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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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大冒険

デグ視点です。

「坊っちゃん。ヤバいです。私が叱られます。首にされます。」


「なら、グレーテは帰れば良いだろ?」


「それこそ頸にされます。広場に晒されてしまいます。」


[まわる水車]に、身なりの良い少年と、お仕着せ衣装の侍女が入ってきた。

年の頃なら7〜9才、どこぞの商家の子息だろう。

給女の栗毛のハーフエルフが困惑して見ている。

どう見ても、冒険者の店には不似合いなコンビだ。


「すまん、ハーフエルフ。飲み物を2つ。」

少年の方が注文を出す。


「ジンジャー水2つで良いですか?銅貨2枚になります。」

銀貨で支払い、釣り銭の銅貨を何枚ももらっている様子からして、金持ち少年の大冒険だろう。


グレーテと呼ばれた侍女は上手く行っても叱責、下手すれば解雇。

人に仕える仕事は大変なのに薄給という酷い仕事だ。


「おい、ボウズ。ここは子供の来る所じゃあない。ジンジャー水飲んだら、とっとと帰んな。」


ドワーフの主人が(しゃが)れ声に更にドスを効かせて少年に話す。

少年は傍目に怯えを見せながらも言い返した。


「こ、ここに聖女が宿泊しているだろう。話がしたい。」

ドワーフが、こちらを見ながら顎をしゃくった。

ブレナ殿とチャシブ殿はまだ帰って居ないから、多分泊まりだろう。

チャガラ殿は感心無さげに少年と侍女を眺めているだけだ。


「レイカ様は大地母神殿に宿泊される。この宿には居ない。話がしたいなら、明日大地母神殿に行くべきだ。」

仕方なしに自分が答えると、少年は侍女を見る。


「嘘じゃありません。帰りましょう。坊っちゃん。」

この侍女、嘘を見破る技術か天恵かを持つらしい。


「お前達は聖女の仲間なのだろう?聖女について話を聞かせてもらう。」

偉そうに話す少年。


「ダダではお断りっすよ。」

横からチャガラ殿が口を挿んできた。


「金か?金なら……」


「金で仲間は売れないっすね。それ以外のもので何が支払えるっすか?坊っちゃんの誠意が見たいっす。」

チャガラ殿が意地の悪い笑みを見せる。

流石だ。

自分には到底出来ない、あしらい方。


「じゃ、じゃあ賭けをしよう。グレーテ[兎探し]をやって見せて。僕らが勝ったら聖女の話を聞かせてもらう」


「なら負けたら、王孫のサード様の事を話してもらうっす。子爵様良いっすか?」


チャガラ殿がサラリと恐ろしい事実を告げた。

そういえば、リキタ伯爵には、この少年と同じ年頃の長男がいたはずだ。


「坊っちゃん。止めましょう。私の腕では本職に敵いません。」


「大丈夫っす。こちらで答えるのは、この戦士す。」

いつの間にかチャガラ殿が主導権を持ち、自分が巻き込まれる形になっていた。


やはり自分は交渉などは苦手だ。



「あの……。戦士様」

グレーテと呼ばれる侍女が遠慮がちに話しかけてくる。


「デグだ」

そう自己紹介をする。


「せ、デグ様は[兎探し]をご存知ですか?」


「知らない。ルールを教えてくれ」

そう答えると、グレーテはコインを1枚とクルミを半分に割った形の金属カップを取り出した。


「デグ様。(わたくし)がこの3つのカップの中に1枚の兎のコインを隠します。その後、カップを動かしますから、どのカップに兎が隠れているかを当てて下さい。」

どうやら、兄者に以前聞いたスリーシェルゲームと言う物らしい。


大抵がイカサマで、田舎者を鴨にする悪質な大道芸だ。

兄者からは「決してやってはいけない」と釘を刺されていた。

自分が戸惑っていると、チャガラ殿が後から抱きつきながら、耳元に小声で話しかけてくる。


「コインが鉄製でないか改めるっす。そして鉄でないなら、カップではなく手の動きを見るっす。」


「もし鉄製なら、金貨でやろうと提案するっす。」


「これ自体が茶番な可能性もあるっすから油断大敵っす。」

そして、わざとらしく頬にキスをしてから離れた。


「勝負の前に坊っちゃんにも幸運のおまじない必要っすか?」

チャガラが少年の方にも近づき尋ねた。

少年は顔を紅くしながらも首を横に振る。


「試しに何回か、やって見ても良いだろうか?」

グレーテは頷く。


これは渡りに舟なはずだ。

簡単に当てられる。

そうイメージ付けがスリーシェルでは重要で大抵サクラがその役割を果たす。


さり気なくコインをチェックし、グレーテに返しゲームがスタートする。

コインは通貨統一前の古い兎銀貨だった。


グレーテの手慣らしもあるのだろう。

動きは早くなく、予想通り1回目は中央にあったコインを簡単に当てる事が出来た。


だが、「練習とはいえ、最初から兎を当てるとは。やるな戦士。」少年は感心していた。


貴族とはいえ、多分演技ではないだろう。

グレーテは少し困惑気味な視線を少年に向け、チャガラ殿は笑みを浮べている。

どうやら周到な罠ではなく、本当に少年の我儘から生じた事態の様だ。

娯楽に飢えた周りの冒険者達が遠巻きに眺めている。


グレーテが指で挟んだコインをかざした後、カップに入れ動かし始めた。

スリーシェルゲームは、日本にもかつてあった大道芸です。

サクラが簡単に金をせしめて、客を誘い鴨にする詐欺的な物でしたが。

海外では観光客相手に現役らしいので、お気をつけて……。


私の黒歴史がまた1ページ。

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