花嫁道中
チャシブ目線です。
「菖蒲。落ち着いたら[簡易神殿]を開きなさい。必要な人員や設備、薬草は送るから。」
花嫁衣装を纏い、馬に横向きに座るアヤメに向かい鈴蘭さんが告げる。
「母上……。」
「幸せにおなり。」
アヤメに角はないが、角隠しをつけ紅などの化粧をした姿は良いとこの令嬢にしか見えない。
これから龍鱗の里を出て、隣の里まで行く花嫁道中が出発する。
通常なら男親も見送りにくるはずが、太守となったアヤメの父は帰宅せず、かわりに里長が見送りの挨拶をしていた。
「綺麗っすね……。」
「まさかアヤメの花嫁道中に参加するなんて思ってなかったよ。」
[竜の卵]の女性陣はそれぞれ感想をもらす。
俺も女だから、こういう花嫁に憧れはある。
まぁ、こんな儀式っぽい事は到底出来ないのは分かっているのだが。
正装のあるブレナとレイカ以外は借り物の衣装での参加になり、夕暮れの道を提灯で照らしながら進む。
竜人族に伝わる道中謡を歌いながらなのだが、馬につけられた鈴の音が何とも言えない雰囲気を醸し出す。
「茶渋姉、冒険者って儲かるっすか?」
歌いながら歩くのに飽きたのか茶殻が話かけてくる。
「普通は全く、儲からねぇよ。稼いだ日銭の銅貨をチマチマ数える生活だ。」
そう、普通はそうだ。
[竜の卵]が普通じゃないんだ。
「そうっすよね、じゃあ何でチャシブ姉は冒険者になったんすか?」
「シノギをこなして、ギルドに上納金納める生活が嫌になったんだよ。」
シノギでは失敗や不運から、知った顔が斬り殺されたり、捕まって鉱山送りになったりしていた。
俺も、もちろんギルドには色々教わった恩があったが、命懸けで返す程じゃなかった。
「怖気づいたのか茶殻。」
「違うっす。あっしは妖魔神の啓示受けてから冒険者になるのも悪くないって思ってたっすよ。」
「じゃあ何で俺が冒険者になった理由なんて訊くんだ?」
確かに俺がこの島を出た時、茶殻には
冒険者になるとしか言わなかったが、今更何故だろう。
「いや、嘘っすね。正直少し怖気づいてるっす。白檀姉に言われたっすよ。『あんたもアタイを置いて行くのか』って。」
茶蕎麦姉……。
でも、この島に俺の居場所は既にない。
「[竜の卵]の他の面々は何故冒険者をしてるっすか?」
「キッカケは村を追われたからだ。今は兄者の仇を探している」
近くにいたデグが暗い声で呟く。
「キッカケは魔術師ギルドへの借金ですよ。」
ブレナは歩きながら歌の歌詞を書き留めようと、悪戦苦闘している。
後から訊けばよいだろうに。
「修行だよ。歩き巫女は種だからね。」
レイカが転生者な事はパーティの秘密だから、レイカは建前を答えた。
「上手くいけば、金貨を稼げる時もあるよ。もちろんリスクはあるけど。」
レイカは続けて言うが、[竜の卵]にいると金貨が普通に稼げると錯覚してしまう。
先日も[竜桃]の治療費用を払うと言って[竜白]の従者のリザードマンが銀貨1000枚の手形をレイカに持ってきた。
1ヶ月普通に暮せば銀貨10枚もあれば済むし、冒険者だから多少出費あっても20枚あれば余裕だ。
レイカは「治療費なんていらないよ。」
と断っていたが、デグに「従者にも立場がある」と言われ受け取りを了承した。
払える立場なのに、歩き巫女に報酬を払わないのは吝嗇の評判がたつ。
従者としては困った事になるだろう。
結局、レイカは妖魔筒の弾薬代に充てる事にしたそうだ。
「わかったっす。やっぱり冒険者は食い詰め者か変人っすね。」
茶殻は、やっぱりアホだ。
「おめえは……当人達の前で言う言葉かどうか、考えたりしねえのか?」
「あっしも、その仲間になるっすよ?」
そんな、やり取りにレイカが笑った。
「トラブルメーカー間違い無しだね」
レイカがそれを言うのか?と言う顔を俺を含め3人がした。
竜翼の里に近付くと、[竜白]側の出迎えのリザードマン達が提灯を持って待っていた。
竜白の姉の[竜桃]も提灯を咥えて待っていたのは驚きだ。
従者に提灯を渡し通訳を通して行列に話かけてくる。
〘我が弟の花嫁、菖蒲を送り届けていただき、龍鱗の里衆には感謝する。里長の館に祝い酒を用意したので、飲んでいって欲しい。〙
〘聖女殿と茶渋殿には[竜白]の館に席が用意してある。他の者が案内する。〙
そう言うと、[竜桃]自身は飛び去った。
レイカの言う象の様な体躯で、流石に村の中を歩くのは厳しいからだろう。
ただ、それでも小竜であり、[竜翠]様はその何倍もの体躯を誇っている。
しばらくすると、俺とレイカは新築の木の香りがする立派な館に通された。
将来の夢はお嫁さん。
男女共に生涯未婚率が上がりつつあるので、女の子の微笑ましい台詞とは言えなくなってきましたね。
「環境に適応した者だけが子孫を残すのが自然の摂理だろ?」
「人間の場合、環境の代わりに社会をつくった。だから、社会の不適合組は子孫を残さず黙って去るのも、また人の道だろう?」
友人が自虐的に呟いた台詞です。
私はビューティフルマウス世代説を唱えましたが(笑)。
私の黒歴史がまた1ページ。




