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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第14章 旅司祭

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遠投

[第3クォーター]視点です。


ハイレンに渡した妖魔笛の音が聴こえる。

アンデットが来るのを知らせてやったし、強制徴募から脱走するチャンスだったはずだ。


しかし、ハイレンは、それを潔しとはしなかった。

不器用な女だ。

だが、そんな所がハイレンらしい。


最悪の場合ハイレンを攫って逃げ出すとしよう。

トロールに攫われたなら喰われると普通思うはずだ。


俺は跳ぶ様に走ると、スケルトンやゾンビを蹴散らし、ハイレンの元に辿り着いた。

下級のアンデットなど、俺の敵ではない。


「[呼んだかハイレン]」


「[ごめんなさい、第3クォーター]」

いつものモーニングスターでスケルトンを粉砕しながら、ハイレンが言う。


「[私のエゴで面倒に巻き込んでしまった。]」

相棒の言葉に俺は笑ったが、トロールが顔だけ笑っても気づかれないかも知れない。


「今だ!退却せよ!」

馬に乗ったデブ女が短い日本刀を振り回しながら指示を出す。


「死んでもらうよ。司祭達。」

フワリと、人間の頭の姿のアンデットが近づいてくる。

魔術を使われると面倒だ。

俺は素早く近づくと片手でアンデットを掴んだ。

そしてボールの様に、思いっきり投げる。


何故か知らないが、あのアンデットがジャック・オー・ランタンで、[通常攻撃無効]と瞬時に理解出来た。

頭に何かインストールでもされているかの様だ。

そして遠投だが、前世の時とは肉体がまるで違う。


300メートル以上、ジャック・オー・ランタンは飛び、木に激突した。

ダメージは与えられてないが魔術は届かないだろう。

それに浮遊する速度は早くない。


「[ハイレン、こっちだ]」

退却する部隊について行こうとしている、お人好しな相棒に声をかけ、反対方向に逃げる様に誘導した。

何故か弓を持った女もついてくる。


しばらく走り、その後一刻程歩いて俺達は小休止した。




「[第3クォーター、ありがとう。そろそろ灯りを点けても大丈夫?]」

そういえば、俺はハッキリ見えているので気にならなかったが、2人は僅かな月明かりだけで歩いていたのだ。

悪い事をした。


「[大丈夫だ、近くにはゴブリン一匹居ない。]」

ハイレンは頷くと火打ち石で器用に種火を点け、ランタンを灯す。

俺は前世では直接火を使わない生活をしていたので、マッチさえ使えるか怪しい。

風呂にしろボタン1つだったし、たまに自炊するコンロも電気だった。


「ハイレン司祭。このトロールは……」

弓を持った女がハイレンに質問している。


「私の旅の相棒の[第3クォーター]、ついて来ていたトロールは彼。」

弓使いは驚いた顔をしている。


「エルフ語が喋れるなら直接話せるけど……」

弓を持った女は首を振った。

俺も人間共通語は理解できるが、上手く話せない。

人間共通語は酷く発音がしづらいのだ。


その点ハイレンはエルフ語も流暢だし、理知的で物語り好き、良い話相手だ。

俺が人間に転生していたなら、付き合ってくれと告白していただろう。


「その……危険はないのですか?」


「大丈夫。こちらから攻撃したりしない限り。」


「[よろしくな]」

俺は一応挨拶する。

ハイレンが通訳すると、クララと名乗った。


確かに必要ないなら、人間と戦いたいとは思わないし、前世の記憶があるから人間を食べる気にはならない。


ただ、ゴブリンやイノシシなどを生で食べるのに抵抗がないのはトロールの本能と上手く融合しているのだろう。


「[朝まで休んだらソート村方面に向かいます。村を掠めて進めば南国街道に合流出来るはずです。クララは何処かの駐屯地まで連れてゆけば大丈夫なはずです。]」


「[国の規則や地理は全く分からない。ハイレンに任せる]」

2人で話をしていると、クララが自分も仲間に加えてくれと、言い出した。


「今回の夜襲で実力不足を実感しました。このままでは軍に戻っても遠からず戦死します。私はあの村長に報復するまでは生き延びたいのです!」


俺とハイレンは顔を見合わせた。

私の黒歴史がまた1ページ。

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