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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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懇願、鷹揚

ダークエルフのエタン視点です。


騎乗大蜥蜴に乗った大地母神官が、我らオルガの名を冠した妖魔筒をこちらに向けた。

そして発砲してくる。


私は3つの事に驚いた。


1つ目は騎乗したまま発砲した事。

馬でも大蜥蜴でも余程の慣れがない限り、発砲音に驚き乗り手を振り落とす可能性が高いはずだが全く持って動じていない。


2つ目は唸りを上げた弾が射手の胸を撃ち抜いた事。

普通の妖魔筒の有効射程は90メートル程度なはず。

それが約300メートルを撃ち抜くとは偶然か?

何かの魔術で強化されているのか?

どちらにしろ射手は即死した。


3つ目は鞍と鐙が改良されていて、騎乗したまま弾込めが出来、しかもそれが手慣れていて異常に早い事だ。

我らダークエルフの妖魔筒衆上位者と遜色ない。


「何を呆けている!撤退す……」


想定外に応射されて、咄嗟に判断出来ない私を護衛のウルガは現実に引き戻してくれた。

だが全てを話終わる前に、その頭を大地母神官の弾丸が撃ち抜く。

やはり、命中は偶然ではない。

脳を、ぶちまけたウルガが目の前で崩折れる。


私は咄嗟に岩場から飛び出したが、唸りを上げて飛来した弾が肩を貫通し骨を粉砕した。

肩が熱い。

出血を堪え森の中に逃げ込む。


森の中を移動し戦場から離れようとしたが、激痛が襲ってきた。

出血も酷い。

片手で何とか止血を試み、ある程度は成功したが寒気がする。

逃げなければと気は焦るが体が動かない。

何とか茂みに隠れたが、そこで意識を手放した。


☆☆☆


「ダークエルフが目を覚ました」


目の前に禿頭の戦士がいる。

重そうに狭間筒を持った大地母神官がこちらに歩いてきた。

私はいつの間にか後ろ手に縛られて、木に縛り付けられていたが、肩の傷は治っている。


私は背筋が寒くなった。

普通、捕らえられた捕虜を待つ運命は斬首か絞首、もしくは火炙りだ。

わざわざ傷を癒やす事は無い。

傷を癒やしたと言う事は契約魔術で縛られての奴隷か慰み者になる可能性が高い。


「これ、狭間筒だよね?銃身長いし[玉割]も規格外だし」

あの応射してきた方の神官だ。

見れば聖印に京緋色の紐が通っている。


「[お前の方が聖女だったのか……]」


「そうだよ、やっぱり[聖女]って柄じゃないよね」

そう言って笑う。


「[頼む!奴隷や慰み者にするぐらいなら、殺して欲しい。お前も女なら慈悲をかけてくれ!]」

私は懇願する。

惨めだが、[聖女]なら妖魔として、素直に殺してくれる可能性があるかもしれない。


「むぅ、ジュネーブ協定とかないもんねぇ。あっても正規の軍人じゃ無いから駄目かな?」


「ねぇマドウ、伯爵様に引き渡したらどうなる?」


「それは、寝覚め悪いなぁ」


何か意味の分からない事を呟いて自問自答している。

エルフ語は理解している様だが話は通じてなさそうだ。


[聖女]を騙るだけあり[狂人茸]と薬物を常用しているのだろう。

狂人茸は神力を高めるが、服用量を誤れば狂乱状態を引き起こす。

なので、それを抑える為に液体アヘンを常用する。


投薬バランスが難しく、最終的に被験者は廃人化するので、実用には耐えないが被験者を使い潰すなら、問題ないのだろう。

短期間もてばそれで良い。

人間は恐ろしい生き物だ。


「これの想定射程と命中精度は?量産予定あるの?」

それでも私は少しでも、この薬物中毒であろう[聖女]の機嫌を取るべく、この新兵器について知っている事を洗いざらい話した。


また、今回の襲撃の首謀者はフローラを名乗る魔導司祭であること、ダミーだろうが、[憂国団]とかいう傭兵隊の口座があることも話した。

楽に殺される為に。


「狭間筒とか弾とかは戦利品として貰うよ。」

一通り話しを聞いた後、[聖女]が、わざわざ宣言する。


「やっぱり信仰は[妖魔神]?」

一応はそうだと答えたが、改宗しろと言うなら大地母神に鞍替えすると伝えた。


「うーん、信心深くないのか……でも良いかな?名前は?」


「エタン、オルガ族」

名ばかりだが部族名も添える。

妖魔として、それなりに意味がある部族名も[聖女]は頓着しない。


「エタン、自身の信じる神に誓って私達に危害を加えないと言って」

私は言われた通り宣言した。

信心深い者なら、破れば妖魔神の神罰があるかもしれないが私は信仰心は薄い。


「デグ、拘束を解いてあげて。」

!?

禿頭の戦士が油断なく、だが拘束を解いてくれた。


「はい、これは回収した水と食料と銀貨。必要でしょ」

聖女が当たり前に渡してくれる。


「[見逃してくれるのか?]」


「そうだよ、伯爵様に引き渡したら良くても斬首になっちゃうからね。うまく逃げられる?」

訝しんだが、[聖女]は平然としている。

何か裏があるわけではなさそうだ。


「[怪我が無いなら大丈夫だ。魔術も使えるし、ゴブリン程度なら使役も出来る]」

私が答えると、[聖女]は頷いている。

魔術による不意打ちが怖くないのだろうか?


尋ねると、私の魔術の方が多分早いと言われ魔術を使って花を出して見せた。

中魔術まで使えるのか……。

この人間は、恐らく[契約者]だろう。

ならば薬物漬けの偽物ではなく、本物の可能性が高い。


「[聖女]様。名前を教えて欲しい。この恩は必ず返す]」


「鈴木冷夏だよ。恩とかは、エタンの勘違いで命拾いしたから、気にしないで。」

そう言って、また笑った。

勝者の余裕とも違う鷹揚さは、この[聖女]本来の気質なのだろう。


「飯が出来たっすよ。妖魔筒は回収出来たっすか?」

[聖女]の仲間の声がする。


「狭間筒だよ。固定して使う別物だよ!」

仲間の声に答えて聖女と戦士が離れてゆく。


私は2人に背を向け、森の中を駆け出した。

2024/1/1

明けまして、おめでとうございます。


何が、[めでたい]のかって?

これを読まれているのですから、昨年は生き延びられたのでしょう。

ダークエルフのエタンの様に。

だから祝っておきましょう。

今は。


今年もよろしくお願いいたします。



私の黒歴史がまた1ページ。



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