トバっちり
ブレナ視点です。
ちなみに[聖女]を発見した功績(表側)と[聖女]と手打ちをした(裏側)により、司教は大司教に出世しています。
突如訪ねてきた聖神教の大司教によれば、ジナリー王国の後継者争いは混迷を深めているとの事。
ただ王を目指す泡沫候補達は懐柔されて撤退するか、既に物理的、社会的に退場していて有力なのは残りは2人。
4男のコート・マフカマ・ジナリーと7男のタウアー・ボルグ・ジナリー。
それぞれ、有力貴族達が有形無形の後ろ建てになっているとの話だ。
「ふ〜ん。でも私には関わり合いのない事だよね?」
レイカさんは全く関心が無い態度を露骨にとっている。
聖神教の大司教といえば、貴族のみならず小国の王でも無下には出来ない権威者。
普通なら少しは萎縮しそうなものだが、冷夏さんの態度は変わらない。
チャシブが言うには、肝が座っているモードに入ったレイカさんは底が見えない怖さがあるそうだ。
「確かに、ご指摘の通りです。聖女様。ですからこそ聖女様のお力添えを頂きたいのです。」
「面倒くさいっすね。聖神教はどっちに肩入れしていて、いくらくれるっすか?」
「このバカ!」
チャガラさんが横から口を挟み、チャシブが慌てている。
確かに正直過ぎる言動だが、内心は私もウンザリしていたので分かる気がする。
「それが、その……」
今まで流暢に喋っていた大司教が口籠る。
「我々の教団の司教、高司祭の2人がそれぞれ、別の候補を……」
「さらに面倒くさいっすね。いっその事、西にある国みたいに共和国とかにしたらどうっすか?って、いっ!」
チャシブがテーブル下でチャガラさんの足を踏みつけている。
そして視線を、こちらに飛ばしてきた。
「それで大司教様はどの様にお考えなのですか?」
それを受け穏やかに尋ねた。
何故かレイカさんは私とチャシブをみて微笑む。
「それなのですが……どちらの勢力かは分かりませんが、神託で決めるべきだ。神意の代行者たる聖女様が認めた方が王位に就くべきと……」
最後まで聞かずにレイカさんが立ち上がった。
「むぅ!完全にトバっちりだよね?私に王様決めろって言うの?」
だが、大司教も負けじと椅子から離れ両手を付いて懇願する。
「このままではジナリー王国は内戦になります!聖女様のお力添えで事を治めて欲しいのです。」
[魅惑の伯爵夫人]の店内が、ざわついてくる。
それはそうだろう。
傍から見れば聖女が大司教を這いつくばらせているのだから。
「うーん。即答は出来ないよ。王様次第で国って繁栄したり滅んだりするよね?」
「大司教さま〜困ります〜ご依頼なら〜冒険者の店を通して下さい〜[竜の卵]へ〜指名依頼でよろしいですか〜」
デポさんがタイミングを見計らい声をかけてきた。
さすが一筋縄ではいかない古魔族だ。
その後、事務的なやり取りがあり、我々[竜の卵]はジナリー王国の王都に向かう事になった。
「前金でパーティ払い金貨40枚って、茶渋姉。冒険者って儲かるっすね」
「バカか?レイカが、[聖女]ってだけだ。マヒしてると破滅するぞ」
私の黒歴史がまた1ページ。




