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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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護衛側

ブレナ☆デグ視点です。


伯爵らを護衛して、王都に向かう私達一行は街道を進み、谷間の森を抜けようとしていた。

この辺りは待ち伏せに適した地理なので、レイカさんとチャガラさんは騎乗したままリキタ伯の馬車から離れた列の後方に控えている。


私とチャシブ、デグさんの[竜の卵]の徒歩組は逆に馬車の近くに配置された。

どうやら伯爵は私達の実力を買ってくれているらしい。



「敵襲!敵襲!」



案の定、隊列の前方で声が上がり馬車が止まる。

そして前方から駆け戻った下級騎士が馬車に馬を寄せて叫ぶ。


「前方より、賊らしき者が襲撃してまいりました。疾く打ち払いますので、しばしお待ちを。」


下級騎士は馬に軽く拍車をかけ前方に駆け出した。

馬車周りの数人の兵が援護の為に駆けてゆき、変わりに後方からの兵が馬車の警護に入る。

だが、その僅かな間隙を突いて右手の森より新手が現れた。


[火球](使1残9)

[耐火](使1残5)


轟音がして炎が馬車を舐めるが無傷。

新手の指揮者らしき、フードを被った相手の詠唱を読み、こちらも魔術を使ったからだ。


フード付きの詠唱は正規の魔術師の詠唱手順とは違う。

魔導司祭あたりだろう。

私は正魔術師の端くれではあるが、負ける訳にはいかない。


[竜加速](使1残5)


チャシブが竜力を使い加速した。

歩兵2人が魔術師の私を排除しようと前進してきたがチャシブに阻まれ近づけない。

竜人の戦闘力は一般人を凌駕する。


[鼓舞](使1残2)


デグさんが雄叫びを上げた。

相対していた兵をなぎ倒し、突進。

こちらも、敵魔導士の排除を狙う。

少人数の小競り合いでは魔術の有無が勝敗を決めるからだ。


[高速詠唱][光の矢][火球](使3残6)


こちらの意図に気付いた魔導士が攻撃魔術をデグさんに向けた。

普通なら魔術を浴びたら、ただでは済まないが、デグさんに限り心配していない。


契約発動[魔術無効]


光の矢が霧散し、爆炎を上げた火球を突っ切ってデグさんは突進する。

デグさんに直接魔術は効かない。

まるで勇者の様に。


「フローラ様、ここは私が引き受けます。」

護衛の教団兵が割って入ったが、時間の問題だろう。

デグさんは実戦経験が増えてから、急速に腕を上げている


どこからか角笛の音がする。

前方の敵は撤退を始めた様だ。

チャガラさんとレイカさんが、後方配備の兵と共にが騎乗したまま近づいてきた。


「援軍到着っすよ」


チャガラさんが叫ぶ様に話すのと同時に、長く響く乾いた音がした。

チャガラさんが胸を血で染めながら落馬する。


「チャガラ!」

チャシブがチャガラさんに駆け寄り、レイカさんは騎乗したまま、射撃してきた方向へ応射している。


[高速詠唱][発音弾][牙召喚](使3残3)


魔導士がオーガの牙を地面に放り殿しんがりとした後、逃げ出してゆく。

発音弾は退却の合図だろう。


レイカさんが手早く三射した後、踵を返し戻り、騎乗大蜥蜴から降りた。


「茶渋姉、あっしは……」

咳き込み血を吐く。

肋骨をはじめ肺腑や肝臓をやられている様だ。

あの傷では、残念だが多分助からない。


「喋るな馬鹿!冷夏急いでくれ!」

チャシブが叫ぶ。


少し離れた所では、牙から生じたオーガとデグさんが一騎打ちを演じている。

オーガの攻撃をいなし、確実にダメージを与えているので心配はなさそうだが、援護の為、私は詠唱を始めた。


オーガと一騎打ちが出来る戦士はなかなか居ない。

ましてや圧倒出来る戦士となれば更に少ない。

オーガには普通、何人かで連携してあたるものだ。


「[死神よ、この者の、致命傷を、癒やし給え]」[使12残36]

レイカさんがリザードマン語で治癒を祈った。

傷が光り瞬く間に塞がり組織が再生されてゆく。

光が収まると意識は失っているが、容態は安定していた。


さすがは[聖女]

普通なら手の施しようがない傷だったはずだが癒してみせた。

チャシブが涙をこぼす。


私は普段の気さくなレイカさんには感じない畏怖の念を覚えていた。


☆☆☆


[閃光](使1残4)


ブレナ殿の援護により一瞬動きを止めたオーガの首を刎ね飛ばす。

だが、フード付きの魔術を使った女には逃げられてしまった。


あたりには襲撃者の死体が転がっている。

オーガだけは割れた牙に戻っていた。


[治癒](使1残1)


女神様に祈り自分の傷を癒やすと、レイカ様の側に近づいた。

レイカ様はチャガラさんを癒している。


「致命傷は癒やしたけど安静に。前方の様子見てきて、神力余裕あったらもう一度神聖魔法かけるよ」

レイカ様は立ち上がりながら言う。


「冷夏、すまねえ。茶殻は妹。俺には少ない家族なんだ。」

チャシブさんが珍しく泣いている。

ブレナ殿がチャシブさんの肩を抱く。


「茶渋姉、ラブラブっすね」

チャガラさんが目を覚ました。

しかし、口調こそチャガラさんだが気配がまるで違う。


「あれ?目が覚めた。でもまだ起きちゃ駄目だよ。重傷だから。」

レイカ様も意外な顔をしている。


「冷夏、今のあっしはセーフモードみたいな物っす。冷夏なら通じるっすよね?」

何を話しているのか?

智者のブレナ殿にも分かってない様だが、レイカ様は頷いている。


「それでも、神聖魔法は使えるっすから、自己治癒するっす。冷夏は前方だけ気にすれば良いっすよ」


「[妖魔神よ、我が肉体を、癒やし給え]」(使6残0)

チャガラさんがリザードマン語で自己治癒をした様だ。


「致命傷治って更に6かかったす。冷夏で無ければ死んでたっす。マジ感謝っす」

起き上がりながら、全身を確かめている。

気配が、いつものチャガラさんに戻る。


結局、護衛部隊の再編と弔いの為、今日はこのまま野営をする事になった。

味方は死者2名、負傷6名(負傷者は完治)

敵は死者17名、負傷者4名(負傷者は尋問後、斬首)


味方の負傷者全員を癒やしたレイカ様を見る目が変わった。

今までは聖女紐を着けた変わり者扱いだったが、一兵卒から侍女まで全員が[聖女]としてレイカ様を見ている。


レイカ様は気さくに話してた侍女さんまでも、「なんか、よそよそしくなった」と嘆かれてはいたが。

2023/12/31

今年も、後僅か。

しばらく前までは意識せず、昨日と変わらぬ今日、そして変わらぬ明日が来ると呑気に思っておりました。

最近は1日、1日何とか生き延びて、1年が過ぎる感じです。

拙い物語を読んでくださる皆様に感謝を。


私の黒歴史がまた1ページ。

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