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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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いかさま

デグ視点です。

周りに野次馬が集まり始めた中で、2回目が始まり、グレーテがコインを入れたカップとダミーをそっと押し出す。


なるほど、チャガラ殿の助言の通りだ。

押し出すタイミングで器用にコインは回収され、グレーテの左腕の袖に隠された。

右利きに見せていたが、それもダミー。

グレーテは左利きだ。


全てが空の3つのカップ。

自分が真ん中を示すと、グレーテは右手でカップが空な事を示し、こちらから見て右、グレーテから見て左側のカップの下に器用にコインを滑り込ませて、開けて見せた。


「1勝1敗だな。戦士。次が本番だ!良いなグレーテ抜かるな!」

少年、いや子爵様にはカラクリは恐らく分かってはいない。


さて、どうするか?

イカサマを指摘したいが、相手は少年とはいえ権力者。

正面からの話になれば、ゴネて冒険者風情を黙らせるのは訳もない。


だが……。

ふと、我にかえる。

自分は考えるのは苦手だ。

出来るのは力尽くで解決するぐらい。

なら、そうするしかない。


そうしている間にグレーテはやはりコインを抜き取りカップを回す。

カップの速度は早くない。


「デグ様。お選びください。」

カップを止めたグレーテが、選択を促してくる。


「これだ。」

自分は自分から見て左側のカップを左手で押さえた。

グレーテが手を伸ばしてくるが、腕に力を込め開けさせない。

そして右手で残り2つのカップを手早く開けてしまう。

侍女に素早さで負ける様では戦士は務まらない。


もちろん、開けた2つのカップの下に兎は居ない。

少年は驚き、グレーテは顔を青ざめ冷や汗を流している。

自分は左手で押さえつけていた最後のカップから手を離して告げた。


「コインを確認してくれ、グレーテ」

侍女は左手でカップを開けた。


消えていたはずの兎がそこに居た。


☆☆☆


自分とチャガラ殿、そして少年と侍女は主人のドワーフに借りた小部屋のテーブル席に座っている。


簡単な料理と飲み物を置いた栗毛のハーフエルフが小部屋を出てから、チャガラ殿が少年に話しかけた。


「エドモンド=リキタ子爵。先程はデグが失礼したっす。あっしは火蜥蜴のチャガラっす。」


「僕の事を知っていたのか。」

少年は驚いている。

侍女は、グレーテは益々顔色を悪くし、冷や汗を滴らせていた。


「勝負に負け、正体も知られている。」

侍女としては、良くても解雇、悪ければ死を賜る失態だ。

例え少年の我儘が発端でも、責を負うのはこの侍女。

絶望しても、無理はない。


「サードについて話せば良いんだな」

事の重大さを理解していない少年、いやリキタ子爵は普通に話てくる。


「サードは僕よりも3つ年下で、ひょろっとしている。金髪に灰色の目、白い肌をしていて、剣は持てないし足も遅い。木にだって登れないし魚も捕れない。」


「坊っちゃま、高貴なる方は木登りなどなさらないものです。ましてや池に入って魚捕りなどは……」


「グレーテは子供の頃していたと聞いたぞ!」


「私は卑賤の産まれですので。」


リキタ子爵は腕白ワンパクの様だ。

侍女の苦労が偲ばれる。


自分も子供時分は幼馴染み達と、仕事の手伝いの合間に木に登ったりして遊んだものだ。

兄者も祖父から文字を学んだり学問を教わっていて忙しいはずが気がつけば、いつも共に居てくれた。


だが、やがて小さな村の中でも身分の差が出て幼馴染み達とは疎遠になってゆく。

最終的には兄者と2人きりになってしまった。

苦くも懐かしい思い出だ。


「……だから、サードは王様になるなんて、とても無理だ。それを聖女様に伝えたかった。」

少年は年齢の比較的近い友達が居なくなるのが寂しいのだろう。


「子爵様は友達思いなのだな。」

自分の感想にチャガラ殿は微妙な顔をして頷いた。


「そうっすね。色恋には、まだ早いっすからね。」


「そこまで知られ……」

グレーテが震えて倒れた。


「神官を呼ばないと!」

少年が慌てるが、チャガラ殿はその肩を抑えてニヤリと笑う。


「噂の裏が事実上取れたっす。それに闇司祭なら、ここに居るっすよ。」


チャガラ殿は妖魔神に祈りを捧げ始めた。

私の黒歴史がまた1ページ。

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