聞き耳
ある補給兵視点
「野郎共!小休止だ!一刻で出発する。遅れるな!」
隊長の指示が飛ぶ。
ハルピアでの補給が遅れ、雨で道が泥濘み古い補給馬車の移動が滞った。
ハマった馬車を押したりした為、大半の兵は泥だらけだ。
だが補給馬車を置いていけるはずもなく、目標に半日以上遅れ妖魔の村に入った。
一刻の小休止。
水、食料の補給も、そこそこに村を出なくではならない。
本来なら数日は村に泊まり英気を養いたいが正直、隊には金がない。
金が無ければ、泥と汗にまみれた酷い臭いのする服も体も洗えないし、酒も飲めない。
今回の作戦を成功しない限り、部隊に明日は来ない。
「十人長集まれ。」
隊長の指示で兵長達が集まる。
隊長は大半の傭兵隊長と同じく正規兵上がりで、その頃からの名残りか十人単位で兵を管理している。
兵員総数は34名。
俺は文字が読め簡単な計算も出来たので、3名の斥候兼補給兵に配置されている。
だからこそ、隊に金がない事を把握しているし、他の一般兵が居ない隙に隊長が指示を出す事を知っている。
「a隊は村で[竜の卵]を仕留めろ。bc隊は先行して待ち伏せる。」
「奴ら以外は農民兵みたいなもんだ。簡単な仕事だろ?」
3人の兵長の前で隊長が喋る。
「俺の隊は単独で聖女だの魔術師だのいる冒険者と殺りあうのか?」
a隊兵長がグズる。
「俺らは2隊で倍以上の冒険者と戦う事になる。農民兵とはいえ数は力だぜ隊長」
bcも愚痴りだした。
金払いの悪い隊長の威光は衰えつつある。
「女が3人。しかも1人は聖女様だ。なかなか犯る機会なんざねぇぜ。魔術師にはコイツをあてがいな。」
小さな壺を渡す。
aは女好きで、しかも女を壊すタイプだ。
「使い方は後で教える。何なら魔術師の前で、あのちっこいの犯ったら面白いだろうぜ」
魔術師と女盗賊は付き合ってると知って煽るのだから、隊長も人が悪い。
「それにaが合流すれば兵差は減る。うまくいきゃ挟み打ちだ。ボロ馬車もマシなのに変えられるぜ?」
隊長は思ってもない事を言う。
隊長の本心はa隊が全滅しても[竜の卵]を1人、2人殺せれば良い。
それで充分足留めは出来る。
そうすれば残りの隊でも護衛冒険者達と互角には戦えるはず。
獲物はこれ以上、肥らないのだから、分前を渡す人数は少なけれれば良い。
先の事は資金繰りを立て直してからだ。
そんな所だろう。
「村に残るんだ、酒代ぐらいは前払いで頼むぜ隊長。」
aが下卑た顔のまま金をせびる。
「銀貨10枚を渡してやれ」
俺は隊長に鍵を借り、馬車の中の資金箱から金を出してやった。
「それと[竜の卵]からの収益金はうちの隊が貰うぜ。危険手当って言うやつだ」
aは笑いながら、銀貨の入った小袋を受け取り、bcは苦い顔してaを見つめる。
「酒は駄目だが、お前らも飯でも食ってこい。仕事が片付いたら浴びるほど飲もうぜ。」
隊長が兵長達に告げて解散になった。
破滅か延命か?
部隊の明日はどちらになるだろう。
この傭兵達は西から流れて来た部隊です。
私の黒歴史がまた1ページ。




