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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第14章 旅司祭

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100人隊

ハイレン視点です。


「ハイレン司祭、任務の説明をいたします。」

ゲショス10人兵長がテーブル横に直立不動で立ち、説明を始める。


シュネッケは宿に取った部屋に入り、新兵達は村外れの野営テントに戻った。

見た所、基礎的な訓練は流石に終了しているが、練度不足は否めない。


「先日、聖都を騒がせた…………」


ゲショス兵長の説明によれば、盗賊ギルドの一派が阿片の密売や薬草の買い占め等を行っていたのを先日、内務省軍が摘発したらしい。


その中で大半の犯人は捕らえ、首を刎ねたが、逃げおおせた者もいるらしくシュネッケ隊は、その残党を追っているとの事だ。


「…………晒されていた首謀者の女の首を広場から盗み出した者がおります。その者を捕らえ、首を取り返す。これが我らに課された命令です。」


「敵戦力の概算はどうなってますか?軍務省は100人隊が相当との分析ではないのですか?」

軍務省の参謀は数字しか見ない。

100人いる事になっている部隊と互角の戦力分析なら、少なく見積もっても兵数は6〜8倍、下手すると10倍の敵と戦う計算になる。


「シュネッケ様は本来冒険者を派遣すれば済む仕事だとの分析です。」

そこまで話すと彼は野営地に戻って行った。



翌日

私はシュネッケ隊に加わり行軍していた。

馬に乗ったシュネッケと物資を運ぶ荷馬車を中心に前後5名づつの兵が歩く。


私を含む前方の5名が女性兵、荷馬車の御者のゲショス兵長、騎乗したシュネッケと続き後方5名が男性兵の隊列になっている。

通常の10人隊には荷馬車など付かないから、一応100人隊の体裁だけは整えたのだろう。

私とシュネッケ入れても12名しか居ないのだが。


そういえば、官給品の丸い小楯を支給された。

盾には略式だが聖王国の紋章が入っているので官軍の一員になったという証だろう。


行軍予定は3日後にムーミエ村に寄り、目的地のソート村には7日後。

ムーミエ村でも冒険者などいれば、私の様に臨時徴募も行うそうだ。

だが、昨日泊まった宿の店主はムーミエ村に触れてなかった。


政治的な理由か、経済的理由か、何か訳が有りそうとみてゲショス兵長に尋ねるが情報はないとの返答だった。

第2傭兵隊なら死んだギフトの様な偵察兵が必ず1人はいるのだが見た所、農村から志願した兵士しか居ない。


第1傭兵隊は形式上志願兵だが、実情は農村から食い詰めた男女を集め訓練している部隊だ。

魔王戦争時に魔王の兵農分離に対抗して作った常備軍なのだが人間同士の戦争で役に立つ事が多かった歴史を持つ。

真似をする他国もあるが、財政に余裕がないと平時に兵を育て維持するのは難しい。



一刻程進むと道の右側に大きな岩が転がっているのが見える。

私は岩陰で用を足すフリをして隊を離れ近付く。


「[強制徴募されました。しばらくは部隊から離れられません。]」

エルフ語で呟く私。

「[適当に付いて行く。イザとなったらこれを吹け]」

相棒のトロール、[第3クォーター]から犬笛の様な物を渡される。

行軍予定を伝えて部隊に駆け足で戻った。


「斥候に使えそうな兵を1人女性兵から見繕ってくれ。」

馬上から声をかけられる。


「単独行は屈強な男性兵がよろしいのでは?」

兵長が口を挟む。


「黙れゲショス。男を見つければ殺そうとするが、女は捕らえ楽しもうとするのが人間だ。ハイレン、頼んだぞ。」

私は了承と敬礼をしたが、正直気が重い。

少しでもマシな兵を選ばねばならない。



夕方

日が沈む少し前に、街道の傍らにテントを張り夜営の準備をする。

夜営準備を手伝いながら5人の女性兵士を観察していたが、私には皆が農民兵に見え適任者など分からない。


だが、その内の1人が話しかけできた。

「ハイレン従軍司祭よろしいでしょうか?」

私が頷くと彼女は続ける。


「昼間、道に岩に擬態したトロールが居ました。夜営中に襲撃してくる恐れがあると思います。歩哨を増やす様にシュネッケ様に進言していただけませんか?」

軍規の比較的緩い第2傭兵隊の特務班にいた私は直接話せば良いと考えてしまうが、100人隊の一兵卒が100人長に進言するには10人長を通すのが筋だ。


特に平民が貴族に話しかけるのは難しい。気分を害せば有形無形の攻撃を受ける。

現に私はアロマに殺されかけている状況なのだから。


「貴女の名前は?今の歩哨は2人ですか?」

トロールは[第3クォーター]の事だから大丈夫とは思う。

しかし、トロールの擬態を見破れる彼女と部隊の現状を知りたくて質問をした。


「ラウド村のクララです。歩哨は1人で2交代。夕食時のくじ引きで決めてます。」

唖然としていると、クララが続けて話す。


「シュネッケ様曰く『聖都近郊で歩哨を立てるのは無駄だ。曲がりにも軍の部隊に仕掛ける盗賊は居ないし、ゴブリンは数で負ける襲撃はしない。気になるなら最低限の人数にしろ。誰が立つかは、くじ引きでもするがいい』と……」

溜息が出た。


私はクララを連れて、シュネッケのテントに向かう事にした。

聖王国は事実上徴兵された常備軍を持っている強国です。

が、腐敗具合もあり、人間世界に覇を唱えるほどの力はありません。


私の黒歴史がまた1ページ。

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