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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第14章 旅司祭

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聖なる武器

トロールに宿りし勇者の魂(苦笑)


真夜中

私はラアナに起こされた。

ボンヤリ浮かんでいた月は遠くなり、あたりは静まりかえっている。


「イカレ司祭、アンデット共が近づいている。」

既にクララも起き戦闘準備を整えている。


「数はどれぐらいですか?」


「ざっと20。大半はスケルトンやゾンビの雑魚だが、ジャック・オー・ランタンと死霊騎士が1体づつ混じってる。」

ラアナは索敵能力は高いし、アンデットの知識もある。

普段のフザケた態度は演技かも知れない。


「アンタの神力はいくつだ?」


「4です。」

私の答えに大半の者は微妙な顔をするが、ラアナは違った。


「なら勝負になる。アタイは田舎娘を呼んでくるから、準備を頼む。」

そういうと、ラアナはクララを呼びに走っていった。




「田舎娘、アンタはジャック・オー・ランタン、イカレ司祭は死霊騎士を相手にしてくれ、通常武器が効かないからな。残りのザコはアタイが全部殺るからさ。」

ラアナの作戦にクララは狼狽した態度を見せる。


「私がジャック・オー・ランタンと?魔術で、すぐに殺されてしまいます!」

意識を集中し魔術に抵抗する術も無くはないが、正面から白兵すれば、そうなるだろう。


「クソ、これだから……いいか?てめえの武器はなんだ田舎者!長弓だろう?[死の燐光]の有効射程は大体10から30メートル、弓の有効射程は80メートルある。」

苛つきを押し殺した口調で話す。

魔術の射程距離は(術者の魔力差にも依るが)大抵は長弓より短い。


「イカレ司祭の[神聖付与]で矢尻を強化して射抜くんだ、田舎者。ただ二の矢までで仕留めろ。神力が足りなくなるからな。暗闇で相手は光ってるんだ、簡単なはずさ。」

口調は落ち着いているが、眼は違う。

外せば殺すと言外に訴えている。


「異存はねえだろ?イカレ司祭」

私は頷いたが、1つだけ疑問を挟んだ。


「ザコとはいえ、数が多くありませんか?」


「安心しな。アタイの双剣の舞を見せてやるよ。特別講演だから、お代はいらねぇさ」

そうして、ラアナは口を歪める様に微笑んだ。




ボンヤリした灯りのジャック・オー・ランタンと、赤いオーラを纏ったゲショスが、亡者共を率いて近づいてくる。


「情けないねぇ。生きてる時だけじゃなく、死んでも逃げ出す事になるとはねぇ。」


「クレオ様、トロールの急襲で、生きた者の大半は死んだか、逃げ出しました。シュネッケ様も、このまま引き下がるとは思えません。」

亡者共の声が風に乗り聴こえる。


どうやら[第3クォーター]は、あのまま村に殴り込みを駆けたらしい。

つくづく変わったトロールだ。


私は2本の矢に神聖付与をかけるべく、祈祷を始める。

「至高神よ、この2本の矢に、聖なる力を、与え給え」[使2残2]

祈り終えると2本の矢が白い光を発した。


生きた者の気配を感じ、アンデット達がこちらに気が付く。

作戦が上手くいかなければ、数に劣る我々も亡者になり下がるだろう。


最初は弓からだが、クララは矢を掴むと無造作に弓につがえ引き放つ。

私は、てっきり狙いをゆっくり定めるかと思っていた。


「ビビり過ぎだ田舎娘、ちゃんと狙えよ」

ラアナが悪態をついた。

だが、放たれた矢は山なりに飛び、狙い違わず亡者たるランタンに命中する。


「田舎……いやクララ、アンタやるじゃないか!」


「手入れされた弓矢は正しく放てば正しく当たります。狙いを定めるまで獲物は待ってくれませんから。」

そう呟き二の矢を放てば、また当たりジャック・オー・ランタンは絶叫を残し灰になる。


「至高神よ、この者の姿、亡者より隠し給え」[使1残1]

クララを隠し、私とラアナは亡者共に向け駆け出す。


「イカレ司祭、そのモーニングスターに神聖付与しなくていいのか?」


「しますよ。もう少し近づいたら。」

私は祈るふりをする。

だが、それは嘘だ。

このモーニングスターは恩人から受け継いだ[神聖武器]だから神聖付与は必要ない。



何度も神聖付与をする、もしくは強く神聖付与をすると神の力が武器や防具などに宿る事がある。

俗に言う聖剣などはそうして出来た物だ。


それを教団では[聖化]と呼んでおり、厳密な儀式で作る魔力付与と違い、偶然出来る聖なる武器は魔剣よりも、さらに希少価値が高い。


魔剣はコストを気にしなければ作れるが、聖剣は偶然に出来るのを待つしかない。

何万回と神聖付与しても駄目な時は駄目だし、逆に一度の付与で出来る時もある。


このモーニングスターは私を邪教から助けて出してくれた旅司祭が遺してくれた物と聞いており、[聖化]済みである事は確認している。


もちろん教団にも秘密で、魔術で確認してくれたクーア隊長以外に知る者はいない。

世界に僅かな聖なる武器と知られたら、間違いなく没収されるだろうし、計り知れない金銭価値に釣られる者も出るだろう。

私にとっては恩人の形見の大切な愛用武器に過ぎなくても。



「さて、開演と行こうか!イカレ司祭」

私は黙って頷いた。

モーニングスターの風切り音はいつも通りだ。

さり気なくですが、デグの戦斧は聖化済みです。

過去の話を読んでみてください(広告)


私の黒歴史がまた1ページ

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