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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第13章 竜の島

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幽閉の湯

チャシブ目線です。

「やっぱり、いいとこの出じゃないかよ。」

一緒に湯に浸かっているアヤメに向かって呟く。

アヤメが首を傾げるので、俺は思わず湯をかけた。


「村で二番目に大きな屋敷、源泉から引いた露天風呂、渡り廊下で繋がった大地母神の簡易神殿、普通じゃないだろ?」


「私が家を出た時は、もっと貧しい村だったですし、屋敷も補修されずボロボロでした。変わらないのは、この露天風呂ぐらいです。」

アヤメ自身もわずか三〜四年での変わり様に戸惑っているそうだ。


「[紫陽花]のお陰ですよ。ハルピアに拠点が出来た事で、この村特産の[竜人シルク]や隣村の[陶磁器]の密貿易が順調だからです。」

突然、声をかけられた。


「お久しぶりです。母上。」

アヤメが湯舟から立ち上がり、挨拶をする。


私も立ち上がろうとしたが、転んで湯を飲み。

「ぇあ、は、初めまして、茶渋です」

とマヌケな挨拶をしてしまった。

気配なく現れたアヤメの母親に動揺する。

多分わざと気配を消して来たんだ。

アヤメが珍しく失笑しているが、この里の人はこれが当たり前なのか?

俺のスカウトとしての自信が溶けてなくなりそうだ。


掛け湯をして、湯舟に入ってきた鈴蘭さんに「娘がお世話に、なってます。」

と言われ、何とか「こちらこそ」と返答をした。


レイカが良く「私は聖女じゃないよ」と言うが、確かにそうだ。

鈴蘭さんと比べてレイカには聖女っぽい雰囲気がない。

纏う空気が違う。


それにアヤメの自己評価の低さも納得だ。

竜人として、威厳のある父、聖女の様な母に恵まれたにも関わらず、竜力、神力には恵まれなかったら、他の才能あっても厳しいだろう。


それでも、何も持たなく産まれた俺には少し、羨ましく思えるのだが。


「ケリーからの手紙に話がありました。レイカさんと協力して[石化病]の治療法を世に出せた様ですね。貴女を里から出した甲斐がありました。」


「大神殿ではレイカに出会い、大地母神の啓示も受けられました。母上には感謝しかありません。」

俺は湯舟から出た方が良いのだろうか?


「これからどうするのです?」

鈴蘭さんに問われる。

立ち上がろうとした俺をアヤメが抑えた。

確かに[竜の卵]としても将来にも関わる。


「歩き巫女を続けたいのですが、島全体を敵に回しそうです。」


「相手が[竜白]殿と言うのは?」


「可否を問われれば、異存はありません。全く知らぬ相手ではないですから。ただ、正直何故?と言う気持ちです。」


「茶渋殿は?」

今度はこちらが問われる。

仕方ないが、何故俺なんだよ。

せめてレイカなら……。


「アヤメは俺らのリーダーだ、抜けられるのは厳しい。」

冒険者[竜の卵]としての要はアヤメとレイカの二人だ。


「だが、一人の竜人としては他のアホウな娘に降婿されて世が乱れるより、アヤメなら安心とも思っている。何が正解か俺には分からねえよ。」

だが、アヤメが降りれば暗闘で間違いなく血が流れる。

俺は正直に気持ちを吐露した。


「では一度、竜翠様と話あってみましょう。今宵出掛けますよ。」

鈴蘭さんは、さも当たり前の様に言うと一度湯舟を出た。

話合うって、竜翠様って(ドラゴン)だよな?



「菖蒲と茶渋殿と月光草の採取に参ります。[菫(すみれ)]ついて来なさい。」

俺ら四人は日暮れと共に村を出た。


ここ数日、湯に入っている時以外は必ず監視がついていたが、今は菫と言う下女一人だ。

歩き方から俺と同業と分かる。

俺も以前、無意識に足音を出さないで歩いていたのを、デポやアヤメに指摘されたが菫もそうだ。

後で、そっと教えてやろう。


「菖蒲、菫を斬り伏せて逃げるのは止めて上げてね。」

小声で鈴蘭さんが菖蒲に呟いている。


「では、本当に竜翠様と話す為に村を出たのですか?私はてっきり……」

菖蒲が呟き返す。


「まぁ、背格好が似た菫なら他にもやり様はありますが……」

菖蒲の呟きに、菫が目を見開き顔が青ざめてゆく。


「ちょ、まじかよ菖蒲。」

俺が思わず声をかけると、鈴蘭さんが笑った。


「菖蒲は良い仲間に恵まれたのですね。茶渋殿が心配してますよ。」

菖蒲は表現を変えないが、何時でも刀を抜ける状態を、ようやく解いた。

最近になり、やっと一二三流の刀を抜いて居ない時の構えが分かってきた。


「この娘は目的の為に手段を選ばない時があって……。」

鈴蘭さんは笑って言うが、それは普通にヤバい。

冒険者には必要かも知れないが……。


「そんな事はありません。」

菖蒲は憮然とした顔で答えるが、俺はパライバ商会の時の遣り口を知っているので否定出来ない。


「では、菖蒲。背格好が似ている菫をここ数日の下女に指名した理由は何ですか?」

冗談めかしてだが微妙な問いを鈴蘭さんが発する。


「私が失踪するなら、追手を惑わせるのに死体があった方が好都合ですから。頭がなければ、少しは騙されるでしょう。」


「あの……。それって私が首なし死体になるって事ですよね?」

菫が遠慮がちに声をかける。


「私と茶渋殿に止められなければ、そうするつもりだったでしょう?菖蒲。」


「まさか、菫をからかうのは可哀想ですよ、母上。悪い冗談です。」

菖蒲は菫に笑いかける。

じゃあ何で、さっきまで抜刀の構えを解かなかったのだろう?

菖蒲は、やっぱりおっかねえ。

茶渋は何気にレベルアップしてます。


(伸びしろ大きいのは若さの証。若いって良いなぁとは思うだろう?)

年寄りくさいぞマドウ。それに私も若いよ~。

それに口調混ざってるよね?

(うーん、気の所為だろう。)


私の黒歴史がまた1ページ。

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