誰が為に
視点デグ
「ようデグ。冒険者らしくなったじゃないか」
ロバートさん、いやロバート伯爵が気さくに声をかけてくれた。
黙って首を横に振る。
冒険者として未熟なのは、自分でも良く分かっている。
自分に出来るのは斧を振り回す事だけ。
後はレイカ様達が居てこそ成り立っている。
「相変わらず、喋るのは苦手か。それとも緊張してるのか?」
両方だ。
黙っている方が性に合っているし、相手はロバートさんとはいえ貴族なのだ。
貴族に失礼があれば平民は死ぬと、幼い頃に兄者に聞いた事を覚えている。
「まぁ、俺は俺さ。貴族とは言っても、冒険者で食えなくなる前に引退しただけだ。」
ロバートさんは相変わらず、何手か先を読み話す。
自分は正直苦手だ。
「で、本題だが……。デグ、ミケを探してるんだろ?」
今度は黙って頷く。
自分は復讐を考えている。
叔父が至高神を奉じていたが、[正義]とやらは降っては来ない。
殺された者の無念は誰かが晴らさねば決して自然に晴れはしない。
「言っても無駄とは分かっているが、一応は言っておく、息子が2人ともミケに殺されたとあっちゃ、ドグに顔向け出来ないからな。」
確かにミケは人とは違う化物だ。
そして人として美しい姿をしているのが恐ろしい。
ロバートさんは自分ではミケに勝てないと見ている。
「復讐なんぞ止めておけ。復讐なんぞして、ジグが喜ぶと思うか?」
「思わない。」
自分は即座に呟いた。
兄者は復讐なんか望まないのは分かっている。
「だったら……」
ロバートさんが話すのを失礼を承知で遮った。
どうしても、伝えなくてはならない。
「だが、復讐はする。しなければ自分の気が晴れない。」
正直に告げる。
「デグ。自分の気晴らしに復讐するってのか?」
自分は再度頷く。
「死者は復讐なぞ望まない。復讐を望むのは生きている者だけだ。」
[正義]は降って来ない。
身内を殺された者の無念は自身で晴らさねば晴れはしない。
しばし沈黙が流れた。
そして溜息をついた後、ロバートさんは言った。
「なるほどな、で、あてはあるのか?」
「あの日の夕方、共和国行きと火蜥蜴行きの2隻の船が出ている。ミケらしきハーフエルフが、どちらにも乗船手続きはしていた。」
追手がかかると想定していたミケの偽装工作。
アリスから報告を受けた時は驚いた。
兄者を殺し、仲間を裏切って直ぐに冷静に対応するミケの能力と冷淡さに。
「違うな、夜に出た聖都行きの船あたりだろうな。そして、途中の補給地で下船しているだろう。それに男の1人、2人は連れてるかも知れない。覚えておけミケは、そういう女だ。」
自分は三度頷く。
ハルピアのアリスに手紙を書こう。
文字を学び続けているのは意味がある。
ロバートさんの助言を伝え、再度ミケの足取りを追わせるのだ。
「俺はミケが見つからない事を願ってるぜ。」
ロバート伯爵は最後に、そう告げた。
私の黒歴史がまた1ページ。




