戦闘報告
あるリザードマン視点です。
リザードマンどうしなので、リザードマン訛のない日本語でお送りします。
「竜人のアヤメとやらは、まだ見つからぬのか?」
姫様は不機嫌さを隠さず、苛立だしげに尻尾を揺らす。
私を含めたお世話係の数人が嵐を避けるかの様に働いている。
「既に火蜥蜴の街を出ているでしょう。」
誰も答えないと更に不機嫌さが増すので、予想を口にしかけたが、思い留まる。
[真実は必ずしも幸せをもたらさない]
と言う言葉を思い出したからだ。
「歩き巫女のレイカという不心得者は捕らえたか?」
姫様は重ねて問う。
そちらは今、足軽組を一組追手に出している。
「竜翠様を唆したる罪、許し難い。そうであろ?」
皆が黙っているので、一人の新人お世話係が肯定の返事をしている。
私が普段から無口で過ごしているのは、こういう時の為だ。
[口は災いの元]
つい最近も姫の不興を買った同僚が一人、太守からの叱責の責任を押し付けられ自害させられた。
お世話係が足軽組を動かせるはずが無かろうに。
だが庇えば災いが我が身に及ぶ。
器の小さい主に仕えるには小狡い器用さがいる。
不器用な者は淘汰されるしかないのだ。
外が騒がしい。
「何じゃ?不心得者でも捕らえたか?」
姫は相変わらず行儀悪く、尻尾を揺らしている。
「歩き巫女を追った足軽組が戻りました。」
外を見てきたお世話係が報告に戻って来た。
「そうか。で、首尾はどうじゃ?足軽頭は何故報告に来ない?」
「あ、足軽組は戻りましたが……足軽頭のアロガン殿は討死されております。」
言いにくそうに追加報告をする。
「歩き巫女の護衛如きに不覚をとったか?まぁ、陣頭指揮を取る、足軽頭となれば是非もなしかの。」
姫様は、ほんの少し悼む様な顔をした。
だがそれも一瞬。
「で、歩き巫女の首は?首実検をいたす。持って参れ。」
改めて姫様は命じる。
「それが……。取り逃がしたそうにございます……。」
再び、言いにくそうに報告をする。
「なんじゃと!足軽頭補佐を呼べ!」
「いや、しかし……。」
「我が命が聞けぬのか?行け!」
報告していた、お世話係は飛び出して行く。
「そして、そなた!」
突然、私は姫様に指名された。
「足軽共に戦いの様子を訊いて参れ。そなたの父兄は兵法学者じゃったろ?」
私は了解の旨を伝える。
今日は運が悪い。
「歩き巫女が南辻の大岩で待ち伏せしとった。アロガン様は妖魔筒で一撃じゃった。」
話を聞いた熟練兵は銀貨を握らせたら、湧き水の様に喋る。
妖魔筒?確かに至近距離からなら有り得る。
だが、それもせいぜい50メートルまで、足軽頭を討てたとして、その後はないはず。
「それが、どうも特別製らしくてな。遠くから弾が唸ってきよる。弓兵が射掛けたが話しにならん。」
詳しく聞くと250メートル先の大岩の上から撃たれ、手も足も出ずに次々撃たれたらしい。
「突撃した槍十人長なんぞ頭が半分、無うなった。割れた西瓜みたいにの。」
結局、亡骸の回収も叶わず生き残りの足軽達は逃げ帰った。
火蜥蜴の街の入口でバラバラでは街に入れない事に気付き、ようやく、まとまったと言う話だった。
戦いの様子をその後も足軽数人に聞いたが返答は変わらず。
歩き巫女は射程の長い妖魔筒を武器に効率良く戦った様だ。
今さっき、逃げ帰った槍十人長の元、部隊を再編し、10名が荷馬車を引いて改めて亡骸回収に向かった。
姫様に与えられていた足軽組は壊滅したのだ。
「姫様。以上の様に、とても戦いとは呼べない一方的な殺戮でした。最終的な被害は戦死者9名。死肉と装備類を漁っていたゴブリン達との戦闘での負傷者1名です。」
「いえ、戦死は10名になります。先程、治療の甲斐なくアンブル様は亡くなりました。姫様への御報告は叶いません。」
どうやら、闇司祭の治癒が間に合わなかった様だ。
私の前に出て行った、お世話係が横から報告する。
姫様も流石に事の重大さに気付いたのか黙ったままだ。
足軽組32名の内10名が討死。
しかも内4名は足軽頭、補佐、弓十人長、槍十人長。
しかも、一連の騒ぎは街の噂になる事、間違いなしだ。
「父上に申し開きをせねばならぬ。」
しばらく後ようやく、それだけ呟いた。
しばらくは姫様も大人しくなるだろう。
自分で書いて置いて何ですが、
「私は、このリザードマン以下だなぁ」
と思います。
器の小さい者に仕える器用さが足りない。
「自分、不器用ですから……」
と、言える強さもなく、仕え先を変えられる市場価値もない。
は!?また愚痴ってる……。
私の黒歴史がまた1ページ。




