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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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誰が為に

視点デグ


「ようデグ。冒険者らしくなったじゃないか」

ロバートさん、いやロバート伯爵が気さくに声をかけてくれた。


黙って首を横に振る。

冒険者として未熟なのは、自分でも良く分かっている。

自分に出来るのは斧を振り回す事だけ。

後はレイカ様達が居てこそ成り立っている。


「相変わらず、喋るのは苦手か。それとも緊張してるのか?」

両方だ。

黙っている方が性に合っているし、相手はロバートさんとはいえ貴族なのだ。

貴族に失礼があれば平民は死ぬと、幼い頃に兄者に聞いた事を覚えている。


「まぁ、俺は俺さ。貴族とは言っても、冒険者で食えなくなる前に引退しただけだ。」

ロバートさんは相変わらず、何手か先を読み話す。

自分は正直苦手だ。


「で、本題だが……。デグ、ミケを探してるんだろ?」

今度は黙って頷く。


自分は復讐を考えている。

叔父が至高神を奉じていたが、[正義]とやらは降っては来ない。

殺された者の無念は誰かが晴らさねば決して自然に晴れはしない。


「言っても無駄とは分かっているが、一応は言っておく、息子が2人ともミケに殺されたとあっちゃ、ドグに顔向け出来ないからな。」

確かにミケは人とは違う化物だ。

そして人として美しい姿をしているのが恐ろしい。

ロバートさんは自分ではミケに勝てないと見ている。


「復讐なんぞ止めておけ。復讐なんぞして、ジグが喜ぶと思うか?」


「思わない。」

自分は即座に呟いた。

兄者は復讐なんか望まないのは分かっている。


「だったら……」

ロバートさんが話すのを失礼を承知で遮った。

どうしても、伝えなくてはならない。


「だが、復讐はする。しなければ自分の気が晴れない。」

正直に告げる。


「デグ。自分の気晴らしに復讐するってのか?」

自分は再度頷く。


「死者は復讐なぞ望まない。復讐を望むのは生きている者だけだ。」

[正義]は降って来ない。

身内を殺された者の無念は自身で晴らさねば晴れはしない。


しばし沈黙が流れた。

そして溜息をついた後、ロバートさんは言った。


「なるほどな、で、あてはあるのか?」


「あの日の夕方、共和国行きと火蜥蜴行きの2隻の船が出ている。ミケらしきハーフエルフが、どちらにも乗船手続きはしていた。」

追手がかかると想定していたミケの偽装工作。


アリスから報告を受けた時は驚いた。

兄者を殺し、仲間を裏切って直ぐに冷静に対応するミケの能力と冷淡さに。


「違うな、夜に出た聖都行きの船あたりだろうな。そして、途中の補給地で下船しているだろう。それに男の1人、2人は連れてるかも知れない。覚えておけミケは、そういう女だ。」

自分は三度頷く。


ハルピアのアリスに手紙を書こう。

文字を学び続けているのは意味がある。

ロバートさんの助言を伝え、再度ミケの足取りを追わせるのだ。


「俺はミケが見つからない事を願ってるぜ。」

ロバート伯爵は最後に、そう告げた。

私の黒歴史がまた1ページ。

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