有効射程
レイカ視点です。
後書き、オマケ付き。
忙しいなか、フロワさんと花さんが関所まで見送りにきてくれた。
あの後はこれと言って問題はなく、ただ太守様の派遣した衛兵達が神殿周りに増えたぐらいかな?
(問題ないなら衛兵は増えないと思うが……。)
昨日は大地母神殿に泊まり、夕食の席で、神官長さんは感謝と通行手形をくれた。
通行手形を見せれば街を出る関所もフリーパスらしい。
(つまり早く出てゆけと言う事だ。あの神官長食わせ者だな。)
マドウ。
いちいち、うるさいぞ。
装備や食料を整え、街を出て東に向かう。
出発直前、鍛冶屋さんに追加発注していた弾薬を受け取ったので鞄は少し重い。
ただ戦闘は火力と信じてるので仕方ない。
「レイカ、重そうだが大丈夫か?」
デグさんが、突然気遣ってくれた。
「何とか大丈夫だけど……。」
「なら、あの大岩まで走る。追手の気配がする。」
「ふぇ?」
私とデグさんは走り出したが、正直キツイ。
(大岩までつけば、少しは重さを減らす事ができるぞ。)
それって戦いになるって意味だよね?
マドウ。
私の問いかけにマドウは魔術で答えた。
そういえば、いつの間にか詠唱なしのイメージだけで魔術を使ってるよ……マドウ
(今話す事ではない。落ち着いてからだな。)
[高速詠唱][走力加速]×2[浮遊]×2[隠密][遠隔盗聴][遠視](使8残31)
「あの上級神官の首を取った者にハ、金20枚ダ」
大岩の上に着き、迎撃準備を進める私達に声が聞こえる。
(聞こえているのは、レイカだけだ。)
ではデグさんは、どうやって気配を感じたんだろう?
弾丸と火薬が入った紙袋を破り、[ミニエー式妖魔筒]に詰める。
約250メートルの距離に入ったら射撃開始だ。
そういえばマドウ。
(なんだ?)
この世界でも、メートルだし、キログラムだけど、どうなってるの?
(今、訊く事か?)
(まぁ良い、レイカのいた世界の旧式な方法を取っている。)
マドウ、もう少しわかり易く。
(魔族、妖魔族、聖王国、エルフ族がミスリル合金で作ったメートル原器、キログラム原器を、それぞれ持ち基準にしている。転生者から、もらった基準だ。)
うーん、生前の重さや長さの定義覚えてないけど、そんな感じかぁと理解した。
(さて、足軽頭が射程に入るぞ)
通常の[火縄銃]、この世界の[アルガ式妖魔筒]だと魔術により命中率上げても90メートルぐらいしか有効射程がない。
だが、この[ミニエー式妖魔筒]だとライフリングのジャイロ効果で、有効射程が270メートル。
魔術による命中率上昇も加味すれば兵力差を覆せるはず。
戦闘は火力だぞ。
(戦術だと思うぞ。)
引き金を引き、轟音が響くと、鎧を着込んだ騎馬武者が大蜥蜴から落ちる。
「アロガン殿!」
物騒だった隊長さん。
心臓付近に命中した。
多分即死だろう。
「どこからダ?」
弓兵の一人が、あたりを見渡し「大岩の上からでス!」と叫んだ。
そうだよね。
射撃されても伏せるとかの概念が、まだあまりないんだよね。
「アンブル様!」
2発目は偶然動いた大蜥蜴の頭を掠め副長さんの肩を貫通した。
大蜥蜴は走り去り、もちろん副長さんは落蜥蜴する。
弓兵が射掛けてくるけど、全く当たらない。
弓の射程内ではあるけど、まだ連携してないし、有効射程80メートルの外だから鎧を着たデグさんが前に居てくれるだけで怖くない。
そういえば、時計は発達してないから、時間の単位は曖昧なんだよなぁ。
魔術師ギルドだけは魔導具時計があるから時間しっかりしてるみたいだけど。
そんな事を考えながら、弓兵十人長さんを狙撃した。
指揮者二人を無力化したから、混乱している。
「なんだあの妖魔筒ハ?前に見たのと違うのカ?」
「鎧が紙のようじゃゾ!」
「伏せヨ!」
槍兵は大岩を、よじ登るには向いてないから、既に逃げ腰だ。
私達みたいに魔術で上がれないなら当然だし、デグさんが戦斧持って待ってるのに、よじ登る人は居ないだろう。
そして伏せたら弓は使えない。
膝立ちして射掛けてくる人もいるけど、逆に良い的でしかない。
その後、一方的に数名を射殺すると、総崩れになって逃げて行った。
どうやら生きていたアンブルさんは肩を借りて逃げて行ったので、後から撃ったりせずに見逃した。
「レイカ荷物を」
アロガンさんが乗っていた大蜥蜴が、私達が岩から降りて近づいても逃げずにいたので戦利品にした。
乗るのは二人とも無理だけど荷物運びには使える。
またアロガンさんの鎧で使える部分を外してデグさんが身につけている。
[ミニエー式妖魔筒]は圧倒的だった。
「うーん、これじゃあ幕府軍は、勝てないだろうなぁ」
私が思わず呟くと、デグさんは不思議そうな顔をした。
オマケ デグ視点です。
「デグさん。街を出るんだ。もう一回ぐらい来て欲しかったなぁ」
保存食を吟味していると、盗賊風の娘に声をかけられた。
確か湯屋であった女、アリスと名乗っていた。
「ねぇ、あたいを雇わない?本業はシーフなんだ。役に立つよ。」
「間にあってる。それに街の外じゃ、情報屋は役に立たない。」
「あたいの得意分野分かるんだ。じゃあさ……」
皆まで言わせず銀貨を1枚握らせる。
「街を出たら黄色達が後を追うよ。太守は『街中での厄介は止めろ』って言ったらしいから。」
「数は?」
もう1枚銀貨を出したが、受け取らない。
「神殿に押しかけた連中だけ。追加はいらないよ。あの時は信じられないぐらい良かったから……サービスしとく。」
笑いながら、片目を瞑ってみせる。
「機会があったら指名する」
そう告げると
「期待しないで待ってる」
そう囁いて女は去って行った。
私の黒歴史がまた1ページ。




