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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第14章 旅司祭

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同行者

ハイレン視点です。


愛は人を殺すが、憎しみは人を生き延びさせる。

[第3クォーター]と語った何かの物語りの1節。

それをクララは地で行っている。

シュネッケ隊にいた時よりも、視線が厳しくなった。


街道をなるべく通らず歩き、街道を通る者を観察すると、夜間にアヘンブロックを括りつけられたスケルトンやゾンビが聖都方面に向けて歩いてゆく。


今から思えば、最初の村もアヘン密売に一枚噛んでいたのだろう。

クレオとか呼ばれていたジャック・オー・ランタンは死してなお、薬物密売に励んでいるらしい。


「[どうするハイレン]」


「[どうするも、私達は南国街道へ抜けます。シュネッケは今頃、本当の100人隊を整えているでしょうから]」

シュネッケの事だ、最初から威力偵察と盗賊ギルドの浸透を見る為の部隊だった可能性もある。

ただ予想よりアンデットが多く、また浸透が深かったのだろう。

流石に肝を冷したはずだ。


[第3クォーター]との話をクララに伝えると、相変わらず微妙な顔をしながら答える。

「それならば、用水池の辺りを抜ける道があるはずです。」

出発前の事前ミーティングで聞いたシュネッケ隊の進行路らしい。


「しかし、トロールと普通に旅をしているのには慣れません。いつ喰われるかと思うと……。」

これに関しては私の感覚が、おかしいのだろう。




翌日。

一面の芥子畑を左手に見ながら、用水路代わりになっている小川の側を歩く。


クララにパーティ名[茶色い雪兎]を伝えると、「野兎なら父と一緒によく狩りました」との返答で[第3クォーター]が笑っていた。


クーア隊長のネーミングセンスは謎だったが、厳しい条件でも最善を尽くす、有能な隊長だった。

少なくとも、軍法会議で縛首にされる様な人ではなかったはずだ。


昼過ぎぐらいに池を改良した用水池の辺りに着いた。

ここから、右の道なら南国街道、左の道ならソート村。

至高神の神官として、左に向かいたくなる衝動に駆られ、一瞬足を止めると池の少し上の空が光った。


光から冒険者が1人落ちて来て、重い水音を立てる。

「糞!どうなってんだこりゃ?」


「あの腐れドワーフが!必ず、殺してやる!」

悪態を付きながら、盗賊風の装備をした女が池から上がってきた。


「貴女はいったい?」

クララが遠慮がちに話かけると、女は更に悪態をつく。


「冒険者だよ。見て分かるだろ?それとも、天から落ちてきた聖女様にでも見えたか?」

そして逆に私達を見て尋ねる。


「あたいが酷く酔ってるか、転移魔法で頭がヤラれてなきゃ、隣に突っ立ってるのはトロールだろ?」

私が肯定し、旅の仲間だと紹介すると笑い始めた。


「司祭様、なかなかイカした冗談だ。旅の仲間だって?トロールのディナーの3品目になるつもりはないぜ?」

クララが微妙な顔をし、私が説明を続けようとすると、[第3クォーター]が話けてきた。


「[今の光が村の密売人連中に気がつかれたようだぞ。4〜5人こちらに来る]」

確かに微かに声が聴こえる。


「[俺が相手するからハイレン達は逃げろ。また後日にでも合流する。]」

[第3クォーター]が左の道を駆け出し、私達は右の道を駆け出した。


「本当に妖魔使いのイカレ司祭なんだなアンタ。アタイはラアナ、ケチな盗賊さ。」

こうして変な同行者がまた増えた。




「ところでイカレ司祭。1つ聞きたいんだが……」


街道を少し離れた夜営場所で、ラアナが話かけてくる。


そういえば、昼間は追手を恐れ、ひたすらに歩いていたので、自己紹介もしていない。

クララは芋と干し肉を煮込んでいる。

そろそろ出来上がりそうだ。


「私はハイレン。あの娘はクララ。訳あって軍を抜けたばかりです。一応冒険者としてのパーティ名は[茶色い雪兎]です。」


「いや、アンタの名前や田舎娘の名前が聞きたい訳じゃない。」

相変わらず態度は悪いが、さり気なく辺りを警戒している様子から、冒険者としての経験は浅くはなさそうだ。


「ここはどこで、今はいつだ?最後に見た月の形とずいぶん違うし、どう見てもここは島じゃない。」


「イカレてるのは貴女の頭の方ですね。ラアナさん。」

完成したスープを持ってきたクララが今日の日付と現在地を告げ、私とラアナに渡す。


「クソ、そんなに時間が立ってるのか。それに聖王国の聖都近郊だって?」


「アヘンの吸い過ぎで、頭がおかしくなってるのではないですか?」

クララが食事を始めながら、追い打ちをかける。


ラアナは多分ランダム転移の罠か何かにかかったのだろう。

時間と空間を越えるそれは、魔族の遺跡に稀に見られる致命的な罠だ。


「酒は飲んでも、アヘンはやらねえよ。しかし……遺跡探索は……クソ!」

呟くラアナに私は声をかけられずにいた。

クララが奇妙な顔で空を眺めていたので私も上を向く。


今日の月は何故か赤く、低空にボンヤリ浮かんでいる。

少し長い夜になりそうな予感がした。

私の黒歴史がまた1ページ。

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