四面楚歌
アヤメ視点です。
昨日は奉仕活動で忙しく過ごした。
結局大地母神殿で夕食も、ご馳走になり煉瓦造りの聖堂の一室で一泊した。
今朝はリザードマンの神官見習いフロワさんが啓示を受けた報告があり、お祝いと下級神官への昇進式で昼近くまでやはり神殿にいた。
「リザードマンさんの信者さんや神官が増えると良いね。」
冷夏は何事もなかった様に話すが、聞けば、私と同じく冷夏との行動が女神の教えに触れるキッカケになったとしか思えない。
やはり冷夏は聖女なのだろう。
[双頭の蜥蜴]への帰り道。
屋台で混み合う表通りを避け、裏通りを歩いていると、刀を下げた竜人らしき四人組とすれ違う。
なんだろう?
違和感に振り向くと、やはり四人が振り向きざまに抜刀し斬り掛かって来ていた。
「冷夏!」
私は反射的に抜き打ちで一人斬ったが、冷夏は背中から斬られ倒れる。
「良い腕だ。やはり貴様が菖蒲だな。」
「大地母神殿まで行く手間が省けた。」
3人は刀を中段に構え、私を囲む様に油断なく構えている。
私は壁を背に八相に構えるが包囲を破るきっかけがない。
「わぁ、血がいっぱい出てる。背負ってた火縄銃もダメになっちゃったよ。」
突然、冷夏が大声を上げる。
あれだけ喋れるなら治癒魔法で傷は癒せるだろう。
そんな事を考えながら、冷夏の声に気が逸れた一人に斬り込み斬る。
しかし、いつもながら[杜若]の斬れ味は素晴らしい。
人が巻藁の様に斬れる。
残り2人が隙を見せた私に突きを放ってくるが足捌きで躱した。
竜影流程の連携もないし、竜牙流が突きでくるのは予測出来るので対応は出来る。
対して相手は、私の一二三流を見るのは多分初めてだろう。
「死神よ、その刃で、敵する竜人達を、裂け」(使4×2残24)
突然目の前の2人が大鎌で切り裂かれた様に二つに割れ倒れた。
「あれ?マドウ、真っ二つにしちゃったよ!」
冷夏が自分の魔法の斬れ味に驚いている。
私も正直唖然とした。
治癒魔法を攻撃に使っても、こうはならないし、普通は神力が持たない。
「大地母神よ、我が傷を、癒やし給え」(使1残23)
まるで照れ隠しの様に治癒魔法の声が改めて響いた。
「あの人達、菖蒲狙いだったよね?」
冷夏の確認に改めて愕然とする。
確かに破落戸を斬ったりしているし、パライバ商会絡みなども考えれば、何処で恨みを買っていても不思議ではない。
だが、竜牙流の遣い手4人に名指しで狙われる程の心当たりは?と言われたら、冷夏の方が余程あるだろう。
「早目に島を離れた方が良さそうですね。」
私の返答に冷夏は頷くが、さりとて何処に向かうかを話合わなければならないだろう。
ハルピアに戻るにはまだ早すぎる。
「でも、その前に斬られた神官着縫わないと……。後、鍛冶屋さんに火縄銃見せたいなぁ~」
見ると、鋼鉄製の筒の半分まで刃が通り、ダメになっている。
僅かな傷なら直る魔術による再生限界を越えているのは明らかだろう。
しかし妖魔筒を扱える鍛冶屋があるだろうか?
取り急ぎ宿に戻り対策を講じよう。
冒険者の店ならばギルドの力があるから安全なはずだ。
だが、そんな見通しが既に外れていた事を知るのは直ぐ後だった。
昼食時の宿に戻ると食堂のテーブルの片隅に既に茶渋達3人が待っていた。
3人ともジンジャー水を飲んでいるのを見て臨戦体制に入っているのが分かる。
「アヤメ、無事で何よりです。大地母神殿まで迎えに行こうか?と話していました。」
ブレナが私達を見て声をかけてきた。
「無事じゃないよぅ〜火縄銃壊れたよぅ〜」
席に付き追加のジンジャー水を2つ頼みながら冷夏が嘆く。
互いに起きた事の情報交換をすると事態はより深刻になっているとわかった。
「アヤメを狙っているのは竜人の五家の土の家とリザードマンの黄色の部族だ。理由までは分からないが、今度の臨時会合絡みらしい。」
茶渋がギルドから仕入れてきた情報を
話す。
「アヤメ、いったい何をしたんだよ。」
茶渋が真面目な口調で尋ねてくる。
木火土金水の竜人五家と赤青黄のリザードマンの三大部族。
その内の二つに狙われるとは我ながら呆れる。
しかも私には心当たりが全くない。
「しかも、太守が臨時会合終了まで、俺達[竜の卵]の乗船を認めない様にお触れまで出している。」
「怪盗蜥蜴小僧でも、怒らせたのは太守だけだったぜ。」
茶渋が伝説の盗賊を引き合いに出したが、私は忍者ですらない。
まさに進退窮まった。
「四面楚歌だね。でも項羽も垓下を脱して故郷に向かったよ。アヤメも一時故郷に身を潜めれば?」
冷夏の引用は意味が分からなかったが提案の意味は理解出来た。
その後、小声で作戦を検討すると、それぞれ別れた。
レイカは背中から斬りつけられましたが、背負っていた火縄銃が壊れただけで、傷は深くありませんでした。
え、都合良すぎる?
「むぅ、一応、主人公だぞ」
という事で。
私の黒歴史がまた1ページ。




