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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第13章 竜の島

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回想

アヤメ視点です。

三年、いや、もう四年になるだろうか?

戻らないと思っていた故郷に私は帰ってきた。


正確には一人前の歩き巫女になったら一度は帰る気持ちでいたが、少なくとも今ではなかったと言うのが正直な気持ちだ。


「アヤメ様だ。アヤメ様が戻られたぞ。」

村人が声を上げている。

私は様など付けて呼ばれる身分ではなかったはずだが、公になった許婚が竜白となれば是非もない。

もし実現すれば、この里は竜人五家と同格になるのだから。


しかしキッカケが十二年前の、あの事件だとは思わなかった。

だとすれば、竜白が同じ一二三流を学び幼馴染となったのも竜翠様の意思なのだろう。




その日、私は母の手伝いと称して薬草摘みに山に入っていた。

竜翠様の棲む山は基本人が入らず、またゴブリン等も近づかないので、子供でも安全に入れる山だからだ。


同年代の子供達は修行用の道を外れることは無く、薬草も基本的な物しか学ばないので山深くには入らない。


私は落ちこぼれで時間があったのと、薬師として学び始めて浮かれていたのもあり、山深く入りこんで遊ぶのが日課だった。


そして、その日は珍しい薬効ある花の群生地を見つけ時間を忘れて採取していた。

そして、思ったより時間が立っていたのに気付いた時には遅く、運悪く夕方から雨も降り出してきた。


慌てて山を下った私は道を誤り、山中を彷徨った。

今なら雨を避け日の出まで緊急食をかじり待機するだろうが、幼かった私には分かるはずもない。

体温を失い、朦朧とした意識の中、夜中近くになって竜穴に迷いこんだ。


『人間?夜中に訪ねくるとは、何事かあったか?』


「すいません、ドラゴンさん。上龍鱗の菖蒲と言います。道に迷ってしまいました。」

雨に濡れ、空腹を抱えていた私はやっとの事でそれだけ言うと座り込んでしまった。


『竜人の子供か。熱を失っておるな。[竜桃]その娘をこちらに。間違っても噛るでないぞ。』

馬ぐらいある小竜に引きずられ竜の足元に連れてゆかれる。


『すっかり冷たい。卵と同じ様に暖めるしかないようだな。[竜翼の里]のリザードマンは朝まで来ぬだろうし』

竜の懐に抱かれた暖かさに疲れが急速に浮かびあがってくる。

隣にはピンク鱗の小竜も体を丸めて休んでいた。

私の記憶はそこで途絶えている。



当時の私は「[竜人忍び]としての才覚は無し」とされたので、他の子とは違い修行は打ち切られていた。


村の忍びの稼業の事は一応秘密になっているので、単に指導役の大人から、「アヤメは竜影流道場に、もう来なくて良い。」と言われただけだったが、当時は泣いたりしたものだ。

以前、冷夏には自分で竜影流を選ばなかった様に見栄を張ったが事実は違う。


それでも、私は里長の分家筋だったので、母、鈴蘭に学び、薬師として育てられる事になったのは幸運だっただろう。


同じ様に[竜人忍び]になりそこねた女児数人は[葦原]にある、村の所有する娼館に表向きは雛として送られた。

そこで[情報収集]と様々な[悦ばせ方]を調教役の忍びに仕込まれると言う。

「アヤメなら[夜鷹組]の主力になれましたでしょうに」と言われた母が憤慨していたのを覚えている。



結局、私は翌朝来た竜翼の里のリザードマンに助けられた。

本来なら竜穴に許可なく入れば斬首なのだが、竜翠様の取り成しで不問となったらしい。

酷い肺炎で死にかけたが、駆けつけた母の治癒魔法で事なきを得た。


竜翼の里には神官どころか薬師も居ないので、それ以来逆に傷病人が母の簡易神殿を訪ねてくる様になるキッカケになったそうだ。


里に帰ってからは、両親と里長に秘密厳守を誓わされたが、怒られる事は無く逆に竜翼の一二三流道場に通う様に言われた。

峠を越え歩きだと、二刻近くかかるが、龍鱗の里に居場所がない私は喜んで通ったものだ。


そして数年後、竜翼の長に育てられている[竜白]と道場で出会った。

毎日の様に訪ねてくる彼の()[竜桃]と共に遊んだものだ。

しかし、[竜白]か……。

私は白髪のハイリザードマンの顔を思い出していた。

友人に「何か暗い話多いな。」と言われました。

どうなんですかね?


私の黒歴史がまた1ページ。

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