。
「玉割が違うんだよ。妖魔筒と狭間筒は口径が違う。狭間筒の弾はこの大きさなんだ。」
私はポケットから狭間筒の弾を出した。
証拠品とは二回り以上大きさが違う。
何故、弾を持っているかというと、狭間筒の調査をしていたからだ。
(マニアらしく出発寸前まで、狭間筒を弄っていたからだろう。)
私レベルじゃマニアとは呼べないぞマドウ。
「疑うなら、妖魔筒と狭間筒を持って来て比べて見ると良いよ。」
ざわついていた観客席が静まる。
「待て、[硝煙の聖女]の持つ特別な妖魔筒なら……」
高司祭様が反射的に話した。
うーん、良く調べてる。
でも……。
「こちらの[硝煙の聖女]こそ[聖女]と認めるのですね。高司祭様」
思わず口走った言葉尻を捉えグレーテさんが畳み掛ける。
それに私の妖魔筒の弾はドングリ型で丸くない。
「どうやら、結論が出ましたねぇ。高司祭様」
相手の[聖女様]が、にこやかに語りかける。
侍女さんが小さな瓶に入った薬を取り出すが落としてしまう。
[聖女]様が抜剣し斬りつけたからだ。
「負け、負け、負け、これで私は用無し、自由!」
続けて高司祭様も首を刎ね飛ばされた。
「剣だ!剣を持っているぞ!」
誰かが叫んだ。
観客席に騒ぎが広がる。
「偽物は成敗ぃぃ!」
「竜叫流にも抜刀術はあるっすよ!」
次にグレーテさんが斬りつけられたが、茶殻さんが抜刀して剣を弾く。
そして返す刀で[聖女]を斬ったはずだが……。
[再生](使1残16)
聖女の傷が瞬く間に塞がり、茶殻さんは鋭く反撃された。
[竜加速](使1残5)
ギリギリ下がって、躱したが血吹雪が跳ぶ。
「グレーテ!冷夏を連れて逃げるっす。こいつはヤバいっす」
大きく間合いを取りながら、茶殻さんが叫ぶ。
傷は深くはない様だけど、治癒魔法をかける隙がない。
私はグレーテさんに引きずられる様にして舞台を降りた。
「自由!自由!自由!」
狂乱した[聖女]が向こう側の観客席に踊り込む。
敵味方の区別はまるでついていない。
一番近くの者に斬りつけている。
貴族様の護衛が斬られながら、[聖女]に何度か致命傷を負わせるが、その度に瞬時に再生し暴れまわる。
「燃え尽きるまで退避っすよ」
怪我を自身で癒やした茶殻さんも舞台から降りてきた。
何あれ……。
久しぶりに足が震える。
(冷夏。あれが狂戦士だ。しかも慢性化している分、燃え尽きるのが遅くたちが悪い。)
私達はリキタ伯爵様を連れて建物の外に逃げ出した。
現状不死身の化物をその場に残して。
妖魔筒のモデル(というか、ほぼ名前が違うだけだよね)の火縄銃は小筒、中筒、狭間筒など用途などにより玉割(口径)が違います。(大筒は大砲だよ)
球形の弾と筒の口径が合わないと発射ガスが漏れて不発だったり弾が詰まって暴発したりしますから重要性がおわかりいただけるかと。
(球形弾の場合、素材が同じなら重さがわかれば弾の大きさが揃うよ。大砲で9ポンド砲とかいえば筒の大きさが分かるんだ。家康さんが玉割を機密にしていたのは有名だよ)
うるさいぞ冷夏。
私の黒歴史がまた1ページ。




