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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第15章 王位と聖女

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敗軍の将

ブレナ視点です。

「敵襲!敵襲!」

傭兵達が叫びを上げて剣を抜き、また逃げ惑う。


私が打ち上げた照明魔法の下、50人からの冒険者達が傭兵達に襲いかかる。

奇襲を受けた傭兵達は逃げ出す者、殺される者、そして抗戦する者に別れた。


寄せ集めの冒険者達に出した指示は2つ。

一対一では戦わない事と逃げる相手は追わない事だけだ。

部隊の体裁さえ整ってない寄せ集めでは策を弄した所で実行不可能だし、難しい作戦などは害悪でしかない。


傭兵達は待ち伏せるつもりだった為か警戒は緩く、組織的抵抗を見せるのは約半数。

補給の要である馬車に、チャシブが火を放つとその半数も撤退を始めた。


これならば大きな被害を出さずに済むだろう。

そう思っていた時に、それは起こった。



「おのぼり冒険者風情に、俺は殺されんぞ!」

最後まで指揮を取り、剣を振るっていた隊長らしき人物が懐から乾燥した茸を出し口に入れた。

先日、チャシブと話した[狂戦士の茸]だろう。


「その男から離れろ!退却!」

急ぎ指示を出すが乱戦の最中(さなか)、もちろん直ぐには伝わらない。


片手半剣を振るって、囲んでいた3人を一気に斬り伏せる。

囲んでいた側の攻撃も命中したが意に介さない。


一番近くの冒険者達に襲いかかりまた斬る。

暴風さながらだ。


「ブレナ、ミノタウロスの時みたく、俺が気を引こうか?」

チャシブに提案されるが却下した。

今回の冒険者達はあの時の船員とは違い逃げに徹していない。

それにリスク取らずとも、狂戦士が燃え尽きる方が早いはず。

退却命令を出し、時間が過ぎるのを待つのが最善だろう。


「退却!退却!狂戦士とは戦うな!」

退却命令を受けて、冒険者達が逃げ始める。

相手側の傭兵達も期を逃さず闇の中に逃走して行く。


四半刻後、再結集した冒険者達を数えると40名を下回っていたし、その半数以上が大なり小なり負傷していた。




「おーい。チャシブゥ〜!ブレナァ〜!」

レイカさん達が帰路に着いていた我々の元に駆けつけてくれた。

デグとチャガラさんは徒歩、レイカさんは龍星号に乗ってだが3人とも怪我1つしなかったらしい。

すぐさま臨時の治療が始まる。


「治癒魔法の前に傷口洗って。怪我が元の病気は別に手間かかるから」

手際よく怪我人をさばいていくが、それ以上に底なしの神力に冒険者達は皆驚く。


普通、神聖魔法での治療は神官や司祭1人に付き3〜5人。

重傷なら複数神力使うので平均的な神力なら、それが普通だ。

しかも、護衛仲間として無料。

感極まって泣く者も複数いる。


しばらくすると、周りが騒めいた。

私の元にチャシブが走ってくる。


「怪我をした傭兵共5人が投降してきた。『聖女様の慈悲に縋りたい』だと」

今の指揮官は私だ。

投降者を許すか吊るすか決めなくてはならない。

だが、聖女と言われたならレイカの意見も聞きたい。


「レイカは何て言ってますか?」


「『神に誓って投降するなら、癒やしても良いよ』だそうだ。」

初代勇者が居た世界でも、竜人族の祖の居た世界でも、紛争で負傷した者は敵味方なく癒やすのを理想としていたと言うし、そういう組織もあったそうだ。


もちろん理想と現実は違ったらしいが、レイカの居た世界もそうだったのだろうか?

結局、投降した傭兵達まで治療し、我々は妖魔の村に帰還した。

レイカの神力には、まだ余力がありそうだ。


改めてレイカが[聖女]であると実感し、また何故か空恐ろしく感じられた。

今回逃げた傭兵達はどうなるか?

通常は流れ者が警戒されづらく、傭兵上がりでも仕事がありそうなハルピアを目指すでしょう。

妖魔の村を迂回し、ハルピアまで徒歩10日以上。

怪我や食料不足で弱ればゴブリンが襲ってくるでしょうし、なかなかのサバイバルです。

落ち武者の末路は過酷なのです。


私の黒歴史がまた1ページ。

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