鏡
視点デグ
……は、一番関心が高い……
貸し切りの宿の一階を片付け、2階奥の安全な部屋にレイカ様が入られたのを見届けて自室に戻った。
レイカ様の部屋と1部屋挟んだ隣。
窓は鎧戸を閉めているし、裏口も片付けたテーブルや椅子で塞いだ。
こんな「待ち伏せてます。」といった宿に傭兵は仕掛けてくるだろうか?
チャガラさんが言うには、普通の村なら火をかけて、飛び出して来る所を逆に待ち伏せるのがセオリーらしいが、ここ妖魔の村で火をかけたら、妖魔兵に皆殺しにされるから無理らしい。
屋台で買った食料で簡単に食事を済ませ少し休む。
兄者の形見の片手剣。
簡単な手入れしかしていないが、斬れ味が落ちないのは魔剣だからの様だ。
愛用の戦斧も、いつの間にか聖性を帯びている。
きっとレイカ様のお陰に違いない。
少しウトウトとしていると、部屋に薄着の女が立っている。
自分は慌てて椅子から立ち上がった。
分かってはいる。
だが、どうしても気持ちを抑えられない。
「久しぶりね。デグ。」
「ああ、だがミケ。兄者の部屋はここじゃない。」
そう、兄者はハルピア郊外の墓に知らないハーフエルフと一緒に眠っている。
「ジグじゃなくて、貴方に会いに来たのよ。」
ミケが妖艶に微笑む。
ハーフエルフらしい美貌とスレンダーな肢体。
大半の男なら、オモチャにしておきたいと望む理想的なハーフエルフ。
「私には分かるのよ。ジグといた時も、いつも気にしていたでしょう。」
このミケは鏡だ。
自分の心が写し出されている。
鏡に写った姿に嘘だと叫んでも意味はない。
村にいた時から、兄の周りにはいつも女がいた。
収穫の祭りで踊ってほしいと女達に頼まれるのは兄だけだったし、村を出た時も密かに兄を見送っていた女を知っている。
自分はそんな兄を羨ましく思いながらも、関心がないフリをしていた。
もし、兄と比べてしまえば自分があまりにも惨めだからだ。
もし、叔父に村を追い出されずとも、兄が結婚したら、自分は村を出ていたかも知れない。
当時、自分は無学で、自身に関心がなかったから自覚してはいなかったが、言葉に出来ない感覚はあった。
いや、文字を覚えるにつれ、やっと感覚に名前を付けられる様になったのかも知れない。
「ねぇ、デグ。今は楽しみましょう。夜が明けるまでは、まだまだ時間があるわ。」
「そうだな。だがミケ。一つ訊いても良いか?」
恥ずかしげに、近づいてくるミケを見ながら尋ねる。
「何?」
「お前は今は何処にいる?」
ミケが不思議そうな顔をする。
「眼の前にいるじゃない。」
「いや、自分が探しているのは、兄を殺した本物のお前だ!」
自分は近づいて来たミケに飛びつき、首を締め上げる。
首を締められたミケ、いやサキュバスは藻搔く。
「今は変わりに、お前を殺しといてやる。いつか、必ず本物の貴様を殺す。」
ぐももった音を立てて、何かが砕けた。
頭の中にミケの声をした絶叫が響き渡る。
外が騒がしい。
自分は戦斧を持つと飛び出した。
兄者、闇冥で少し待っていてくれ。
必ず本物も、そちらに送るから。
デグは勘違いしていますが、聖性武器は偶然出来ます。
レイカが造ったわけではありません。
私の黒歴史が、また1ページ。




