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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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新弟子

冷夏視点です。

私がケリー先生の部屋を訪ねると、見知らぬ下級神官がいた。


「どちら様ですか?」


真面目な顔で尋ねてくる。

部屋から猫の道は無くなっており、真新しい本棚に本や巻物が綺麗に整頓されている。

どうやら部屋を間違えたか、部屋替えがあったらしい。


「上級神官の鈴木冷夏と申します。ケリー先生の部屋を訪ねたつもりが、部屋を間違えた様です。」


「間違えてませんよ、レイカ」

後ろからケリー先生の声がした。


「新しい弟子のロカが、片づけてくれたのです。」


嘘!?

私は驚いてケリー先生の新しい弟子を見る。

アヤメは[先生の部屋を片付けるのは人間には不可能です]と公言しており、ケリー先生とアヤメを注意した大神官も苦笑していたのだが……。


「れ、レイカ様。[石化病]を癒やした聖女のレイカ様ですか?」

ロカと呼ばれたケリー先生の弟子は跪いている。


「確かにレイカだけど、私は聖女ではないよぅ」

慌てて私もロカさんの前にしゃがみ込む。

何だか最近こういう人が多い。


(聖女相手なら普通だと思うが?)

うるさいぞマドウ。


「レイカも、ロカも、部屋の入口では邪魔ですから立って。奥で話しましょう」

先生に促され、私とロカさんは立ち上がり奥に移った。





「これが鈴蘭さんから、これが菖蒲からの手紙です。」

ロカさんが用意してくれた香茶を前に3人共、座ってから私は油紙に包んできた2通の手紙を先生に手渡した。


先生は、まず鈴蘭さんからの手紙を一瞥したあと、菖蒲からの手紙を読む。

どうやら鈴蘭(ムゲット)さんからの手紙は例の暗号で書かれている様だ。


「アヤメは結婚し、簡易神殿を開くのですね。」

私が知る限りの経緯を話すと、ケリー先生は少し残念そうな顔をした。


「アヤメには、もう少し選択肢があっても良かった気がしますが、良い選択をしました。」

うーん。


「ケリー先生、本気でそうお考えですか?」

私が思わず尋ねると何故かロカさんが答えた。


「聖女様、先生は嘘はついておられません。」


「?」

なんだろう?

この違和感。


「これ、ロカ。」

先生がロカさんを、たしなめる。


「ロカには天恵があり、言葉の中の嘘がわかるのです。ただ、知っての通り真実が分かる事は厄介だったりするので、秘密にさせています。」


「それに騙されていたり、無知だったりして本人が信じていると意味がありません。」


うーん、でも確かに嘘をつく気がなくても、嘘を見透かされてるかと思うとムズムズする人は多いかな。

人は言葉を、自分を、飾るからね。


「それより、レイカとアヤメのお陰で[石化病]が治る病気になりました。大地母神殿としてもレイカに聖女の称号を贈る予定です。」

ケリー先生が内定事項を教えてくれたが、うーん、微妙だぞ。


「先生、それって[石化病]よりも、王位継承に絡んでですよね?石化病絡みなら、私だけが聖女になるのは、おかしいです。」


石化病の謎を解いたのは鈴蘭(ムゲット)さんだし、その知識を護っていたのはケリー先生だ。

アヤメは娘として、弟子として、鈴蘭さんから知識を継承していた。

私は実践はしたが、神力8以上あれば私である必要はなかったはずだ。


「レイカ様、レイカ様は女神様が遣わされた聖女です。偶然が巡り合わせたと言うなら、それこそ奇跡。どうか矜持をお持ち下さい。」

ロカさんが泣いている。


むぅ。

マドウの語る女神様と世界の認識する女神様のギャップが大きくて困惑する。


(死神め、珍しく迂遠な手を使いおって)


マドウ、『珍しく』とか相変わらず不遜だぞ。

それにマドウ、その説だとロカさんが先生の弟子になったのは偶然ではないの?


「レイカは本物の聖女ですよ。だから2人のニセ聖女の精神が破綻する前に助けて上げてください。」

ケリー先生?

何か物騒な言葉を漏らしてませんか?


取り敢えず落ち着こう。

私は香茶に手を伸ばした。

ロカについては12章[兎達の戦い]を再読してくださると……広告(笑)


私の黒歴史がまた1ページ。


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